ジャーナリスト・須田慎一郎が3月14日、自身がパーソナリティを務めるニッポン放送『須田慎一郎のスクープ ニュース オンライン』に出演。総務省幹部が放送事業会社「東北新社」から接待を受けた問題について、「総務省人事」の観点から切り込んだ。
自治省出身者と郵政省出身者が交代で事務次官人事を回していく不文律だが
須田)大前提として、なぜこの話を取り上げたのかということからお話しします。放送通信の行政を司る総務省を舞台とした接待疑惑、接待スキャンダルというのが勃発しているのですが、どういうことかというと、放送関連会社の東北新社、上場企業ですね、ここに菅首相の長男が就職をして働いていまして、その長男を含めて総務省の幹部に対して接待攻勢をかけていた。山田広報官も、もともとは総務省のお役人さんなのですが、そういった意味で言うと、総務省の放送通信畑の幹部が、みんな軒並み東北新社から接待を受けていたじゃないか、やっぱりそこには菅さんの息子さんがいたから特別扱いしたのか、断れなかったのか、みたいな話になっているのです。実はこのスキャンダルが今年の夏の総務省の幹部人事に大きな影響を与える公算が大きくなって来たんです。
どういうことかというと、実は今年の夏、おそらく国会が閉会したあと、霞が関各省庁では人事が行われるのですが、今年の夏の人事では、総務省の事務方トップ、お役人トップの事務次官が交代します。現在事務次官になっておられるのは、黒田武一郎さんという方なのですが、この方が勇退されるということになって、事務次官が交代するということが確実視されていたのです。
総務省というのはかつて省庁再編でいくつかの省庁が統合して発足した、そういう役所なのですね。どこが統合したのかというと、旧自治省、旧郵政省、旧総務庁という役所があって、この役所が統合して発足したのが総務省なのですが、そういったところでバランスを取らなければならない。旧郵政省の人間だけがずっと事務次官をやるといろいろと問題が起こるので、実は自治省出身者と郵政省出身者で、とりあえず交代で事務次官人事を回していく不文律があるのです。別に、ルールが明記されているわけではないんですよ。そうしなきゃだめという決まりがあるわけではないけれども、そういうことによって、バランスをとっていこうと。
谷脇氏、吉田氏がだめになり、旧郵政省出身者の事務次官候補が不在に
須田)いまの事務次官の黒田さんはどちらなのかというと、旧自治省なのですね。そうなると、後任は旧郵政省出身者ということになるのですが、これは実は、このスキャンダルが出てくるまでは、後任の事務次官はほぼ確定していたのです。誰かというと、谷脇康彦(元)総務審議官。
新行)谷脇さんは、今回の接待の件で処分されましたよね。
須田)ある意味中心人物。ですから、資格がなくなったのですよ。やっぱり役人の世界というのは、そういった処分を食らうと「ちょっと次の事務次官には……」ということになりますから。これで資格を失った。そして、谷脇さんが資格を失ったということで、次に浮上してきたのがどなたかというと、1年後輩の吉田眞人さん。この方も総務審議官。谷脇さんもそうですし、吉田さんも総務省のなかではナンバー2のポスト。ナンバー2のポストは3人いますから。その吉田さんが浮上してきたのですが、この方も実は、東北新社から接待を受けていたということで処分を食らって「事務次官の任にあらず」ということで、事務次官にはなれないということになってしまったのです。旧郵政省サイドは総崩れなのです。そうすると、年次の問題から言って、有資格者がいなくなってしまったのです、旧郵政省に。
新行)それはどうするのですか。
須田)仕方なくというか、次善の策として、じゃあ旧自治省から出そうということが進んでいまして、そうなってくると筆頭で旧自治省から出すなら、この人以外いないだろうというのが、林崎理(おさむ)さん。この方がおそらく夏の人事で事務次官になるだろうと言われているわけなのです。現在総務省にいないんです。内閣官房の方で仕事をされています。
ちょっとご紹介しますね。「内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局地方創生総括官」……こういう仕事をされているのですが、非常に穏健な方です。加えて、この方、霞が関でも非常に注目されているのですが、なぜ注目されているのかというと、ふるさと納税ってありますよね。あれを制度設計した人なのです。
新行)そうなのですね。
須田)菅さんの命を受けてふるさと納税の制度設計をしてその功績が認められて内閣官房に招聘された方なのです。つまり、菅さんの覚えが極めてめでたい。菅さんこの方大好き、という。この方が、菅さんの天領と言われている総務省のトップにつくと。これは菅さんにとっても結果的に願ったり叶ったり。場合によっては焼け太りみたいな状況になる。
自治省出身の林崎氏では、郵政省テリトリーの通信・放送に手を突っ込めない
須田)ただ、ここからが今回私が一番申し上げたいことです。総務省の今年の2021年の大きなテーマが3つあると言われているんです。1つはデジタル庁が今年の9月に発足します。これも総務省がらみですから、今後ちゃんと仕切っていかなければならない。そしてもう1つがNHK改革。そしてもう1つが携帯料金の値下げ問題。これも処理して行かなければならない。いずれも旧郵政省マターの話なのです。
新行)でも、林崎さんは旧自治省ですよね。
須田)しかも、先ほど申し上げた谷脇、吉田ラインが全部仕切っていたことなのです。
新行)そうなのですね。林崎さんの専門ではないということですか。
須田)林崎さんがそこでリーダーシップを発揮しようとすると、「お前、何勝手に郵政省のテリトリーに手を突っ込んできているんだ」という反発が起こりかねないということで、なかなか一連の改革が進んでいかないだろうし、むしろ強力なリーダーシップがないから、NHKにとっても、あるいは、携帯電話会社各社にとっても、どうもいままでピリピリしていたものが緩んでいるような、なにかいい方向に行っているんじゃない? というような、そんな感じになってきてしまっている。
とすると、今回のスキャンダルでハッピーになったのはNHKであり、携帯電話各社ということになるのではないか。よもや、そこがスキャンダルを仕掛けたなんて、私も下衆の勘ぐりはしませんけど、まあ、NHKと携帯電話各社にとってみると、今回の接待スキャンダルというのは結果的によかったのではないかと思います。
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