それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
コロナ禍の影響で、2020年~2021年にかけての学校では、さまざまな行事や式典が中止、あるいは変則的な形での実施となりました。
入学式、卒業式、発表会、修学旅行、そして運動会……。生徒たちは素直に従ってくれたものの、その胸のなかにはやり切れなさや無念さが、決して晴れない霧のように降り積もっているのではないでしょうか?
鎌倉市の横浜国立大学附属鎌倉小学校・4年生たちの胸のなかも、そんな状態だったようです。鎌倉小学校の運動会は毎年5月に行われ、生徒たちの声援や歓声が1日中響くようなビッグイベントでした。
ところが去年(2020年)は、9月末に延期。リレーも応援団もなしで午前中だけで終了。4年生が出場したのは綱引きと徒競走だけという、形ばかりのものでした。達成感を得られない4年2組の生徒たちに、担任の先生が言ったそうです。
「そんなにつまらなかったのなら、2組だけの運動会をやっちゃえば?」
生徒たちはすっかりその気になりました。何回も相談を重ね、感染予防にも配慮しながら種目を選び、10月末に自分たちの運動会を実施したそうです。
ところが、準備や進行がもたつき、午前中で終わる予定だった運動会は夕方までかかり、生徒たちはすっかり意気消沈。しょげかえってしまったそうです。
そこで、担任のアドバイスで相談してみたのが、「運動会屋」というプロ集団。生徒たちに突き付けられたのは、「何のための運動会か?」という問いかけ。そこから、「本気で一生懸命」と「みんなで仲よく」という目標が生まれ、4年生全体でやる運動会のテーマが決まりました。
こうして迎えた2021年3月5日、季節はずれの手づくり運動会が実施されました。「みんなで仲よく」のスローガンに合わせて、クラス対抗はなし。4年生全体を3つのチームに再編成。足の速い子は3チームに均等に割り振り、みんなが出たい競技に出られるよう、事前アンケートを実施しました。
審判も放送も生徒が担当し、この模様はライブ配信。およそ100人の保護者が家から声援を送ったと言います。
鎌倉小学校の生徒たちの夢を後押しして、それを実現させた「運動会屋」とは、いったいどんな会社なのでしょうか?
株式会社運動会屋は、2007年に設立された会社です。代表取締役の米司隆明さんは、1980年・山口県出身。小さいころからの夢は「社長になること」だったと言います。
大学を卒業した米司さんが最初についたのは、金融関係の営業の仕事。厳しいノルマと上下関係、1日に十数時間にも及ぶ労働時間。同僚が自ら命を断つような職場で必死に考えたのは、「何のために働くのか?」ということでした。
そんな悩みを相談しようものなら弱音と受け止められ、「根性がない」「気合が足りない」という集中砲火を浴びるだけ。米司さんは、その会社を辞めました。
次に選んだのはIT企業。ここはまた奇妙な会社で、社員同士の会話はなし。シ~ンと静まり返った職場だったと言います。隣席の社員への用件でもチャットを使って連絡する。生身の人間関係を構築できない職場に感じたのは、激しい違和感だけだったそうです。この会社も、間もなく辞めました。
学生時代、野球をして来た米司さんの胸によみがえったのは、お互いを尊敬し、信頼できる絆、言葉も必要ないほどの強い結束力。「あれだ!」という思いでした。
インターネット社会のなかで失われつつある、リアルなコミュニケーションを取り戻すために設立したのが、「NPO法人ジャパンスポーツコミュニケーションズ」。これが「運動会屋」の母体となります。
選ばれたアスリートだけでなく、誰もが参加できるスポーツ、運動会を企画・プロデュース・運営する。最初は「社内運動会をやりませんか?」という提案も、まったく相手にされません。景気低迷のなか、「社内運動会なんて時代は終わった。考え直した方がいい」と助言される始末だったと言います。
しかし、「ニーズがないことなど気にしなかった」と米司さんは振り返ります。
「自らが感じた『現代の異常さ』を信じ、アルバイトで生活をつなぎながら、運動会を売り込み続けたんです」
こうした努力が実を結び、スタート当初は年間5件しかなかった受注も、年に200件を超える会社に成長しました。米司さんは、2015年から運動会の海外展開をスタート。タイ、ラオス、インド、アメリカ、アフリカ諸国など7ヵ国で運動会を開催したそうです。
日本独特の文化である運動会の意義は、なかなか理解されませんでしたが、丁寧に説明を重ねました。運動会には、国境、宗教、年齢、性別、貧富の差などを超える力があると確信しているそうです。
米司さんはこれまでに、『会社の悩みは、運動会で解決しよう!』『チームの一体感を高める“社内運動会”の仕掛け』という2冊の本を出しています。この本に書かれている数々の素晴らしい成功体験を読むうちに、同僚たちの声援を浴びながらテープを切る自分の姿を想像してしまうのは、私1人ではないでしょう。
運動会は古きよき日本の遺物などではなく、コロナ終息後の未来を切り拓くための、鍵のような気がします。
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