株価はこれまでのようには上がらない~見極めなくてはいけないこと
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(4月1日放送)にJPモルガン証券・チーフ株式ストラテジストの阪上亮太が出演。前年度からの値上がり幅が過去最大になった2020年度の日経平均株価について解説した。
2020年度の日経平均株価、前年度からの値上がり幅は過去最大
3月31日の東京株式市場で日経平均株価は5営業日ぶりに反落し、前日比253円90銭安の2万9178円80銭で取引を終えた。年度末の株価としては3年ぶりの上昇で、この1年間で1万円あまり値上がりし、値上がり幅は過去最大となっている。
飯田)コロナ禍ではありましたが、年度で見ると1万円を超えて値上がりしたということです。この相場はどうご覧になっていましたか?
阪上)昨年(2020年)の3月に、コロナ禍で株式市場が大きく下がり、そこから切り返して、この2020年度に関しては基本的に、右肩上がりという動きになりました。株式市場でのそういう動きを受けて、「コロナがまだ大変なのに、株だけこんなに上がるのはおかしい」とか、「バブルなのではないか」という声もあります。しかし、基本的には、企業業績にしても経済にしても、「先々よくなるだろう」ということを、マーケットは織り込んでいますし、いまのところ、マーケットの見立てに沿うような形で、企業業績も改善して来ています。その意味では、あまり不自然な株価の上昇ではないということなのだと思います。
金融政策がどうなって行くか~この先は2020年のような一本調子の株高にはならない
飯田)各国、金融緩和をして市場にどんどんお金を出していることもあるので、「感染相場」ではないかとか、「日銀が買い支えもしているではないか」という批判もあります。実際に毎日マーケットを見ていて、その影響はどうでしょうか?
阪上)もちろん金融緩和をやっている影響はプラス側に出ます。ただ、金融緩和をやっているから、実態が伴っていないのに株が上がるのかと言うと、そうではありません。先々の業績の動きに対して、投資家がリスクを増やす。例えば、お金が余っているので、普通ならば3ヵ月先や、いまの企業業績くらいしか参考にできない状況から、お金があるので「1年~2年先のことも考えて投資をしよう」という、「先へのリスクを取れることの効果」が出ているのだと思います。決して金融緩和が株高にとって無縁ではないということで、当然、これからの金融政策がどうなるかというところは重要になります。昨年(2020年)は世界全体で、未曾有の大金融緩和でした。昨年1年間で世界の主要な中央銀行全体の合算で言うと、中央銀行が供給するお金の量が10兆ドルくらいなのです。この10兆ドル程度増やす動きというのは、リーマンショックのあと10年間で中央銀行がやったのと同じことを、1年でやったということになります。
飯田)そうなのですか。
阪上)ものすごい緩和ですよね。しかし、これはあくまでも緊急事態に対する対応ですから、だんだんと緩和のペースが落ちて行くのです。緩和のペースが落ちて行って、その先には緩和の停止があり、その先には引き締めがある。それを株式市場は、この先だんだんと織り込みに行くのです。となると、昨年のような一本調子での株高というのは、今年度は続けられないのではないかと思います。
「緩和がいつまで続くのか」を見極める必要がある
飯田)なるほど。アメリカの中央銀行にあたるFRBのパウエル議長などが、「少なくとも2023年までは緩和を続ける」ということを言っていた一方で、「物価の見通しは今年中には2%を超えて来るだろう」ということも言っています。この辺りも、一気に逆回転が起きてショックを受けることを警戒しているわけですか?
阪上)そうですね。逆回転が起こるとショックが走る。日銀もそうですが、FRBの物価の目標が2%なのです。しかし、2%になったらすぐに引き締めるということではなくて、ある程度2%を超えた期間が長くなって、「2%越えが定着して来たら引き締める」という政策スタンスなのです。ですので、「インフレがある程度上がって来ても緩和は続けます」ということなのです。ただ、一方で気をつけなくてはいけないのは、緩和を続けるということと、加速度的に緩和して行くということとは別なのです。だから、緩和的な環境ではあるのだけれども、緩和のペースは落ちて来るということになると、株式市場は先読みをするので、ペースが落ちて来る。「次は緩和の終わりだ」と見てしまうというところを考える必要があると思います。
飯田)そうすると、各国中央銀行はメッセージの出し方に、ここから先、慎重になるということでしょうか?
阪上)おっしゃる通りです。ここからは、各国中央銀行の腕の見せどころで、株式市場にとって少し誤解されるような、例えば「すぐに引き締めるのではないか」というようなメッセージの出し方をすると、株式市場が敏感に反応してしまうことが起こりかねないので、慎重なメッセージの出し方が求められることになります。
「どうやって緩和を止めるか」の伝え方が難しい~愚直な日本の金融当局のメッセージの出し方
飯田)かつてリーマンショックのあと、量的緩和を行った当時のアメリカのバーナンキ議長が、「もしかしたらそろそろやめる」ということを言ったら、一気に新興国からのドルの引き上げのようなことがありました。ああいうことが起こってはよくないということですか?
阪上)そうですね。中央銀行も当然、そういう過去の経験を踏まえて、メッセージの出し方もうまくなってはいるのですが、何でもそうですけれど、緩和をするときは簡単なのです。「緩和しますよ」と言えば、みんなそれには好反応をするのです。ただ、「どうやって止めるか」というのは、なかなか難しい。
飯田)その辺りで、日本の中央銀行の黒田総裁、あるいは周りの審議委員、副総裁を含めてメッセージの出し方はどう評価されますか?
阪上)非常にお上手だと思います。記者会見でも長時間にわたっていろいろな質問が飛んで来る。それに即座に、誤解を与えないように、自分たちの意図を説明しなくてはいけない。その様子を見ていると、「自分は真似できないな」と思います。ただ、日本の金融当局のメッセージの出し方は、愚直なところがあります。アメリカなどはもっとうまいのです。少し「言い間違いのようなことを言えば、株式市場が好感するだろう」と。株式市場の誤解のようなものまで計算に入れた言い方をするのです。
飯田)正直なだけではないと。
阪上)そうなのです。日本はそこまではしません。「正確だな」というのが日本で、FRBなどを見ていると、本当にうまいなという感じはしますね。
日銀の本音は「早くこのペースでの金融緩和から離脱したい」~あからさまに言えば株式市場に悪影響を及ぼす
飯田)この間の金融政策決定会合で、マイナス金利の深掘りを容認するとか、上場投資信託(ETF)の買い方を変えるなどということが出ましたが、あれはどう評価されますか?
阪上)今回の日銀の政策変更は、日銀の苦しい立場を示しているという感じはしますね。
飯田)やれるところまでやったぞと。
阪上)物理的にこのペースで続けて行くのは難しいと。日銀の本音としては、早めにこのペースでの金融緩和から離脱をしたいのだと思います。ただ、それをあからさまに言うと、株式市場に悪影響を及ぼす。だから、例えばETFの改革にしても、「何かあれば最大12兆円は買います」というメッセージを残したのは、いままでは、「どうあろうと6兆円は買います」と言っていて、「最低6兆、最大12兆」ということだったのですけれども、最低6兆というコミットメントを取り下げたのです。それが意味しているのは、本当はもう6兆円も買いたくないということです。しかし、「何かあれば12兆買いますよ」と言っておけば、マーケットは安心する。その配慮です。
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