アメリカがここまで「一丸となって台湾をサポート」するのはなぜか

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(4月16日放送)に国際政治学者・慶應義塾大学教授の神保謙が出演。台湾・蔡英文総統がアメリカの非公式の代表団と面会したニュースについて解説した。

アメリカがここまで「一丸となって台湾をサポート」するのはなぜか

台北郊外の新北市で開いた選挙集会で演説する蔡英文総統=2019年12月1日 写真提供:産経新聞社

台湾の蔡総統がアメリカの非公式の代表団と面会

台湾の蔡英文総統は4月15日、アメリカのバイデン政権が派遣した非公式の代表団と総統府で面会した。中国の習近平指導部が台湾に対する軍事的な圧力を強めるなかで、アメリカが台湾を支援する立場を示す狙いがあるとみられている。なお、バイデン政権が代表団を台湾に派遣するのは初めてのことだ。

飯田)日本で知られたところだと、アーミテージ元国務副長官の名前があります。この人選の意味もありますか?

神保)今回は非公式ながら、「バイデン大統領の要請」ということで、バイデン政権の意向が強く表れていると考えていいと思います。あと、人選なのですが、今回訪問したのはリチャード・アーミテージ氏、ジェームズ・スタインバーグ氏、もう1人、元議員がいるのですが、アーミテージ氏はジョージ・W・ブッシュ政権、スタインバーグ氏はオバマ政権。それぞれ共和・民主ですよね。その双方の党の国務副長官を務めたという高位級の重要人物です。

アメリカがここまで「一丸となって台湾をサポート」するのはなぜか

ホワイトハウスで記者会見するバイデン米大統領(アメリカ・ワシントン)=2021年3月25日 AFP=時事 写真提供:時事通信

「超党派の関与として台湾にコミットしているということを読み解いて欲しい」というアメリカのメッセージ

神保)ここで込められたメッセージというのは、共和・民主の「超党派の関与として台湾にコミットしているということを読み解いて欲しい」ということだと思います。もちろん、アーミテージ氏は、個人的には過去2回の選挙で共和党に投票していない「反トランプ」ということだったのですが、それでも重鎮ですよね。

飯田)なるほど。

神保)中国からすると、民主党のスタインバーグ氏の台湾訪問は不快感が大きいのです。スタインバーグ氏は、もともと「中国のよき理解者」という位置付けで、トランプ政権の対中政策にも厳しく批判して、オバマ政権時には「戦略的再保証」と言ったのですが、もちろんわかり合えないところはあるけれど、「できるだけ米中が共有する部分を増やして行こう」という推進者だったのです。いよいよそのスタインバーグ氏も「このような形で中国に厳しくなったのだ」ということを印象付ける意味合いが強いということだと思います。

アメリカがここまで「一丸となって台湾をサポート」するのはなぜか

台北市の総統府で記者会見する蔡英文総統=2020年1月15日(共同) 写真提供:共同通信社

一丸となって台湾をサポートするアメリカ

飯田)このメッセージは中国に向けて「アメリカはもう一丸なんだぞ」ということを見せるということですか?

神保)中国にとって、最も基本となるのは、アメリカが「一つの中国」原則を確認するということで、これ自体は「2月のブリンケン国務長官との電話会談で言質を取った」と中国は言っているわけです。ところが、アメリカはこのあとで、アラスカ・アンカレッジの米中閣僚級協議で報道陣を前に、冒頭から台湾への懸念を表明しましたし、4月9日には台湾とアメリカとの当局者同士の接触規制を緩和したり、実務者会合をよりハイレベルで行えるようにしています。また、軍を見ると、アメリカの太平洋軍の前司令官だったデービッドソン氏と、現司令官のアキリーノ氏という方がいますけれども、双方ともかなり厳しく台湾海峡の軍事情勢に懸念を表明しています。議会を見ても、いま「戦略的競争法」という法律が上院で議論されているのですが、これも基本的には台湾との関係をより強化するということで、アメリカは一丸となって台湾をサポートするということになっているのです。

アメリカがここまで「一丸となって台湾をサポート」するのはなぜか

沖縄県・尖閣諸島の南小島(右奥)付近を航行する中国海警局の船=2021年2月15日(仲間均・石垣市議撮影) 写真提供:共同通信社

中国が気候変動担当特使のケリー氏を上海で迎える意味

神保)そのタイミングで、いま、気候変動担当特使のケリーさんが中国に行っているのですが、中国はこれを歓迎するはずがありません。

飯田)今回、上海に飛ぶということが報じられていますが、北京ではなく、上海なのですね?

神保)基本的にケリー級の人が行けば、習近平主席や李克強首相が出るのですが、上海でやるということは、「今回は出ませんよ」ということです。アメリカも閣僚級協議をアンカレッジでやったのだから、中国も少し遠いところでということでしょう。でも、一部には、やはり気候変動で米中は協力するから、アメリカも妥協してしまうのではないかという見方があったと思うのですが、そんな雰囲気は、いまの上海では全然ないと思います。

飯田)ある意味ケリーさんに対しては、相当な塩対応をしているということですか。

神保)そうだと思います。「環球時報」など、中国の新聞を見ても、「これによって米中関係が好転するということはないだろう」と書かれています。あれだけ台湾、人権の問題で中国を押し込んでおいて、他の問題で協力するということはなかなか難しいぞ、ということをまずは示すと。実務的にいろいろ協力のメニューを考えるのでしょうが、雰囲気は相当悪いと思います。

アメリカがここまで「一丸となって台湾をサポート」するのはなぜか

習近平氏、長江経済ベルト全面的発展推進座談会で重要演説=2020(令和2)年11月14日 新華社/共同通信イメージズ

中国に誤った計算をさせないためのアメリカからの強いメッセージ

飯田)にわかに「台湾海峡」というキーワードがいろいろなところで飛び交うようになって来ました。アメリカ側の分析として、「強いメッセージを送らなければ、人民解放軍が判断を誤る可能性もある」と認識しているわけですか?

神保)隙をつくってはいけないということで、特に台湾海峡は、いま中国の軍事力が圧倒的ですし、「これはもしかすると上陸制圧作戦ができて、アメリカの介入を阻止できるのではないか」という自信さえ生まれかねないということで、「そういう計算をして欲しくない」ということだと思います。政治的にも重要な人物がコミットして、アメリカ議会もそれをサポートし、軍も準備ができているぞということで、中国に誤った計算をさせないためのやり方が進んでいるということだと思います。

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