“2つの理由”で緊張が高まることを望むネタニヤフ政権~イスラエルとハマスの軍事衝突

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(5月17日放送)にジャーナリストの須田慎一郎が出演。イスラエルとハマスの軍事衝突について、国際政治アナリストの菅原出氏を電話ゲストに迎えて解説した。

“2つの理由”で緊張が高まることを望むネタニヤフ政権~イスラエルとハマスの軍事衝突

パレスチナ自治区ガザで続くイスラエル軍の空爆。=2021年5月16日 AFP=時事 写真提供:時事通信

イスラエルとハマスの軍事衝突~国連安保理が3度目の緊急会合

国連安全保障理事会は日本時間5月16日深夜、イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスの軍事衝突について、3度目の緊急会合を開いた。会合冒頭では、グテレス事務総長が戦闘の「即時停止」を要請している。

飯田)イスラエルとパレスチナの衝突と報じられますが、パレスチナ自治区のなかでも、ヨルダン川の西岸地区はファタハと呼ばれる主流派が治めていて、ガザ地区はハマスという組織が実効支配しているというところで、ミサイルの撃ち合いのようになっています。

須田)地上部隊の突入もあり得る状況になって、エスカレートしています。着地する気配が見えないですよね。

ラマダンの始まった日とイスラエルの戦死した兵士を追悼するユダヤ教の行事が重なった

飯田)国際社会もどう手を打ったらいいのかという感じになっています。イスラエルとハマスの軍事衝突について、中東情勢に詳しい国際政治アナリストの菅原出さんに伺います。菅原さん、おはようございます。

菅原)おはようございます。

飯田)今回の衝突ですが、きっかけは何だったのでしょうか?

菅原)長年の積み重なるものもあるのですが、直接的な原因はおそらく4月13日だと思います。1ヵ月ほど前になるのですが、この日は、イスラム教のラマダンという断食月が始まった日です。しかし、イスラエルの戦死した兵士を追悼するユダヤ教の行事と同じ日になってしまい、その日の夜にイスラエルの大統領が重要な演説をすることになっていました。そして、エルサレムで重要な「アルアクサー・モスク」という大きなモスクがあるのですが、そこで「イスラム教のお祈りの声をスピーカーで流すな」と言ったのです。「それはできない」とモスク側が言ったところ、イスラエルは治安部隊を送り込んでモスクの電気を切り、スピーカーの音を遮断してしまったということがありまして、それに抗議した人たちがたくさん集まって来たのです。これがきっかけです。

飯田)その2つが重なってしまった。

菅原)これに対して警察側がかなり過剰に反応して、アルアクサー・モスクの「ダマスカス門」という主要な入り口前の広場を封鎖してしまったのです。ここは、ラマダン期間は、夜に若者たちが集まってお祝いをするという場なのですが、そこから若者たちが締め出されてしまい、すでにこのころからパレスチナの若者とユダヤ人の衝突が路上レベルで始まっていまして、ユダヤ人の極右グループなども入って激化していたのです。それに加えて、旧市街のパレスチナ人の居住区からパレスチナ人の家族を立ち退かせる裁判がちょうど重なってしまい、感情的にエスカレートしてしまったということがありました。そういう経緯があったのです。

ラマダン期間にイスラエル警察がもっとも大事なモスクに3回も武装して突入

飯田)ある意味、若者たちの蜂起というところから、今回のハマスの動きまでは時間があったのでしょうか? それとも、一足飛びにという感じなのでしょうか?

菅原)徐々に緊張が高まって行き、「パレスチナ人の立ち退きがけしからん」ということで、5月4日の時点でハマスは最後の警告として声明を出し、「こんなことはすぐにやめろ」と言っていたのです。しかし、その直後の5月7日夜にイスラエル警察がアルアクサー・モスクに突入し、催涙ガスやゴム弾を使って強制的に取り締まったのです。そして、5月10日にまた警察がモスクに入って来たのです。宗教心が高まるラマダン期間に、イスラム教のいちばん大事なモスクに3回も警察が武装して突入して来たということに怒り心頭で、警告をしていたハマスもそれを受けてロケット弾を発射したという流れなのだと思います。

“2つの理由”で緊張が高まることを望むネタニヤフ政権~イスラエルとハマスの軍事衝突

イラクの首都バグダッドでラマダンの準備のため買い物をする人々=2020年4月23日(ゲッティ=共同) 写真提供:共同通信社

イスラエルとパレスチナの緊張が高まることを望んだネタニヤフ政権

飯田)緊張を高めるような行動を取り続けている感じに見えますが、イスラエル側としての狙いは何なのでしょうか?

菅原)ネタニヤフ政権は否定していますが、おそらく緊張が高まることを望んだのでしょう。ネタニヤフ首相は組閣に失敗して、現在、野党側が連立協議を進めています。この野党側は、反ネタニヤフということで寄り合い状態となり、左派系から極右政党まで一緒になっていたのです。だから、イスラエルとパレスチナの緊張が高まって対立が深まれば、その連立はうまく行きませんから、ネタニヤフ首相にとっては好都合なため、イスラエルとパレスチナの緊張が高まるように放っておいたのでしょうね。

芝刈りのようにパレスチナの軍事能力が高まると軍事作戦を行うイスラエル

飯田)なるほど。他方ハマスの方ですが、これだけ何発もミサイルを発射できるのは相当な物量があると思うのですが、どこから手に入れているのでしょうか?

菅原)そうですね。これはもう驚きだと思います。これだけたくさんの武器を、イランも含めて支援してくれる国がありますので、そこから買っているのと、自分たちでつくっているということがあります。

飯田)自分たちでもつくるだけの能力があるのですね。

菅原)そうですね。2014年以来、大きな衝突はなかったですから、その間にこれだけため込んでいたということでしょうね。

飯田)イスラエルからすると、その武器がそろそろまずいところまで来たぞということもあるのでしょうか?

菅原)これは非常に非人道的な言い方なのですが、イスラエルの軍事作戦は「芝刈りのようだ」と言われるのです。芝は一定のところまで伸びて来たら、刈るではないですか。それと同じように、パレスチナ側の軍事能力を0にすることはできないのですが、「一定程度強くなって来たら、軍事作戦を行う」というのがイスラエルのやり方だと言われます。今回もそういう側面がないとは言えないと思います。

イスラエルとパレスチナの問題が激化して、アメリカがイスラエルに圧力を加えないとイランにも影響が

飯田)ハマスを支援しているところにイランがあると言われますが、イランは選挙ですよね。この辺り、大統領選挙が近いということも絡んで来ますか?

菅原)そうですね。大統領選挙もそうですし、アメリカとの核協議もやっていますので、そういうところに、イスラエルとパレスチナの問題が激化して、しかもアメリカがイスラエルに対して圧力を加えないという状況が続くと、そちらに影響が出るということもあります。

イスラエルとパレスチナの問題が沈静化して、「あまり関わらないようにしたい」のがバイデン政権のスタンス

飯田)スタジオにはジャーナリストの須田慎一郎さんもいらっしゃいます。

須田)アメリカの動きですが、トランプ政権からバイデン政権に変わって、トランプさんはイスラエル一色でしたが、バイデンさんの役割というのは、いまの中東情勢でどういう位置付けにあって、今回仲介の役割を果たせるのでしょうか?

菅原)バイデン政権からすると、あまりそういう役割を果たしたくないというのが基本的にあるのだろうと思います。イスラエルとパレスチナの問題が沈静化して、「自分たちがあまり関わらないようにしたい」というのがバイデンさんの基本的なスタンスです。イスラエルとパレスチナの対立は、アメリカ国内のポリティクスにも影響してしまいますので、国内の分裂がさらに強まる。もっと言うと、民主党内部での分裂が強まって来てしまいます。民主党のなかにはリベラル、左派の人たちがいますので、パレスチナ寄りの人がかなりいるのです。

須田)なるほど。

菅原)一方、議会運営では、共和党も含めてうまく調整して行かなくてはいけませんが、共和党は圧倒的にイスラエル寄りということもありますし、民主党も中道派の人たちはイスラエル支持で、バイデンさんも含めてそうです。そういう意味で言うと、なかなかここに火をつけたくないし、関わりたくないというのがバイデンさんのスタンスでしょうね。だから、いまかなり出遅れた感じになっています。どういう対応を取るかということを慎重に考えているのでしょう。

“2つの理由”で緊張が高まることを望むネタニヤフ政権~イスラエルとハマスの軍事衝突

イスラエルのネタニヤフ首相(イスラエル・エルサレム)=2021年3月11日 AFP=時事 写真提供:時事通信

ネタニヤフ政権が目標達成するまで空爆は続く

飯田)なるほど。そうするとアメリカの腰が引けているなかで、イスラエルはまだまだ空爆を続けるということを出していますが、この状況がしばらく続くということでしょうか?

菅原)そうですね。外部がどうこうということではなく、イスラエル側、ネタニヤフ政権が目標達成というところまでやるでしょうね。それは、軍事的にある程度ハマスの能力を下げるということと、連立協議も含めた政治的な流れが自分の方にうまく行くという確信が得られた辺りで、区切りをつけるのではないかと思います。

今後、反イスラエルの抗議行動が大きくなるイスラム諸国~意に介さないネタニヤフ政権

飯田)周りのアラブ諸国の声が今回はあまり聞こえませんが、どうなのでしょうか?

菅原)かなり反発していますね。そういう意味で言うと、イスラエルと関係を正常化したようなアラブの国も声を上げて反発しています。それぞれの国にいるパレスチナ寄りの人たちの抗議行動も大きくなっていますし、今後、イスラムの国々では反イスラエルの抗議行動がもっと大きくなると思いますね。

飯田)そういう国々の意見は、ネタニヤフ政権としてはあまり意に介さないということでしょうか?

菅原)まったく意に介さないですね。

日本が介入することは難しい

飯田)そこに日本として何かできることはありそうですか?

菅原)日本が政治的に仲介することは難しいと思います。強制力もありませんし、影響力もさほどありませんから、「関係ない人は黙っていて」と言われるだけですので、なかなか難しいでしょうね。

飯田)人道的な支援や呼びかけなどに留まるということでしょうか?

菅原)そうですね。国連やEUがそういう声を出していますので、そういう国々と歩調を合わせて、とにかく停戦のために外交努力をする以外、難しいのではないかと思います。

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