黒木瞳がパーソナリティを務める番組「あさナビ」(ニッポン放送)にスポーツキャスター・北京五輪競泳メダリストの宮下純一が出演。指導者の立場から見た水泳について語った。
黒木)今週のゲストはスポーツキャスターで北京五輪競泳メダリストの宮下純一さんです。子どもたちを指導するのは楽しいものなのですか?
宮下)笑顔で泳いでいる姿を見ると楽しいのですが、自分が思っていることを相手に伝えるのは難しいなと思う瞬間でもあります。
黒木)宮下さん自身がいろいろなコーチと出会って成長できたように、かつてご自身が影響を受けたような言葉をかけてあげたくなりますものね。
宮下)継続して教えられるわけではなく、一瞬しか会えないこともあるので、その一瞬のなかで、どんな言葉をかけたらこの子は頑張れるのだろうかということを考えます。必ずしも注意だけではなくて、いいところを褒めてあげるのがいいかも知れませんし、他のコーチが気づいていない弱点を見つけてあげるということがいいのかも知れないですし。その瞬間の選び方というのは、自分の感覚でしかないので、それが必ずしも合っているかどうかはわからないのですが、私がコーチにそうしてもらったように、「いい」というのは良質なものをということではなく、「その子のいまの瞬間に大事なものは何だろう」ということを考えるようにしています。
黒木)でも、水泳は苦しいですよね。
宮下)苦しいです。だから、努力を努力と思っていない人や、「もう2時間も泳いでいるよ」と夢中で何時間でも泳ぐことができる人。そして、そのあとに何時間でも水泳のビデオを観ていられるような人になるためには、目標がないとなれないと思います。苦しければ苦しいほど、「何のためにやっているのだろう」ということが頭をよぎるので。そういう意味でも、「いまどこに向かっているの?」「君は何がしたいの?」と小さい目標を子どもたちには訪ねます。必ずしもみんながオリンピックに出なくてもいいと思うのです。タイム競技なので、1つ先の秒にチャレンジするということが自分の頭にある、または友だちに勝ちたい、勝たなくてもその大会に出れば好きな子に会えるとか、そういうところでももちろんいいと思うのです。「何のために頑張っているのか」ということが大切だと思います。
黒木)その子によって指導も違うでしょうからね。
宮下)そうですね。その子にきょうかける言葉と、明日かける言葉は違うのだと思います。
黒木)同じ人でも。
宮下)その子にとっては唯一のコーチなので、そういった目線で毎回臨んでいます。そうすれば、苦しい練習ですけれど頑張ってくれるのではないかと思います。
黒木)指導なさっているのだったら、メダリストを出したいですしね。
宮下)そうですね。後輩たちが頑張ってくれるとOBの仕事も増えるので、頑張ってもらいたいです。
黒木)子どもたちから教えてもらえることもあるでしょうからね。
宮下)タイム競技なので、レベルが上がっていて驚きます。
黒木)やはり変わって来ているのですね。
宮下)大会に出る標準のタイムが上がっているので、同じ年齢でも、私たちの時代と何秒も違うので、コーチたちは大変ですよね。
宮下純一(みやした・じゅんいち)/スポーツキャスター・北京五輪競泳メダリスト
■1983年生まれ、鹿児島県出身。37歳。
■5歳から水泳をはじめ、9歳のときコーチの薦めにより背泳ぎの選手となる。
■鹿児島県立甲南高等学校から筑波大学に進学、体育専門学群で学び、中高教員免許を取得。
■2008年8月、北京オリンピック競泳男子100m背泳ぎ準決勝で53.69秒のアジア・日本新記録を樹立、決勝8位入賞。400mメドレーリレーでは日本チームの第1泳者として、銅メダルを獲得(リレーメンバー:北島康介・藤井拓郎・佐藤久佳)。
■2008年10月、競技者として有終の美と感じられる結果に現役を引退。
■現在は、水泳・スポーツの美と感動、アスリートという人間の心のドラマやストーリーを伝えられるスポーツキャスターとして幅広く活動。日本水泳連盟競泳委員として選手指導・育成にも携わっている。
番組情報
毎朝、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをお迎えして、朝の活力になるお話をうかがっていく「あさナビ」。ナビゲーター:黒木瞳