ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(5月21日放送)に外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が出演。フィリピンの外交について分析した。
まともにやってはとても中国には勝てない~中国に島や岩礁を獲られているフィリピン
宮家)フィリピンは島国なのだけれども、中国の沖で南シナ海に面していて、中国の海洋進出によって島や岩礁などが既にずいぶん獲られているわけです。ドゥテルテさんは面白い人ですが、ナショナリストですよね。中国に対し本当は不愉快な思いを持っているのだと思いますが、実際の中国の海軍力、船舶の数、そしてやり方には、とてもではないけれど今のフィリピンでは対抗できません。フィリピンは海軍も沿岸警備隊も小さいし、中国には勝てませんよ。
飯田)勝てないですね。
経済支援をしてもらい、バランスを取ろうとするドゥテルテ大統領~揺れる中国への態度
宮家)威勢のいいことを言って戦って、「中国に島を獲られました」というのでは何にもならない。それよりも、フィリピンにいま必要なのは経済支援なのだから、もらうものはもらって、よく言えば、「うまくバランスを取ってやりたい」という態度なのだと思います。
飯田)うまくバランスを取って。
宮家)実際にはフィリピンも含めて、あの地域への中国の圧力は強くなっているから、揺れる気持ちでしょう、ときどき威勢のいいことを言ってみたりする。そうかと思えば、国際仲裁裁判所では、フィリピンの海洋権益について認めるような判断を出したわけですが、中国はそれを「紙屑だ」と言っているのだけれど、同じようなことをフィリピンの大統領が言う。「揺れている」ということですよね。
飯田)先代の大統領であるアキノさんのときに判断が出たのですが、ドゥテルテさんになってそれを「紙屑だ」と言い、「この人は親中なのか?」というところがあったのですけれど、決してそれが本心ではない。
宮家)そうかと思うと、外務大臣がその直前だけれども、日本語だと「南シナ海から出て行きやがれ」みたいなことを言っているわけです。フィリピンのいまの与党のなかですらも、中国に対する態度は揺れている。「けしからん」と思いながら、結果は出せないとジレンマで揺れているのでしょうね。
海軍を出してケンカ腰になると結局中国に獲られてしまう
飯田)国際仲裁裁という、ある意味での国際法によって、中国に対して対抗しようという王道の手を打ち、それだけではダメなのかというところで、ドゥテルテさんに代わるという流れがあるわけではないですか。力の裏打ちがないと、外交だけでは難しいところがあるわけですか?
宮家)フィリピンの対応に対して、中国は物量で来るわけです。そして島なり岩礁をまず漁船が来て囲み、公船が来て囲んでいく。フィリピンの方は苦し紛れに、日本で言えば海上保安庁に当たる沿岸警備隊が対応するのだけれども、向こうは公船ですがとてもではないけれど数が足りないから、フィリピンは苦し紛れに海軍を出す。すると中国は「ナイフを抜いたな、だったらこちらは自衛権だ」と言って岩礁を獲ってしまう。「それをやったら、ケンカ腰になって、結局獲られるだけではないか」という気持ちは、わからないわけではないですよね。尖閣では日本も頑張っているのだけれども、フィリピンはもっと厳しい状況にあるということだと思います。
飯田)日本も他人事ではないということですよね。
宮家)他人事ではないです。
アメリカにも中国に対してもいい感情はないのだけれど、「そうは言っていられない」状況のフィリピン
飯田)フィリピンもアメリカと同盟関係であると言いながら、微妙なところがあるわけですか?
宮家)米西戦争というアメリカとスペインの戦争があって、そのあとにフィリピンは独立をしようとするのですが、独立戦争、フィリピン・アメリカ戦争があって、これでやられて植民地になるわけです。アメリカが植民地を持つというのは稀なことなのだけれども、結局、フィリピンでのやり方はあまりうまく行かなかったようで、反米感情が残っているのです。非常に複雑な感情をアメリカに対しても持っていて、中国に対しても持っている。アメリカに頼らざるを得ず、中国はけしからんのだけれども、「そうは言っていられない」という気持ちでしょうね。
日本がフィリピンにサポートできること
飯田)その辺の感情というものが、マルコス政権が倒れたあとの「米軍出て行け」になった。
宮家)そして1991年には、フィリピンの上院がアメリカの駐留を事実上拒否して、アメリカ軍がスービックとクラークという基地から出て行き、現在のような南シナ海の問題が顕在化して行ったわけです。その意味では、フィリピンの態度というのは非常に大事になると思います。
飯田)何とか日本としてもサポートしなくてはいけない。
宮家)それはやらなくてはいけないでしょうし、いちばん大事なのは軍隊の支援というよりも、フィリピンが自分の沿岸警備隊で中国公船に対して対抗できるということが大事なのです。沿岸警備隊は正規軍ではないので日本は協力できます。そういう意味では、日本がやれることはまだまだあると思っています。
飯田)先日、海上保安庁の国際協力に関する取材に行って来たのですけれども、軍同士のつながりとは別で、国際海洋法や法解釈の講義、または実際の拘束術など、学ぶべきところは多岐にわたってあるのですよね。
宮家)幸いなことに日本は軍隊を使わないで、沿岸警備隊、つまり海上保安庁がいろいろな問題の解決を自主的に最前線でやっているわけです。彼らの経験というのは非常に重要だと私は思います。
飯田)彼らも海上保安庁のこういう活動が、自由で開かれたインド太平洋というものを、底辺の部分だけれど支えていると思ってやっている、とおっしゃっていました。
宮家)ただ日本で海上保安庁は、あらゆる意味で軍隊の一部ではない。しかし通常の国では沿岸警備隊は軍隊の一部です。そこの部分は微妙に違うのですけれどもね。
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