「朝鮮半島の非核化」という表記の意味~米韓首脳会談
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(5月24日放送)に東京大学公共政策大学院教授・政治学者の鈴木一人が出演。5月21日に行われた米韓首脳会談について解説した。
朝鮮半島の非核化~韓国に譲歩
アメリカのバイデン大統領と韓国の文在寅大統領は5月21日、ホワイトハウスで首脳会談を行った。共同声明では、「朝鮮半島の完全な非核化」への取り組みを強調。また、台湾海峡の平和と安定を維持することの重要性を強調すると明記し、中国を牽制した。
飯田)「北朝鮮の」ではなく、「朝鮮半島の」という表現になっておりました。どうご覧になりますか?
鈴木)バイデン大統領にとってみると、「北朝鮮の非核化」はプライオリティが高くない。言ってしまえば、「何をやっても北朝鮮は非核化しないだろう」という考えで、必ずしも力を入れてやる問題ではないと捉えています。だからこそ、北朝鮮との関係をどこからスタートするかということを、この間までレビューをしていて、新しい戦略をつくったのです。そのときの基本的な考え方は、シンガポール合意、トランプ大統領と金正恩氏がつくった合意があって、そこには「朝鮮半島の完全な非核化」が書いてあったので、とりあえずこれを出発点にするということです。
飯田)なるほど。
鈴木)韓国も朝鮮半島の完全な非核化を目指すということなので、これまでアメリカが使って来た「北朝鮮の非核化」ではなく、「韓国も含めた朝鮮半島全体の非核化」をするということで、バイデン政権はこれまでのアメリカのスタンスを引き続き継続するという立場を示したということですね。伝統的には北朝鮮の非核化だったのですが、そこから一歩下がった格好になって、韓国に譲歩した形になります。
台湾海峡の平和と安定~韓国が米に譲歩
鈴木)しかし、それに対して、「台湾海峡の平和と安定」という文字を入れたことは非常に重要です。韓国は中国との関係が密ですから、韓国が中国に忖度して、台湾海峡の話を入れないのではないかということが考えられていたのですが、バイデン政権はとにかく対中政策を強硬にして台湾を守る。そしてその枠、日本やクアッドと呼ばれるオーストラリア、インドと一緒に、韓国も「中国に対して厳しく出て、台湾海峡を守るという仲間に引き入れたい」というのが、今回の米韓首脳会談の第1の目標だったので、ここは文在寅大統領が中国から怒られるかも知れないけれども、受け入れるという取引をしたわけです。
両者とも取りたいものを取り、諦めるところを諦めた
鈴木)だから、朝鮮半島の非核化、南北対話、そして米朝関係をより前に進めるということを韓国は求め、アメリカは韓国を仲間に引き入れて対中強硬策をより高めて行くことを目指した。そういう意味では、両者とも取りたいものを取り、諦めるところは諦めたと、こういう関係にあるのではないかと思います。
韓国に核を置く必要はない~日本やフィリピンにミサイルを設置する可能性も
飯田)朝鮮半島の完全な非核化と書くと、対中国でこの先、核による抑止力が必要になったときも、韓国には入れられないのではないかという人もいますが、どうでしょうか?
鈴木)韓国に核を置くということ自体が、どこまで戦略的に意味があるのかと言われると、いまのところ大きな意味はないのではないかと思います。ヨーロッパとは違うので、ここに置くことは必ずしも必要ではない。基本的にアメリカ側から見ると、西太平洋、日本など東アジアの地域は海がベースなのです。「潜水艦にミサイルを積んでおく」というのがまず基本の考え方です。そして、アメリカはトランプ大統領のときにINF条約という中距離ミサイルの条約を離脱したので、今度は日本やフィリピンにミサイルを置くのではないかということで、いろいろな可能性が出て来ているというのが現状です。
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