中国の宇宙開発の「ルール破り」 国際社会が圧をかけて批判するべき

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(5月24日放送)に東京大学公共政策大学院教授・政治学者の鈴木一人が出演。中国の無人探査機が火星着陸に成功したニュースについて解説した。

中国の宇宙開発の「ルール破り」 国際社会が圧をかけて批判するべき

中国は29日、海南省の文昌宇宙発射場から運搬ロケット「長征5号B遥2」を使い、宇宙ステーションのコアモジュール「天和」を打ち上げた。(文昌=新華社記者/琚振華)= 2021(令和3)年4月29日、新華社/共同通信イメージズ

中国の宇宙技術開発~アメリカに追いつきたい

中国は5月15日、無人火星探査機「天問1号」が火星への着陸に成功したと発表した。中国の探査機が火星に着陸するのは今回が初めてとなる。中国の宇宙開発では5月9日、大型ロケットの残骸がインド沖の海上に落下、アメリカが危険性を批判するなど、宇宙を舞台とした競争が激しくなっている。

飯田)火星から映像を送って来たという話も出ておりますが、どうご覧になりますか?

鈴木)中国は1992年から宇宙大国になるべく、着々と技術開発を進めて来ています。「米中宇宙競争」などと言われて、かつては米ソでやっていた宇宙競争をイメージする人も多いでしょうし、その要素ももちろんあるのですが、米ソの宇宙競争は同じスタートラインから同じゴールを目指したのです。それに対して、米中では、アメリカはすでに何度も火星に探査機を着陸させることに成功しています。競争というより、中国が一生懸命アメリカのあとを追っているという状態ですね。

飯田)中国が追っている。

鈴木)ソ連がなくなって30年以上経ちますが、アメリカは久しぶりにライバルが現れたという状態です。アメリカとしては、ライバルにどう立ち向かうかということを、そろそろ意識し始めているところだと思います。

インド洋にロケットの残骸が落下~国際的なルールを守らない中国

飯田)インド沖に中国の大型ロケットの残骸が落下しましたが、あのときもアメリカのNASAが警戒情報を出していました。一方で中国は「そんなことは大丈夫だ」と、当事者がそんなことでいいのかと思ったのですが。

鈴木)地球は7割が海ですし、人が住んでいるのは地表の10%くらいですから、人に当たる確率は本当に低いのですが、それでも可能性はあるわけで、きちんと落とさなくてはいけない。しかし、中国は「どうせ当たらない」と。もちろん制御するには余計にコストがかかりますから、そういうことをしたくない。宇宙ステーションを上げるのに専念したいということで、手を抜いていたのだと思います。だから、中国の無責任さは批判されて然るべきだと思いますが、同時に「大丈夫だろう」ということは、確率論的には正しいので、そのギャンブルに中国は勝ったということです。ただ、やはりそこは「コントロールする」というのが国際的なルールなので、「中国は国際的なルールを守らない」ということを示してしまったという印象はあります。

アメリカのGPSにショートメッセージ機能が加わった「北斗」~海上での通信が可能に

飯田)この宇宙開発、今後は宇宙やサイバー戦争になるということが言われていますが、中国はどう使おうとしていますか?

鈴木)いちばん大きいのは、GPSにあたる測位衛星と言いますが、自分たちの場所、ナビゲーション、同時にタイミングと言って同期時刻を放送する衛星があるのです。我々は携帯でGPSを取っていて、無料で使える信号なのですが、もともとはアメリカ軍のシステムなのです。だから中国からすると、一般市民がアメリカの軍事システムであるGPSに依存するというのは困る。いざアメリカと中国が対立したときに、アメリカが中国向けのサービスを止めるかも知れないということを恐れて、自分たちで測位衛星を持って、アメリカのGPSが止まっても、同じようなサービスを受けられるようにしておく。それで「北斗」というシステムをつくっているのです。

飯田)「北斗」。

鈴木)この「北斗」というシステムは、アメリカのGPSより少しプラスされている機能があって、「メッセージサービス」という、自分の携帯からショートメッセージを送ることができるのです。これはGPSではできないのですけれども、これによって、中国はいままで海での通信ができなかったのですが、それができるようになるのです。そうなると尖閣諸島などに来ているような、漁船や海上民兵という正規軍ではない武装した人たち、こういう人たちとやりとりができるという体制がつくれるのです。

飯田)一斉通報のような感じで、「ここに行け」というメールも送ることができると。

鈴木)今後、中国は宇宙を使って通信、測位、あとはスパイ衛星ですね。そういう能力を高めて来ている。軍事的な能力が高まって来ています。

中国の宇宙開発の「ルール破り」 国際社会が圧をかけて批判するべき

習近平共産党総書記・国家主席・中央軍事委員会主席は6日、中国人民政治協商会議(政協)第13期全国委員会第4回会議に出席している医薬品・医療衛生界、教育界の委員を訪ねて意見や提案を聞いた。〔新華社=中国通信〕=2021年3月7日 写真提供:時事通信

アメリカの通信システムを落とすことが可能に~日本の尖閣を守る能力も低下する

鈴木)もう1つ重要なのが、アメリカも中国も宇宙を使って軍事システムを動かしているので、宇宙システムを壊す、邪魔する、妨害する。こういうことが重要な技術になっています。アメリカも中国のサービスを妨害できるのですが、中国もアメリカのシステムを妨害できるようになる。そうすると、例えば中国が尖閣諸島にやって来たときに、米軍が助けに来てもGPSが使えないとか、アメリカの通信システムが落ちていて、ドローンが使えないなどということになると、米軍の能力が下がります。そうすると日本の尖閣を守る能力も下がる。こういう問題を抱えることになるので、かなりシビアな対立のポイントになります。

意外と打たれ弱い中国~国際社会が批判することが大切

飯田)中国は宇宙に向けてミサイルを発射して、衛星の破壊実験などをやっていますよね。

鈴木)2007年にやったのですが、そのときは国際的にも大きな非難を受けたのです。ミサイルで撃ち落とすと、スペースデブリ(宇宙ごみ)という部品や破片がたくさん宇宙空間に残ってしまって、それが他の衛星に当たったりして非常に危険だと、世界的に批判を受けたのですが、それ以来はやっていません。

飯田)それ以降はやっていない。

鈴木)中国は意外に打たれ弱くて、みんなに「ダメだ」と言われると、「シュン」となる傾向があります。ロケットの残骸を落としたときも、コントロールしないことで批判されたので、ある程度「シュン」となっている部分がある。だから、中国に対しては100%聞くわけではないですが、きちんと「ダメなものはダメだ」と言ってやらないとわからない部分があります。国際社会が批判することが大事です。聞くか聞かないかは中国次第で、ケースバイケースではありますが、中国がそれを聞いて「まずいことをやってしまった」と思うと、それなりに行動は変わって行きます。中国は「このくらいは大丈夫だろう」という楽観や甘えがあるので、「そんなことはない」と圧をかけて言うことは大事だと思います。

宇宙を使わない兵器はない~軍の使い道も民間の使い道も同じ

飯田)日本では宇宙の平和利用という言葉がすごく浸透していますが、実際は平和に使う国はほぼないと思った方がよいのでしょうか?

鈴木)日本の宇宙の平和利用という概念は、世界的に見ると極めて特殊な解釈です。通常、平和利用というのは、宇宙で争いをしないということです。宇宙で攻撃的に相手にぶつかるようなことをしてはいけない、というのが平和利用です。宇宙はデュアルユースで、通信や測位、スパイ衛星などは軍の使い道も民間の使い道も、同じ1つの衛星で行います。例えば通信衛星であれば、民間人が電話するのと軍人が電話するのは、基本的にやることは変わらないわけです。機能も変わらないわけですから、まさに軍民両用の技術なのです。

飯田)そうですね。

鈴木)ですから、軍隊が軍事作戦に使うということ自体は避けられないのです。いまや、無人で動くものやいろいろなデータで動くものが増えて来て、ほとんどの兵器システムはGPSも積んでいますし、衛星との通信機能も積んでいます。そういうもの抜きで兵器は動かないのです。日本が今度調達するグローバル・ホークという無人機、ドローンやF35という戦闘機、これもすべて宇宙のインフラを使って、初めて能力が発揮できるような兵器システムです。宇宙を使わないということはないのです。日本はこれまで平和利用というのは軍隊が使わないことだと考えていたわけですが、宇宙を使わない兵器はないというくらい、兵器システムの宇宙利用が普通に行われています。

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