サイバー防御に遅れる日本が抱える課題~法律順守と人材流出
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(5月31日放送)に朝日新聞編集委員で元北京・ワシントン特派員の峯村健司が出演。警察庁がSNSを人工知能で解析する捜査システムを導入するというニュースについて解説した。
警察庁SNS解析システム
警察庁が容疑者側の会員制交流サイト(SNS)を人工知能(AI)で解析し、人物の相関図を作成する捜査システムを導入することがわかった。特殊詐欺など、組織的な犯罪の全体像を解明し、摘発に結びつけたい考えだ。
飯田)関係者の話として、5月29日に報じられたものです。SNSを通じて連絡を取り合うというのは常套手段になっていますものね。
峯村)「まだやっていなかったのか」というのが率直な印象ではあります。いま、かなりのアプリが犯罪のツールとして使われているからです。ロシア製のアプリで「テレグラム」というものがあり、よく犯罪に使われていますが、このような対策は必要な動きなのだと思います。
飯田)「通信の監視」は日本ではやっていないということです。そうなると、まず何かで検挙した人から糸口を、ということになるのでしょうか?
AIのビッグデータを使って捜査に役立てる~日本ではプライバシーの侵害になりかねない
峯村)そうですね。あとはAIのビッグデータを使って、「この人はどのような人と友達なのか」というような、交友関係から行動範囲までを調べて捜査に役立てるという意図のようです。しかし気を付けないと、法的に整備されていないので、プライバシーの侵害にもなりかねません。そこはうまく法律と両立させながらやるべきだと思います。
飯田)朝日新聞では、JAXAなどのデータ流出の話もスクープで出していました。あのときも記事を読むと、ネット上でのサイバー防衛でやったというよりは、もともと任意同行していた中国人の方から話を聞いていて、その情報を元にしていた。最初はやはりアナログの世界から入って行くという、先ほども法律との兼ね合いとおっしゃっていましたが、捜査側のジレンマを感じるなと思いました。
アナログの捜査技術との両立
峯村)あの記事は同僚の編集委員のスクープなのですが、ハッキングもアナログでまず行われることが多いのです。サイバーというと、空中戦というようなイメージがあるのですが、イラン核施設の遠心分離機の話でも、元々はUSBなどにアダルト画像のようなものを入れておいて、それをうっかり見てしまったイラン人技術者のパソコンからハッキングして行ったわけです。実はアナログとの両立があるということですよね。
飯田)そうすると、アナログの捜査技術を持って糸口を掴み、全体に広げて行くというのは各国もやる手段なのですか?
峯村)そうですね。アメリカでも相当進んでいますし、中国も顔認証カメラを合わせてAIを使って捜査しています。
日本が法律上の問題でサイバー防御に遅れている
飯田)サイバーの専門家の方に話を聞くと、日本の守りが弱いことの一端として、「通信の秘密がきちんと守られているということが、逆にやりづらさにもつながっている」という指摘があるのですが、これはどうですか?
峯村)そうだと思います。基本的にサイバー防御というのは、攻撃があっての防御です。「どのようなところから攻撃されるのか」ということを、敵対国のネットワークに侵入して見に行かないと防御はできません。その意味では、法律上の問題などもあって、日本は対応が遅れているということは言えると思います。
人材が他の国に流出している
飯田)人材というよりも、そちらの問題の方が大きいのでしょうか?
峯村)両方ですね。人材に関しても、優秀な「ホワイトハッカー」という、サイバー対策をしている善良なハッカーの人たちは、若いうちに高い給料で他の国にスカウトされる傾向があるようです。人材面でも不足して来ている状況です。
飯田)デジタル庁が発足するということになって、「技術者の給料はどうするのだ」となり、「次官よりも高い給料は出せないだろう」という話が出ているようですね。
2030年にはAI人材の不足は12倍に~全省庁を挙げて対策するべき
峯村)それでは話にならないですよね。AI人材を見ても、いま必要な数の4分の1ほど足りない状況になっています。これが2030年になると、12分の1になると予測されています。人材確保は国際的な競争になっているので、給料も国が補填して獲得しなければいけない時期に来ていると思います。
飯田)各国はそこに軍事費の予算も注ぎ込むという形でやっていますが、日本は防衛費でそこまでできないですものね。
峯村)そこも考えて行かなくてはいけません。各国では、AIやサイバーというのは軍と表裏一体でやっているので、そこは全省庁を挙げて対策をするべきだと思います。
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