「令和2年7月豪雨」から1年~現地記者に訊く「熊本県のいま」
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月5日放送)では、「令和2年7月豪雨」から1年を迎えた現地熊本の様子について、RKK熊本放送の徳本光太朗記者に訊いた。
「令和2年7月豪雨」から1年が経過
「令和2年7月豪雨」から、7月4日で1年となった。甚大な被害を受けた熊本県では4日、人吉市、八代市、津奈木町で犠牲者追悼式を実施。熊本県内で亡くなった方は67人、行方不明の方が2人で、現在もおよそ3700人が仮住まいを続けている。
飯田)昨年(2020年)7月に発生した「令和2年7月豪雨」では、およそ1ヵ月にわたって全国で集中豪雨が続き、多くの地域が被害を受けました。特に被害が大きかったのが熊本県で、南部の球磨川が氾濫したということが、記憶に新しいところです。ここでは、豪雨災害から1年が経過した熊本県の模様を、RKK熊本放送報道部の徳本光太朗記者に伺います。いまの熊本の天気はいかがですか?
徳本)小雨が降ったり止んだりですが、空も明るく、このあとは晴れそうです。
土砂災害を受けた熱海の被災者にいま必要なこと
飯田)熱海では大きな豪雨災害が出ていますが、熊本でもその様子は報道されていますよね。
徳本)ええ。あれを見ると、やはり昨年の7月のことを思い出してしまいますね。
飯田)そうですよね。熱海の土砂災害は発生が3日でした。昨年の災害直後から徳本さんは被災地に取材に入られていたと思いますが、いま熱海の住民の方が困っていることや、必要なものはどういうものだと考えられますか?
徳本)いちばんはインフラ、ライフラインだと思います。電話が通じるのか、食事ができるのか。そして次に大事なのが、今後の見通しを早く示してあげることではないかと思います。
当初、ここまで大きな被害になるとは想像できなかった~雨が降り続き、孤立した集落に車で行くことは不可能だった
飯田)なるほど。そして、熊本南部は災害から1年となりました。ここまでどういう想いがありますか?
徳本)振り返ってみますと、ここまでの被害になるとは当時、想像がつかなかったというのが率直な想いですね。県内で記録的短時間大雨情報が出て、午前3時ごろに会社に出社し、それから球磨川を目指して八代市に向かいました。八代市は下流域になるのですが、下流域ですら見たこともないような濁流でしたので、上流はもっと大変なことになっているだろうと思いましたが、ここまでの被害になるとは流石に考えが及びませんでした。
飯田)自分の身の安全も図りつつ取材をしなくてはいけないし、道路が寸断されているなかで、なかなか現場に入るのが大変だったと、当時も徳本さんはおっしゃっていましたよね。
徳本)そうですね。行きたくても近づけないし、雨が続いていましたので、またどこかで土砂崩れが起きるかも知れないという思いもあって、車で孤立した集落に向かうというのは不可能な状態でした。
蒲島熊本県知事「創造的復興と被災者の心の復興に取り組む」
飯田)7月4日には人吉市、八代市、津奈木町で追悼式が開かれたようですが、取材されましたか?
徳本)私は会社で他の記者が原稿を上げて来るのを待っていました。
飯田)4日はどのような状況でしたか?
徳本)亡くなった方が最も多い人吉市では、午前10時から追悼式が行われて、遺族の方々も参加しました。そのなかで代表の方が「命を守ることを第一に考えて行動して行くことの大切さを、後世に伝えて行きたい」ということを、涙ながらに力強く話されていました。蒲島郁夫熊本県知事も参列して、「創造的復興と被災者の心の復興に取り組む」と決意を述べられていました。
まずは河床の掘削、その後「引堤」をつくる
飯田)復興の道筋として、氾濫してしまった球磨川に関しては、まず堤防を直すところから始めないといけないですよね。
徳本)そうですね。最初にやったことは、河床の掘削です。あのとき土砂が一斉に川を流れたものですから、河床がずいぶん高くなったので、球磨川とその支流の93万立方メートルの土砂を撤去して、これが5月に完了しました。そして、堤防を高くしても対応できない可能性があるので、「引堤」と呼ばれるような、堤防を川から離して川幅を広げ、外側に新しく堤防をつくるという対策が取られる見通しです。
飯田)遊水池のようなところをもっと広げてつくると。何かあったときには、そこで対応ができて、町場までは入らないようにすると。
徳本)そうですね。
飯田)しかし、河底が高くなってしまって、現状復帰するまでに5月までかかったのですね。
徳本)そうなのです。まず緊急的にできる対応としては、河床を下げるということしかできないので、梅雨の時期に対しての対策の1つということですね。
完全復旧には程遠い鉄道、道路
飯田)道路、鉄道に関してはいかがですか?
徳本)球磨川沿いには国道219号線という大動脈が通っているのですが、これが甚大な被害を受けました。応急的な復旧が進んで、現在は地元の方々は通ることができますけれども、まだ一般通行ができません。そして、球磨川にはいくつも橋があるのですが、10橋が流されてしまい、4つの仮橋が架けられました。また、JR肥薩線については、県の治水対策もあるので、まだどうなるか決まっていません。
川辺川ダムの建設をめぐっては意見が2つに割れている
飯田)スタジオには須田慎一郎さんもいらっしゃいます。
須田)須田慎一郎です。よろしくお願いします。
徳本)よろしくお願いします。
ジャーナリスト・須田慎一郎)洪水に関して言うと、川辺川ダムの存在が当時も大きくクローズアップされたと思うのですが、現知事は、「穴あき方式」という従来のものではないけれども、建設にスイッチを切り替えました。しかし、過去を見ると、熊本県全域かも知れませんが、この地域は川辺川ダムの建設をめぐって大きな政治問題になっていて、選挙のたびに大きな争点になって来ました。そこは有権者である、県民の受け止め方はどうなのでしょうか? やはりダム建設を支持しているのでしょうか?
徳本)これは意見が分かれていまして、上流域の人吉市の住民の方は、下流域の方を守るためには仕方ないのではないかという意見が出ている一方で、球磨川の恵みを受けて生業をやっている方々からすると、やはり川の汚れなどの被害があるのではないかと、真っ二つに意見が分かれています。あのときと同じように分断してしまったという状況があります。
須田)そうすると、結論は出ていないのでしょうか?
徳本)2020年11月に、蒲島知事が県議会で「球磨川最大の支流である川辺川に、流水型ダムの建設を国に要請する」と発表して、ダム建設をもとに治水対策の検討が進められているようです。
川辺川ダムの建設が選挙の大きな争点になることはないのではないか
飯田)須田さんから「選挙のたびに」という話がありましたが、総選挙が近付いています。ここが争点になりそうですか?
徳本)すでに蒲島知事は建設を要請すると発表していますので、ここが大きな争点になるかどうかは難しいところですね。
飯田)それよりも、復興などがまだ道半ばと、その方が問題になって来ますものね。
徳本)そうですね。
マイタイムラインの作成
飯田)今後に向けて、当時の教訓を生かすようなことは起こっていますか?
徳本)熊本県はいまソフト面をさらに強化しようとしていて、「マイタイムラインの作成」を各自治体、住民に呼びかけて取り組んでいます。これは、「自分の家族の避難行動計画をつくろう」というもので、現時点ではハードの対策が追いつかないため、「まずはマイタイムラインをつくって、自分の命を自分で守りましょう」という取り組みを進めています。
飯田)「自分の周りでこれが起こったら、こう避難しよう」ということを、あらかじめ決めておくということですね。
徳本)そうです。
空振りでもいいからとにかく早く避難しよう
飯田)最後に全国の皆さんに伝えたいことをお願いします。
徳本)雨は地震と違い、ある程度予測ができるものです。私も家を亡くした人、家族を亡くした人、多くの人の声を伺って来ましたが、皆さんおっしゃるのが「空振りでもいいからとにかく早く避難しよう」ということです。「自分のところは大丈夫だと思わないこと」というのがいちばん聞いた声です。こういう災害は、いつ自分の身に降りかかるかわからないので、いまのような言葉は、私も頭のなかに常に入れておきたいと思います。
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