米軍の駐留経費の協議を行う前に、日本側が決めなくてはいけないこと
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月30日放送)に外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が出演。実務者協議が8月に行われるアメリカ軍の駐留経費について解説した。
アメリカ軍の駐留経費、8月にも交渉が本格化へ
在日アメリカ軍の駐留経費の日本側負担、いわゆる「思いやり予算」をめぐり、日米両政府は2022年度から複数年度分の金額を決めるための実務者協議を8月上旬にもアメリカで行う方向で調整に入ったことがわかった。アメリカ側は増額を求めるとみられ、年末までの妥結を目指して交渉が本格化する。
宮家)これは「思いやり」ではないのです。
飯田)思いやりではない。
日本とアメリカのバランスをどう取るか
宮家)日本政府は「思いやり」という言葉は使いません。駐留軍経費の負担交渉です。昔防衛庁長官で、副総理までやった金丸信さんがお使いになったと言われていますが、いずれにせよ、日本はアメリカを思いやってお金を払っているわけではないのです。日米安保があって、駐留軍がいる。アメリカには駐留経費以外にも、多くのお金を払っています。それで日本を守っているわけです。そのなかで、日本とアメリカの経費負担のバランスをどう取るかという問題なのであって、別に「思いやり」でやっているわけではありません。
飯田)そこには日本の利益というものもある。
宮家)もちろんあります。だから払っているわけです。一時期、経費がどんどん増えていったころがありました。そのなかで1998年~1999年に期限が来たとき、たまたま私が駐留軍経費の負担問題で交渉をしたのですが、そのとき私は経費を減額したんですよ。
飯田)そのころは外務省の課長ですか?
宮家)北米局の日米安保条約課長でした。当時の局長もアメリカに対しては厳しかったので、「ビタ一文増やさず、絶対に減らす」と考えて交渉していました。当時はそういう時代でしたね。増やす、増やさないという議論もありますが、議論の本質は金額の話ではないと思います。
日米の役割分担を踏まえた上で経費の問題がある~目的は「抑止」ということ
宮家)いま求められているのは、「いくら払って、いくら払わないか」という話ではなく、尖閣然り、台湾然り、南シナ海然りです。要するに、世界中で中国がいい意味で台頭してくれるのならいいけれど、そうではなく、現状を彼らの有利になるように変えようとして物理的な力を使うのであれば、それは抑止をしなくてはいけない。ある程度の戦闘力・攻撃力がなければいけないのです。
飯田)そうですね。
宮家)駐留軍の経費ももちろんあるけれど、それ以外に日米の役割分担などもすべて踏まえた上で、そのなかの一部として、経費の問題があるというように見るべきだと思います。
飯田)日米の役割分担を踏まえた上で。
宮家)そろそろ経費を「思いやり」などと言うのはやめましょう、それはあくまで結果ですから。問題の本質は目的が何かということですが、目的は「抑止」です。そこをはき違えないようにしないと議論がおかしくなってしまうと思います。
全体的な日米の役割分担を見直さなければならない~日本が何をやるのか
宮家)では、いくらがいいのかということですが、トランプさんが4倍増などと言っていました。でも4倍も払うということは、在日米軍の軍人の給料まで払わなくてはいけなくなるかも知れない。給料まで払ったら、これはもう傭兵です。もし我々が給料まで払うのであれば当然、日本は指揮権を持つことが必要です。日本がお金まで払って指揮権はアメリカにあるというのは、あり得ない話です。
飯田)あり得ませんね。
宮家)もともとあり得ない話なのです。ただ、問題は先ほど申し上げた通り、日本側が「日本を守るために何をやるのか」ということです。戦うのはすべてアメリカで、「アメリカさん、お願いします。我々は平和国家なので何もいたしません」ということになれば、米側だって「そんなわけがないでしょう」ということです。自分の国を守る気概がないような同盟国を誰が守るのだと、私は思います。お金の問題だけではなく、脅威が確実に大きくなる可能性がある以上は、そこまで含めて全体的な日米の役割分担を見直さなければなりません。その上で、「ではいくらだ」というように決めるべきだと思います。任務の問題も含めた議論をすれば、必ずしも大幅に増やさなければいけないわけではないと思います。
飯田)かつては「盾と矛論」のようなものがありましたけれども、そのようにクリアカットに分かれるようなものでもない。
宮家)そういう時代ではありません。既にサイバーの世界、宇宙の世界、電磁波の世界では、常に脅威があるわけです。どこからが矛でどこからが盾だというような議論ではもうあまり意味がないと思います。守ると同時に攻めないと抑止ができないということではないでしょうか。
戦争を回避するためにも、国民全体を含めた「覚悟」が必要となる
飯田)戦後70年余りにわたって、この国あるいは自衛隊は大変幸せなことに、任務による殉職者を出していない。訓練で殉職してしまった方が何人もいらっしゃるのは承知していますが、国民全体を含めた「覚悟」が必要なのかも知れません。合衆国大統領はそれを毎日のように突き付けられているわけですよね。
宮家)そうです。アメリカの国防長官は、1人1人の出征命令にサインを自書したという話がありました。それだけの責任があるのですね。
飯田)そこにはものすごい重さがある。
宮家)命をかける兵隊たちに出動を命令するわけですから、こんなに厳しい責任はないですよね。それがいままで日本には、いい意味で、なかったのです。しかし、今後はそれだけで済むのかという話です。「戦争をしましょう」と言っているわけではないのです。戦争を防ぎたいからこそ、日本は抑止力を充実させるべきだと言っているのです。
飯田)その抑止力が張子の虎ではないことを見せるためには、覚悟が必要になるということですか?
宮家)覚悟、能力と意図をしっかりと持っていて、「簡単にはやらせない」ということが伝われば、必ず向こうは躊躇すると思います。それによって戦争なり、いろいろな不測の事態を回避することができると思います。
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