「病床ひっ迫」は高齢者の感染者が減少し、死ぬ人が少なくなったから ~菅総理「宣言解除の前提は医療提供体制の確保」

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(8月18日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。緊急事態宣言の対象地域拡大などの決定を発表した菅総理の会見について解説した。

川崎のコロナ病棟 病床逼迫、ピーク見えない=2021年8月11日午後 写真提供:共同通信社

川崎のコロナ病棟 病床逼迫、ピーク見えない=2021年8月11日午後 写真提供:共同通信社

菅総理会見~宣言解除の前提は「医療提供体制の確保」

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菅総理)緊急事態宣言の対象地域に、茨城県、栃木県、群馬県、静岡県、京都府、兵庫県、福岡県を追加するとともに、まん延防止等重点措置を宮城県、富山県、山梨県、岐阜県、三重県、岡山県、広島県、香川県、愛媛県、鹿児島県において新たに実施し、期間はそれぞれ8月20日から9月12日までとすること。現在、6つの都府県を対象としている緊急事態宣言、6つの道と県を対象とする、まん延防止等重点措置について、それぞれ9月12日まで延長することを決定いたしました。

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菅総理大臣は緊急事態宣言の対象地域の拡大などを決めたことを受け、8月17日夜に記者会見し、感染拡大の要因は感染力の強いデルタ株だと指摘した。「医療体制の構築」と「感染防止」、「ワクチン接種」の3つを柱として対策を進めると強調した。

新行市佳アナウンサー)また17日、政府は緊急事態宣言の対象地域に茨城、栃木、群馬、静岡、京都、兵庫、福岡の7府県を追加し、期間は8月20日~9月12日までとすることを決定。同じ期間、まん延防止等重点措置を宮城、山梨、富山、岐阜、三重、岡山、広島、香川、愛媛、鹿児島の10県に新たに適用する他、これに合わせて8月31日までが期限となっている6都府県の宣言と、6道県の重点措置の延長も決めました。

解除については「医療ひっ迫がなくなるかどうかが重要」

佐々木)解除については、医療提供体制の確保で、「医療ひっ迫がなくなるかどうかが重要」だということです。いままでは陽性率が低くなる、感染者数が減ればという話でした。なぜ変わったかというと、デルタ株の状況が全然違うからです。

病床が空かないのは高齢者の感染者が減少し、死ぬ人が少なくなったから

佐々木)日本の場合、高齢者のワクチン接種が8割~9割まで進んでいて、感染者が少ないわけです。40代~50代の現役世代の感染者が増え、高齢者が感染しなくなるということが何を意味するかというと、死ぬ人が少なくなるということなのです。これをある医療関係者に聞いて愕然としました。

新行)死ぬ人が少なくなる。

佐々木)それ自体はいいことですよね、高齢者の方が死ぬ確率が高かったわけですから。「死ぬ人が少ないというのは、どういうことですか?」と聞くと、「病床が空かないということなのですよ」と。亡くなると病床が空くから、またそこに重症者が入るけれども、40代~50代は亡くなりにくいので、病床は空かない。そうすると新たな重症者が来ても、病床に入れられないということなのです。身も蓋もないと言えば、身も蓋もないのだけれども。

新行)それで病床が空かない。

佐々木)結局、いまの問題は、死者数で見ると高齢者がいないから、前よりも少ないのです。その代わりに病床が埋まってしまって、医療がひっ迫している状況であると。つまり、死亡率や感染者数で判断するのではなく、「医療がひっ迫しているかどうか」で判断しなくてはいけない、という状況に変わって来ているということです。

「病床ひっ迫」は高齢者の感染者が減少し、死ぬ人が少なくなったから ~菅総理「宣言解除の前提は医療提供体制の確保」

米製薬大手ファイザーが開発した新型コロナウイルスワクチン(アメリカ)=2020年12月30日 AFP=時事 写真提供:時事通信社

新型コロナの事態が変化することにどのように追随してキャッチアップして行くか~状況に応じて柔軟に作戦を変えて来た「日本モデル」

佐々木)毎回、緊急事態宣言が出る毎に、出口が変わって来る。「出口戦略はどうなっているのか」、「もっと明確にしろ」とみんな怒るのだけれども、デルタ株が出て来たり、ワクチン接種が進んだり、いろいろな状況が変わることによって、事態は変化している。事態が変化していることに、どうやって追随してキャッチアップして行くかということが、感染症対策にとって重要な話になって来るのだけれども、ここがメディアや国民にはわからないのです。

新行)事態が変化していることに、どう追随するか。

佐々木)昨日(17日)、ある番組でコロナ分科会の会長である尾身茂先生が出て来られて、やり取りをしたのですが、尾身先生は「日本モデルとは何なのか」ということをおっしゃいました。世界のなかでは、日本は感染者数も死者も少なく、欧米に比べれば抑制してやって来た。それは「日本は自粛でうまくやった」という話ではなく、日本は当初、クラスター対策を積極的に行って「3密をやめましょう」など、日本独自のことを出しましたが、その都度、状況は変わって来た。基本的な考え方は同じなのだけれど、そのときの状況に応じて作戦を変えて行くという柔軟さを持っていた。「その柔軟さこそが、我々の強みだ」と前々からおっしゃっているのです。

一方では右往左往しているようにも見えてしまう

佐々木)確かにそうなのだけれども、一方で、その都度、柔軟に対応を変えて行くというのは、メディアや国民から見ると「右往左往しているようにしか見えない」ということでもあるのです。だから今回も、いままでステージなどと言っていたのに、「なぜ医療がひっ迫しているかどうかが解除の要件になるのだ」と怒り出す人もいる。

新行)なぜ変わるのかと。

佐々木)我々はその考え方を変えなければいけない。特にサイエンス、科学の分野は間違っていたらすぐ間違いを認める。「新しい事実に基づいて考えを変える」ということが科学なわけです。

柔軟に対応するということを、国民がきちんと受け止める姿勢が必要

佐々木)その科学の考え方は、政治やメディアには馴染まない。以前言ったことを「間違えました、すみませんでした」などと言いにくいではないですか。特に政治家は、それを言った瞬間に、「昨日はこう言っていたのに、あなたは間違っていたではないか」と責められるわけでしょう。役所もそうです。昨日言っていたことと、きょう言っていることが違っていたら、厚生労働省はすぐに責められる。特に新聞やテレビから。

新行)そうですね。

佐々木)そうすると、間違ってはいけない、絶対に間違いを認めてはいけないという方向に舵を切ってしまわなければいけなくなるのです。しかし、それではますます柔軟に対応できなくなってしまう。柔軟に対応するということを、我々がきちんと受け止めるという姿勢でやって行くしかないのではないかと思います。

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