アフガン撤退も、アメリカが東アジアから退かない「3つの理由」
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(8月24日放送)に地政学・戦略学者の奥山真司が出演。現在のアフガニスタン情勢、また、今後の東アジアにおけるアメリカと同盟国との関係について解説した。
アフガニスタンのカブール空港で銃撃戦
ドイツ軍のツイッターによると、アフガニスタンの首都カブール空港で8月23日、正体不明の武装集団の襲撃を受けたアフガン警備隊が応戦し、アフガニスタン人の警備担当者1人が死亡したと明らかにした。
飯田)居合わせたアメリカ軍とドイツ軍も巻き込まれたということですが、アメリカ、ドイツ両軍からは負傷者は出ていないということです。自衛隊機が出発しましたが、その目的地はこのカブール空港です。
奥山)不安なところがありますよね。本日(24日)、パラリンピックの開会式ということで、航空自衛隊のブルーインパルスが東京の上空を舞うということになっていますが、その反対の部分では、リアルなミッションが行われています。無事の帰国を祈るしかないという状況です。
「アメリカは頼りにならないぞ」と報じる中国の「環球時報」
奥山)今回、アメリカがアフガニスタンから手を引いたわけですが、この撤退をきっかけに中国の「環球時報」、タカ派の論調を常に言う新聞が「見ろ、アメリカさんはこんなに頼りにならないではないか」と報じています。専門用語では「クレディビリティ」と言うのですが、信頼性ですね。「アメリカは同盟国を守ってくれないのだ」、「仲間を守ってくれないのだ」という議論を環球時報の社説で書いています。
飯田)アフガン撤退でタリバンがカブールを落とした直後くらいに、「台湾、見てみろ」という形で出していますよね。
奥山)「アメリカが全然頼りにならないぞ、ほら見てみろ」と、嬉々としてこういう論文を出しているわけです。ただ、私は全般的な東アジアの状況とアフガニスタンは違うぞ、と思うのです。
アメリカの世界に対するコミットメントの信頼性は崩れない「3つの理由」
奥山)アメリカの世界に対するコミットメントの信頼性は崩れないという理由を、3つ説明させていただきたいと思います。アメリカはアフガニスタンから退きましたけれど、東アジアからはそう簡単には退かないという話です。
東アジアからは退かない~アフガニスタンと状況がまったく違う
奥山)1つ目の理由として、アフガニスタンと東アジアの状況は全然違います。そもそもアフガニスタンはほとんど国家が機能していなくて、NATOとアメリカが無理やり支えて何とか機能していたのだけれど、汚職も酷かったということもあるわけです。
飯田)そうですね。
奥山)ただ、東アジアは日本も韓国も台湾も含めてなのですが、民主制度もありますし、選挙もあります。国民もまとまっているし、実際、軍隊もしっかり機能している。もちろん、中国が本気で侵攻して来れば、単独で防ぐというのは難しいかも知れませんが、自助努力をしている国々ばかりです。アフガニスタンの軍隊のように、いきなり消えてしまうということはないわけです。中国が台湾の島全体を無理やり占領するのは無理ということもありますので、アフガニスタンと比べるのも失礼だよねということです。
米軍にとって東アジアにある基地は重要な存在
奥山)2つ目なのですが、アメリカのアジアに対するコミットメントはすさまじいものがあります。ものすごく投資をしているということです。1兆3000億ドルを既に直接投資もしているし、これはアジア全体ですが、中国、日本、韓国がアジア全体に投資している合計額よりも多いのです。
飯田)中国、日本、韓国を合わせた額よりも。
奥山)オーストラリア、日本、韓国は基地を持っています。横須賀には「第6号ドック」という、空母までメンテナンスできてしまうという、とんでもないドックがあります。米海軍が世界へ出て行くときに、韓国もそうですが、そこに基地を置いているということはとてもありがたいことです。そこからわざわざ退くということはあるのか。台湾にはもちろん基地を置いていませんが、アメリカの信頼性というところを考えると、アフガニスタンのように、アジアから撤退することはあり得ない。アメリカの世界展開における大黒柱が東アジアにあるということを考えると、信頼性が揺らぐわけがありません。
撤退したあとに反省するアメリカ~今後は東アジアに対するコミットメントを高めなければならない
奥山)3つ目の理由は、歴史が証明しているという話です。冷戦時代がありますけれど、アメリカが実際負けた、または引き分けとされているのは、ベトナム戦争、イランも革命を起こされて撤退しています。そして、朝鮮戦争などがあります。しかし、アメリカは負けたあとに猛烈に反省するのです。今回のアフガニスタンも選挙の争点になりますから、猛烈に反省すると思います。
飯田)撤退したあとに。
奥山)「このままではいけないよね」と切り替えが早いのです。おそらく「東アジアに対するコミットメントをしっかりやらなければいけない」、「取り組まなければいけない」という気持ちになると見てとれます。それは歴史が証明しています。
飯田)歴史が証明している。
奥山)まとめますと、理由としてはアフガニスタンとアジアは状況が違いますし、アジアへのコミットメントがすごい。そして、歴史的にもアメリカは負けたり、危ない状況になったら反省して、「もう1回東アジアに取り組まなければいけない」となりますので、中国側の環球時報が言っているような、アメリカの信頼が失われるということについては、そんなに心配することではないと見ております。
今後日本には防衛力が求められる
飯田)アメリカとの信頼感というところで、「自助努力をしていないところは救わない」という発言がありましたけれども。
奥山)それは当然です。アフガニスタンの場合は、自助努力していると思われていた人たちが、実際には自助努力をしていなかったということです。「アフガニスタンを1つの国として我々が守って行くのだ」という現地の人がいないと、なかなか厳しい。日本の場合は完全にありますし、韓国もそれなりにある。台湾も、台湾人のアイデンティティがいま、「我々は台湾人であり、本土の人間とは違う」という意識が高まっています。それを中国側が打ち崩して行くのは厳しいのではないでしょうか。
飯田)なるほど。
奥山)日本はこれから防衛費増額という形になって、しっかり戦う姿勢を……戦いたくはないのですが、準備して行くことになります。中国側は今回のことをいいチャンスだと思い、アメリカの信頼性を落とす方向にプロパガンダを使って、宣伝戦的にやって行くことは間違いないので、我々はそれに惑わされないようにしなければいけないと思います。
日本の輸送機で日本大使館のアフガニスタン人職員を救出~菅政権にはプラスに
飯田)アフガニスタンの現地邦人、またそれに協力した人たちを救出するということで、自衛隊機を向かわせるということになりました。こういうことをやるのはメッセージになるわけですね。
奥山)航空自衛隊が行うとされる邦人救出という部分もですが、今回、金星だなと思っているのは、日本の輸送機で日本大使館で働いていたアフガニスタン人の職員も一緒に連れて帰るということです。日本には難民として入って来るのかも知れませんが、それを助けるということはすごいことです。アメリカは切り捨ててしまっている部分があるのですが、人道的な観点でも喜ばしいことだなと思います。菅政権には、プラスポイントになるのではないでしょうか。
飯田)日本国内よりも、国際的な評価が高いと。
奥山)高いと思いますね。現地の人はアメリカの場合、損切りをうまくできたという点では、彼らの戦略志向のすごさを見せつけている部分があるのですが、日本の場合、そのあとのケアもしている。素晴らしい決断だと思います。
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