さまざまな覇権国が手を出し失敗して来た、アフガニスタンという国

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(8月17日放送)にジャーナリストの有本香が出演。現在のアフガニスタン情勢について解説した。

さまざまな覇権国が手を出し失敗して来た、アフガニスタンという国

16日、カブールの空港で、旅客機の上に上がったアフガニスタンの人々(アフガニスタン・カブール)=2021年8月16日 AFP=時事 写真提供:時事通信

アメリカのバイデン大統領が、アフガニスタン情勢で声明を発表

アフガニスタンでは反政府武装勢力タリバンが首都カブールに侵攻し、日本時間8月16日に政府に対する勝利を宣言した一方、ガニ大統領は出国し、政権は事実上崩壊した。これを受けアメリカのバイデン大統領は日本時間8月17日朝、声明を発表している。

飯田)声明のなかでは、アフガニスタンからのアメリカ軍の撤退の決意を改めて表明し、「アフガニスタン軍自身が戦う意思のない戦争で、アメリカ軍が戦うことはできない」と述べています。タリバンの攻勢については、「想定外の早さで展開した」と見通しに誤算があったことを認めました。撤退の決定については責任を負う考えを示した上で、「米軍の撤退を完了し、アメリカ史上最長の戦争を終わらせる」と述べています。またタリバンに対しては、アメリカ軍に攻撃を仕掛けたり、作戦を妨害したりすれば、「即座に対応する」と警告を発したということです。どうご覧になられますか?

有本)見通しからは、相当早かったですよね。米軍の撤退前ですからね。

飯田)そうですよね。期日としては8月いっぱいでということですから。

有本)専門家も、「あと3ヵ月くらいは」ということを見通していました。私の周囲でも、9月には危ないのではないかと言っている人もいました。しかし、それよりも早く、あっという間にカブール陥落ですからね。恐ろしいものです。

タリバンの勢力下に入った町では、女性への抑圧が始まっている

飯田)さまざまな映像も出て来ています。

有本)かつて支配していたときのように、今後タリバンが女性、あるいはマイノリティの人たちに対する人権抑圧を行うのかどうか。タリバンの宣伝戦略としては、「自分たちはそんなことはしない」と言っていますが、もう既にカブール市内でも、宣伝ポスターなどに出ている女性の姿などが隠されています。タリバンの勢力下に入った町などでは、女性は仕事ができなくなってしまったり、外出に制限が加えられたり、被りものをする衣装を強制されるというようなことも起きていますから。いままで通りということはないのでしょうね。

飯田)かつての状態に戻って行くような。

まだ日本人が残っている

有本)心配なことは2つあります。1つはアフガニスタン国内に、民間人も含めて日本人が残っているということです。実は私の知人もアフガニスタンにいるのですけれども。

飯田)そうなのですか。

有本)もう連絡が取れていません。帰国する人については、段取りは整っているようですけれども。

飯田)何かあったときの緊急脱出経路のようなものは用意しているものなのですね。

有本)おそらくあるのでしょうね。

さまざまな覇権国が手を出し失敗して来た、アフガニスタンという国

アフガニスタン東部ジャララバードに入った反政府勢力タリバンの戦闘員ら。=2021年8月15日 AFP=時事 写真提供:時事通信

タリバンの勢力が強くなっていることを見誤っていた西側諸国

有本)もう1つは今回の背景ですよね。

飯田)なぜ、このように電光石火でできたのだろうというね。

有本)専門家のなかにも、自分の見通しが甘かったと、アフガニスタンに関してはウォッチが甘かったのだと率直に認めていらっしゃる方もいます。まさにその通りだろうと思います。パキスタン、カブールに来るまでに、実はアフガニスタンの国内でも、伝えられている以上にタリバンの力が強くなっていたのです。そのことを西側も見誤ったということはあるのではないでしょうか。

飯田)見誤っていた。

有本)アメリカはトランプ政権からバイデン政権に変わりました。バイデンさんは大統領選挙のときから、この件に関しては強気に、「大丈夫、大丈夫」というような感じだったではないですか。アフガニスタンの国軍もかなりの戦力があるし、タリバンはまだ小さいから大丈夫というように。

楽観的であったバイデン大統領~「明日は我が身」の日本

有本)それがそもそも見込み違いですし、トランプさんは「条件を付けて、いろいろなことを決めてタリバンとの和平合意をする」と条件付きで言っていたことを、バイデンさんは楽観的に、「無条件で撤退する」と。

飯田)トランプ政権時代は交渉のなかで、タリバンを一部政権に入れることをしながら。

有本)わかりやすく言えば、その一角に入れながら、懐柔して行くというような形です。そうではなく、米軍が引き上げるというのは、タリバンにとっては非常にいいわけですよね。

飯田)目の前の敵が。

有本)いなくなるわけですからね。ここから私たちは、いろいろなことを学ばなくてはいけません。「明日は我が身」というようなところもあります。

タリバンと友好関係を結ぼうとする中国~簡単に友好関係を築いて行ける相手ではない

有本)もう1つは、中国がタリバンといち早く友好関係を結ぼうとしています。いままでもタリバンに対して、後ろ盾になっているのではないかというような話があります。それはそうなのでしょう。影響を及ぼして来ているのだと思います。ただ、中国はタリバンという相手と普通に友好関係を築いて行けると思ったら大間違いだと思います。

飯田)中国とアフガニスタンは一部で国境が接していますし、接していないところでも、タジキスタンなどを通れば行けます。

有本)シルクロードでつながるのです。イランにもつながるわけではないですか。だから中国にとって、昔からここは要所なのですけれども、要所であると同時に鬼門でもあるわけです。近代になってから、ここに手を出して、大変なことになってしまったという国ばかりです。

飯田)その時代で最大の覇権国が手を出し、そして失敗して来た。

有本)ソ連のアフガニスタン侵攻もそうでした。イギリスもアメリカも、ここで国力を削いで行くという場所です。中国がタリバンを通じてということであっても、ここに関与を強めて行くことで、何かいいことがあるのかなと思うところもあります。実は中国はパキスタン国内にいるウイグル人に対しては、懐柔策を行っていたのです。

飯田)懐柔策なのですね。

有本)そうです。直接援助を落とすというようなことをやって来ている。ただ、タリバンがアフガニスタンに根をおろしてしまい、そこで覇権を握ってしまうということになると、中国と「友好を持ちましょう」と、ウイグル人のことも「知らないよ」という話にはならないと思うのです。

飯田)そんなことにはならない。

有本)やはりこの人たちはイスラム教でつながっている部分があるのです。中国のイスラム教徒に対するいろいろな弾圧を、果たしてタリバンはそのまま受容するのか。将来にわたって、中国が援助をくれるから「とりあえず黙っている」という勢力であり続けるのか。そういう相手なのだろうかと。

飯田)いろいろなルポや記事を読むと、ウイグルの方々が中国国内にいて、将来を悲観するというなかで、中東に行ってシリアの紛争に参加するということもあります。より近いところにより強大な組織があるとなれば、そこに行って訓練して来るようなことも。

さまざまな覇権国が手を出し失敗して来た、アフガニスタンという国

ホワイトハウスで記者会見するバイデン米大統領(アメリカ・ワシントン)=2021年3月25日 AFP=時事 写真提供:時事通信

アフガニスタンを拠点にしてイスラム原理主義の勢力が増して行く~ロシアにとっても脅威

有本)一方、アフガニスタンを拠点にして、中央アジアにイスラム原理主義者たちの力が及んで行く。そうすると、あの辺りの風景も変わって行きます。それはロシアにとっても脅威でしょう。

飯田)チェチェンの紛争などは記憶に新しいところです。

有本)どれくらいのスパンで見るかということですけれども、中国はいろいろな財政援助、飴を与えながら、ここを自分たちの思い通りにしようと思っていても、そうはならない可能性がある。「利益だけを取り、理念では中国の言うことは聞かない」という勢力が、ここにできるのではないでしょうか。

飯田)それが今後、東アジアも含めてどう作用して行くかという。

有本)世界情勢に影響する出来事ですよね。

アメリカ国内でも政権への批判が強まる

飯田)他方、テロの温床になるのではないかと指摘する動きもあります。そうすると、それがアジアの方にも来るのかどうか。

有本)その可能性はあるでしょうね。

飯田)いろいろなところに波紋を呼んでしまう。

有本)呼ぶでしょうね。アメリカ国内でも、政権への批判は相当強まるでしょう。もう既に、トランプ前大統領はバイデンさんに「大統領をやめろ」と言っています。

飯田)尻尾を巻いて逃げ出したではないか、全部放り出したではないかと。

有本)次の大統領選を狙っているのではないかと言われている、元国連大使のニッキー・ヘイリーさんなども、バイデンさんがなかなかステイトメントを出さないから、「バイデンさんはバカンスに行ったのか」と言っていました。そういう意味では、アメリカ国内でも、この件でまたざわつくでしょうね。

魅力的な場所に見えるアフガニスタン

飯田)中国も背後で中央アジアの方が蠢いているなかで、台湾と相対するときも、二正面に近くなって来るのでしょうか。

有本)そうなって来ます。アフガニスタンという場所は魅力的な場所に見えるのです。よく「アフガンを制するものは世界を制する」などと、アレキサンダー大王の時代から言うけれども、それは古代の話です。ここである程度成功したのは、ティムール朝くらいで、あとはみんなアフガニスタンに足を取られているわけです。中国もそうなる可能性を秘めているのではないかと思います。

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