ニッポン放送「飯田浩二のOK! Cozy up!」(8月9日放送)に朝日新聞編集委員で元北京・ワシントン特派員の峯村健司が出演。スマホ情報流出の安全保障上のリスクについて解説した。
対話アプリLINE 台湾の要人100人以上の情報が流出か
7月28日、台湾当局や政党、また軍の高官ら100人以上が対話アプリLINEを通じてハッキングを受けていたことがわかった。多くの個人情報が流出した可能性があり、LINE台湾法人はハッキングの事実を認め、原因の調査を進めている。
飯田)7月28日付けの台湾の新聞「自由時報」で報じられ、その後LINEの台湾法人が認めたということですが、峯村さん、このLINEに関してというのはずっと取材されていますよね。
峯村)報道が事実ならば、いちばん恐れていたことが起きたなというのが私の印象です。今回3月、LINEの一部の情報が実は韓国のサーバーに保存されていて、さらに中国の関連会社が利用者の個人情報にアクセスしていたという事実を特報しました。この台湾の問題というのは、ある意味日本以上に深刻な問題なのです。というのも、私の知り合いの台湾の軍の幹部とか、政府の高官のうちかなりの人がLINEを使っています。その最大の理由は、中国のアプリの「微信(ウィーチャット)」とかを使うのは危ない。なぜなら情報が中国に漏れるかもしれないからなんです。だけどLINEは「日本のアプリで安全だから我々はこれを使っているのだ」と皆言っていたのです。
そう考えると、今回の事件は、日本のアプリだからという信用を完全に失ってしまう行為になりかねないということです。今回のスパイウェアとして使われたソフトというのは非常に巧妙なもので、例えばスマホの盗聴だけでなく、位置情報でこの人がどこにいるかというのが全部抜き取られるものだったそうです。そうなってくると、もろに台湾の軍とか政府の幹部の位置情報とか、会話の中身を抜かれていた可能性があるということになってくると、安全保障に直結する問題になっていたという可能性があるという意味では非常に深刻な問題と言えます。
“独裁国家”でよく使われるスパイウェア「ペガサス」が使われた
飯田)今回使われたスパイウェアがペガサスというもので、あれと思ったのですが、これって国際報道の調査報道で、このところ強権的な国がこのスパイウェアを使ってジャーナリストだとかを監視するのにかなり使っているぞ、と。イスラエルの会社が開発したものであるというのがスキャンダル的に報じられたばかりのものですよね。
峯村)いまいちばん注目されているソフトですよね。そういう所謂独裁国家とかでよく使われているソフトの1つだという言われています。
飯田)あの当時、報道では最初は中東の諸国であるとかで使われている可能性が高いぞということが言われておりましたが、これ、台湾を狙う国ってそう多くはないだろうと考えると、いろいろと連想してしまいますね。
峯村)そうですね。そんなにないというか、1つしかないでしょうという感じはしますよね。こうした分野におけるイスラエルの技術高いので、いろいろな国に使われるのです。それこそ中国から北朝鮮にも流れたり、中東に流れたり、ということがあるので、そういうことを考えると、流出した可能性というのは十分考えられますよね。
飯田)ぱっと見て、ハッキングだったかと。そうするとある意味事故に遭ったようなものかと思うけれども、そこのいろいろな詳細が出てくると、その更に意図みたいなものまでいろいろと考えたくなりますよね。
スマホのハッキングは安全保障に直結しかねない問題
峯村)そうですね。これまでのようなデータの一部が取られましたねという話ではないんです。いまのこのソフトというのは。本当に位置情報とか中身全部が取られたり、やり取りが把握されたり、あとは偽情報を流すことにも利用されかねません。戦争のときなんかは、乗っ取られた携帯に偽情報が流されるというリスクもあります。例えば2014年の、ロシアがウクライナに侵攻したときなんかも、実は事前にロシア側がウクライナの兵士のスマホを全部ハッキングしていたのです。そこに「ここに集まれ」とロシアの司令部から出したように見せかけた偽情報を流しておいて、ウクライナ兵が集まったところにミサイルを撃ち込んで壊滅させるというやり方が使われたのですよね。
それを考えると、スマホって気軽に使っていますけれども、実は安全保障に直結しかねない問題なんです。例えば今回台湾の問題だって、位置情報が抜かれていたのならば非常に深刻な問題です。ドローンとか、ミサイルとかと組み合わせれば暗殺も簡単にできてしまうわけなんですよね。例えば台湾の高官の居場所が正確にわかれば、ピンポイントでわかれば、そこに撃ち込むことができるわけです。
飯田)このタイミングで集合しているぞとかいうのも、閣僚会議を開いているぞ、ここだというような。
峯村)あとは軍の高官たちがここに集結しているから、ひょっとしたら相手国が戦争の準備をしているのではないかということも予測もできますし。
飯田)実際に攻撃しなくても、そこにいて情報を取ればいろいろな情報を取れるぞというのがわかる、とか。
峯村)そうですね。だから例えばアメリカ軍の兵士なんかも、SNSを使わせなかったり制限したりしています。例えばアフガンに派遣された兵士が実は全部位置が追跡されていて、どこに展開されているのかがバレてしまったというのが実は起こっていたのですよね。
飯田)そうするとゲリラが襲撃するのは容易であると。
峯村)そうです。あとは逆に敵対国がアメリカはこういう軍事展開・オペレーションをやっているのだと掴めますよね。
飯田)なるほど。実際に何か起こさなくても情報だけ取るということ。
峯村)十分、それは相手方にしてみれば財産ですよね。
飯田)たまらないものがありますか。
峯村)何人の部隊があって、この部隊はこういう動き方をして、山岳ではこういう展開をするのだというのが全部スマホでわかってしまうということですよね。
飯田)じゃあうちの国で展開するとしたらこうやってくるよな、この人たちはということが。
峯村)わかります。想像できますよね。
飯田)これ、LINEは日本でも相当使われていますよね。今回台湾のことが出てきました、ということを考えると。
峯村)官房長官の会見では、「現時点ではそのようなLINEを使ったハッキングの攻撃の報告は受けていません」と答えていらっしゃいましたが、「現時点では」という話というのが非常に気になりますよね。今回問題となったレターシーリングというプライバシー設定機能は、日本でも使われているものなので、そこは本当に大丈夫だったのかということは、しっかりと調査してもらいたいですよね。
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