ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(9月8日放送)に数量政策学者の高橋洋一が出演。菅内閣の残した功罪について解説した。
菅総理自身がやりたかったことは、携帯電話の料金を下げることだけ
9月3日の臨時役員会で自身の任期満了に伴う総裁選に立候補しないと表明した菅総理。この1年、菅内閣はどのような実績を残したのか。その功罪を探る。
飯田)9月3日に、菅さんが次の総裁選に出ないという速報が出ました。私個人は驚いたのですが、高橋さんはどうでしたか?
高橋)驚かなかったと言えば、嘘になってしまいますが、あのタイミングでというのは別ですけれど、出ないということも想定はしていました。もともと、安倍さんが急にお辞めになったあとの「ショートリリーフ」という役割でしたから。総理になった時点でやることは決まっていて、「そのときまでに仕事だけはする」という、そんな感じはしました。
飯田)総裁の任期まで。
高橋)総裁の任期までは仕事をすると。菅政権はいろいろなことをやっているのだけれど、ほとんど報道されないですよね。私のイメージでは、菅さんがやりたかったのは、携帯電話の料金を下げたことですかね。
飯田)菅さんが本当にやりたかったこと。
高橋)やりたかったのはあれ1つくらいで、他のものは前から言われていた話なのです。前から言われていたことを処理するという、そういう感じです。
安倍政権から残された仕事はきちんと処理する
高橋)例えば自衛隊の周りの土地利用を規制する「重要土地利用規制法」は議員立法でやっていたので、全然できなかったのです。どうするのか聞いたら「閣法でやるから」と言われたので、「これはやる気だな」とすぐわかりました。
飯田)閣法、内閣提出法律案。
高橋)あれは確実に成立するので。あとは、例えば処理水の放出もあります。
飯田)福島第1原発の。
高橋)それと、慰安婦の表現がおかしいというのを閣議決定したり。
飯田)教科書においての。
高橋)そういうものは前からある話だったのだけれど、処理している。
新型コロナのワクチン接種は菅総理の功績~超法規的措置で打ち手に歯科医を投入
高橋)ワクチンは自分でやりたいと言っていたわけではないけれど、力を入れていました。特に日本はスタートが遅れたでしょう。遅れたのは事実なのですが、世界的にも感染が少ない国は遅れるのです。他の国だと、韓国やニュージーランド、オーストラリアも同じように遅れているのです。最初はうまく行かなかったけれど、途中から1日120万回というすごいペースで打って、結果的には、各国を抜いてしまった。たぶんあと1週間くらいでアメリカを抜くと思います。
飯田)いま、足下で47~48%くらいの方が2回目の接種を終えているということになります。
高橋)全体の接種を人口で割り算すると、アメリカを抜いて、9月末くらいにヨーロッパと一緒になるというようなペースです。「遅れた」と言われたけれど、菅さんは頑張ったと思います。4月に日米首脳会談でアメリカに行ったでしょう。帰ったときに話を聞いたら、最初に「ワクチン1億本確保」ということを言ったから。
飯田)1億本を取ったと。
高橋)バイデンさんに会いに行ったのに、1億本の話の方が先だったので、アメリカへはそのために行ったのかなと思いました。米韓首脳会談は1ヵ月後の5月にやったでしょう。
飯田)ゴールデンウィークのあとでしたね。
高橋)そうしたら、文在寅さんは五十数万本で、軍隊用のワクチンだけしか確保できなかった。1億と五十数万本ではずいぶん違うなと思ったくらいです。
飯田)そうですね。
高橋)そのあとも4月末にワクチンの打ち手問題があったとき、本当は医師、看護師だけしか打てないのだけれど、超法規的措置で歯科医を入れてしまって、「すごいな」と思いました。「これは超法規的措置だから、もっとアピールした方がいいのではないですか」と言ったけれど、「いやいや」という反応でした。「仕事だけする」という感じで、宣伝をほとんどしないのです。
ワクチン接種「1日100万回」達成も積極的なアピールはせず
飯田)今週、河野大臣にもインタビューした模様をお聞きいただいていますが、ワクチン接種の話を聞いた際、総理が「1日100万回やるのだ」と言ったときには、驚いたと。「70~80万回くらいにしておきましょう」と止めに入ったとおっしゃっていました。
高橋)私は100万回は当たり前だと思いました。2020年5月に補正予算を用意したときに、冷凍庫は1万個でしたからね。冷凍庫1万個というのは、1ヵ所辺りで120人に打つと、120万になるのです。
飯田)1万×120だから。
高橋)1万ヵ所の拠点を予算で用意したので、120人だと1時間で約30人に打てそうだから、「4時間でしょう」と思いました。供給と打ち手さえ確保できて、少し習熟すれば、そのくらいはできます。供給についてはアメリカに行ってゲットしたし、打ち手の話は超法規的措置で解決したから、難しくないと思っていました。
飯田)完全に下地をつくって、あとは運用と。170万回打った日が出たくらいですものね。
高橋)算出は簡単なのだけれど、1時間で30人でしょう。だから、6時間打つと180人に到達してしまうのです。
積み残された宿題を片付ける政権だった
飯田)ある意味、歴代政権の宿題を片付けて行った政権だった。
高橋)それは菅さんらしいのですよね。仕事が好きだから、自分で新しいアイデアを持って何かを打ち出すというよりは、残務処理が得意な感じですよね。
飯田)デジタル庁が9月1日に発足しました。これも、ある意味で宿題のようなものですか?
高橋)私が役人だった小泉政権のとき、2000年の最初くらいに、「行政手続きはみんな電子化します」と言っています。そのことから比べるとずいぶん遅いなと思うけれど。
飯田)「IT立国」と言っていました。
高橋)同じことを言っているのです。あれも20年間くらいの積み残しですよ。そういう話が多いのだけれど、菅さんは仕事が好きで、休まず仕事をするというタイプなのです。ある意味、それが仕事と割り切っていたように思います。そのあと後進に道を譲るということは、私は違和感がなかったです。「このタイミングで言ったのか」と。このタイミングがよかったかどうかはわかりませんが。
広報に力を入れず、国民に伝わらなかった部分が少なくない
飯田)広報として表に出て来るところがどうだったのか、と指摘されるところもありますが。
高橋)本人もそういうことはやる気もなかったから。
飯田)やる気もなかった。
高橋)そういうキャラなのでしょう。アフガンの救出についても、あれは自衛隊の超法規的措置だと思います。法律を見ても無理ですよ。
飯田)法律を見ると、現地の安全と現地政権の承認が必要となっています。
高橋)法律上は厳しいです。でも、「そんなことを言っても仕方がない」ということで行ったのではないでしょうか。だから、そういうことを説明すれば、わかってくれる人はいるのだと思うのだけれど、ワクチンの打ち手問題の話でも、説明はしないわけです。役人としては正直、説明しにくいですよ。「超法規的措置は違法ではないですか」と言われて、「そうですよ」と言ってしまったら大変ですからね。
飯田)あとから整合性がつかなくなってしまう可能性がある。
高橋)「政治判断です」と言うのだけれど、役人が「政治判断です」と言ったらおかしいでしょう。
仕事人間・菅総理「男は黙って」はいまの時代には難しかった
飯田)菅さんが仕事を中心としていて、口下手だというのは、前からわかっていたことではないですか。政権全体のスポークスマンということでは、官房長官やワクチン担当大臣、コロナ担当大臣の西村さんもいらっしゃった。その辺りを含めた全体で、もっと広報できなかったのでしょうか?
高橋)わかりません。それは広報の人に聞いていただかないと。傍目で見ていると、「すごいことをやっているのにな」と思いましたけれどね。でも説明しないから「あれ?」と思いました。ワクチンの打ち手問題の超法規的措置など、私はいろいろと言ったけれど、マスコミも全然言わなかった。
飯田)この番組ではおっしゃいましたよね。
高橋)この番組では言いました。でも、一般的には全然広がらなかったですよね。もうキャラとしか言いようがない。政治家が言わなかったら、役人は言いづらいです。
飯田)基本的に法律を遵守しなければいけない。
高橋)「法律を守らなかったのか」と言われても、役人ではどう言っていいのかわからない。
飯田)役人はそうですよね。やはり、そこは政治家が。
高橋)政治家が「政治判断しました」と言わないと。
飯田)「男は黙って」というような価値観で、昔はCMになったりしたけれど、いまの時代では、もう少し広報が必要だったのでは。
高橋)本人があまり言わない人だから、そのままになってしまったのかも知れないしね。
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