「あんた、生涯後悔するぞ」は、子分たちへのメッセージ ~工藤会トップに死刑判決 暴力団対策の今

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8月24日、福岡県北九州市に本部を置く特定危険指定暴力団「工藤会」のトップ、総裁の野村悟被告(74)に死刑判決が言い渡された。ナンバー2で会長の田上不美夫被告(65)は無期懲役の判決。2人は福岡県で起きた4つの市民襲撃事件で殺人などの罪に問われた。

4つの事件とは……

(1)1998年 元漁協組合長 射殺事件
(2)2012年 福岡県警元警部 銃撃事件
(3)2013年 女性看護師 刺傷事件
(4)2014年 男性歯科医師 刺傷事件

……いずれも被害者は暴力団関係者ではなく、一般の市民である。

このように一般市民を相手に数々の凶悪事件を起こしてきた「工藤会」のトップに死刑判決が出されたことで、今後、組織はどうなるのか、そして日本の暴力団対策はどうなっていくのか。

ポッドキャスト番組「ニッポン放送・報道記者レポート2021」(ニッポン放送 Podcast Station ほか)の9月2日配信回(担当:宮崎裕子記者)ではこのテーマについて取り上げ、元産経新聞社会部記者のノンフィクションライター・尾島正洋氏に訊いた。

工藤会関係先を家宅捜索する福岡県警捜査員と野村悟被告(中央左)、田上不美夫被告(同右)=2010年4月、北九州市小倉北区 写真提供:共同通信社

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野村被告がトップになって以降、一般市民であっても容赦なく暴力が振るわれた

宮崎)数々の凶悪事件を起こしてきた「工藤会」について教えてください。

尾島)工藤会は九州北部から山口県西部に勢力を持つ指定暴力団です。指定暴力団とは、1992年に施行された暴力団対策法に基づいて、各県の公安委員会によって指定された組織のことです。2012年に暴対法が改正された際に新設された、「特定危険指定暴力団」という規定があります。工藤会はこの特定危険指定暴力団に全国で唯一、指定されています。

特定危険指定暴力団とは、一般市民や企業経営者たちに対して拳銃を発砲するとか刃物でけがを負わせるなどの危険行為を繰り返した場合に、都道府県の公安委員会が指定します。指定暴力団は、企業や市民に金銭の要求など不当な活動した場合には中止命令が出されますが、特定危険指定暴力団は中止命令などの行政手続きを経ずに、警察が即座に逮捕することができます。

工藤会は野村悟被告が2000年にトップに就任して以降、目に余る事件が多発してきました。金銭の要求に応じない企業の事務所への発砲や放火などが相次ぎ、スナックや小料理店などのママさん、経営者らを刃物で切り付けるなど凶悪事件が相次ぎました。粗暴な暴力団です。

宮崎)北九州市を中心に、一般市民が危害を加えられる事件が後を絶たなかったんですね

尾島)野村被告がトップになって以降、一般市民であっても容赦なく暴力が振るわれたことから、小倉を中心とした北九州市は「暴力の街」とも呼ばれるようになってしまいました。

工藤会の構成員はピークだった2008年の約730人から、2020年は約220人へと大きく減少していますが、全国の暴力団が減少傾向にあるので、工藤会だけが減少しているというわけではないです。

裁判長が異動した東京高等裁判所

裁判長が異動した東京高等裁判所

「あんた、生涯、後悔するぞ」という発言は、自分の子分たちへのメッセージ

宮崎)福岡地裁での死刑判決、尾島さんはどう受け止めましたか

尾島)これまで、実行犯は逮捕されでも上層部から指示を受けたとする事前謀議の供述がなければ、暴力団トップは逮捕されることはありませんでした。しかし、今回はいずれの事件についても、暴力団の組織性や指揮命令系統に基づく事件だったとの判断が示されました。野村被告のトップとしての了承がなければ実行できない。暴力団組織のありようからすると、勝手な犯行とは考えられないと結論付けました。

宮崎)野村被告の直接的な関与はなくても、その意向がなければ組員は犯行に及ばないと「推認」できるという判断ですね

尾島)はい、何もかもが野村被告の意向によって実行されると。確実な共謀を示す証拠はないが、共謀を推認できるということです。野村被告らは控訴しました。

宮崎)トップ不在の工藤会、今後どうなりますか。新たな報復事件などは?

尾島)今回の判決では、閉廷直前に野村被告が裁判長に向かって「あんた、生涯、後悔するぞ」と言い放ちました。裁判所への恫喝と受け止められています。工藤会は減少傾向とはいえ、まだ野村被告への忠誠心がある組員が多くいます。「あんた、生涯、後悔するぞ」という発言がニュースで伝わることを野村被告も分かった上で発言しています。これは自分の子分たちへのメッセージだと思います。

死刑判決を出した裁判所に対して「わかっているな」という指示とも受け止められます。裁判長は東京高裁に異動していますが、警視庁が身辺警護にあたっています。

※イメージ

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警察がなすべき対策はまだまだ多い

宮崎)国内の暴力団の現状、警察の暴力団対策などを教えてください。

尾島)少し古い話になりますが、暴力団は1963年には構成員約10万人、準構成員は約8万人で合わせた勢力は約18万人が確認されていました。警察庁の統計で、この時がピークです。この翌年に開催された東京オリンピックを控え、治安の向上を求められた警察が取り締まりを強化したことで減少傾向になりました。ただ、その後の暴力団側も勢力を回復、さらに1980年代終わりから90年代はじめのバブル景気を迎えると、表経済から裏社会に巨額の利益がもたらされることとなりました。

1992年に暴対法が施行されて暴力団は約9万人となり、さらに8万人台へと減少しました。さらに暴排条例などの施行で減少傾向が加速し、最新データの2020年は2万5900人となっています。

取り締まりの強化で、暴力団は銀行口座が作れない、スマホを契約できない、車を購入できない、賃貸住宅に入居できないなど、生活面での締め付けが厳しくなっていますが、それでも尚、車を複数台所有している暴力団幹部がいるのも事実です。

警察がなすべき対策はまだまだ多いのが現状です。

 

■尾島正洋 プロフィール
1992年、産経新聞社入社。警察庁記者クラブ、警視庁キャップ、神奈川県警キャップ、司法記者クラブ、国税庁記者クラブなどを担当し、主に社会部で事件の取材を続けてきた。2019年3月末に退社し、フリーに。著書に『総会屋とバブル』(文春新書)。

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