誹謗中傷をする人は、悪意ではなく「正義の味方」だと思っている ~侮辱罪に懲役刑導入へ

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ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」(9月15日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。SNS上の誹謗中傷がなくならない理由について解説した。

誹謗中傷をする人は、悪意ではなく「正義の味方」だと思っている ~侮辱罪に懲役刑導入へ

ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」

SNS上の誹謗中傷対策を強化~侮辱罪に懲役刑導入へ

SNS上の誹謗中傷対策の強化に向けて、上川法務大臣は人を侮辱した行為に適用される侮辱罪について、法定刑の上限を引き上げて懲役刑を導入する方針を示した。1年以下の懲役・禁錮などを追加するよう、9月16日に法制審議会に諮問することを明らかにした。

新行)SNS上での誹謗中傷をめぐっては、2020年5月、民放テレビ番組に出演していたプロレスラーの女性が自殺して、対策の強化を求める意見が強まりました。2021年4月には、投稿した人物を速やかに特定できるように、新たな裁判手続きを創設する「改正プロバイダ責任制限法」が成立しています。

佐々木)これだけ「やめましょう、やめましょう」と言ってもなくならず、とうとう懲役刑という事態になってしまった。でも、反対できる人はいないと思います。

新行)これだけの状況になると。

佐々木)プロレスラーの木村花さんの事件がありました。誹謗中傷はけしからんとみんな思っているけれども、そういうことを言っている人が、同じ口で別の人を誹謗中傷していることが多い。ダブルスタンダードが溢れかえっている。

新行)ダブルスタンダードが。

誹謗中傷をする人は、悪意ではなく「正義の味方」だと思っている ~ダブルスタンダード

佐々木)多くの人が、誹謗中傷をする人は悪意でやっていると思っています。でも、いろいろな統計データを見ると、悪意ではなく、大抵の人は自分を正義の味方だと思ってやっているのです。

新行)正義の味方ですか。

佐々木)自分の正義を信じて中傷しているのです。中傷だと思っていないし、批判だと思っている。だから「俺の言っていることは正しい批判だが、お前のやっていることは誹謗中傷だ」と思っている人が多いのです。これがダブスタなのです。「トーン・ポリシング」という言葉をご存知ですか?

トーン・ポリシングを隠れ蓑にして誹謗中傷や批判を行う

佐々木)トーン・ポリシングというのは、例えば弱者が抗議の声を上げたとします。「痴漢のような行為をするのはやめてください」とか、「保育園落ちた、日本死ね」というように。しかし、そういうことを言うと、「日本死ね」という言い方はけしからんという意見が出て来る。そんな強い言い方ではなく、「もっと静かに言えよ」ということを言う人がいるではないですか。

新行)いますね。

佐々木)言っていることの内容ではなく、言い方を批判しているというのは、主張の内容をないがしろにしていることになる。そういう言い方の表現ばかり批判することを、「トーン・ポリシング」と呼びます。私は、よくツイッター上で罵声を浴びせられるのですが、「そういう言い方はやめたらどうですか」と反論すると、「出た! トーン・ポリシング」などと言って怒り出す人がいるのです。

新行)そうなのですね。

佐々木)誹謗中傷に対する批判を、「トーン・ポリシングはけしからん」と隠れ蓑にして言っているのが、特に左寄りの人に多い。そうやってトーン・ポリシングだというように誹謗中傷を追認している人が、一方では、「ネットでの誹謗中傷はやめましょう」と言っている。このようなダブスタがあります。そういう問題が1つ。

誹謗中傷をする人は、悪意ではなく「正義の味方」だと思っている ~侮辱罪に懲役刑導入へ

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「数の兵器」となるネット上での批判

佐々木)もう1つは、「とは言え、でも批判は大事だろう」という意見もあります。正当な批判についてです。もちろん、みんながみんな褒め合ったら気持ち悪い社会だよね、という感じなのだけれども。ただ、「批判」と「根拠なき非難」を区別できるのか。明快にはできないと思います。

新行)批判と誹謗中傷の境目、のようなものですか?

佐々木)自分から見れば「間違っている」と思っていることを誰かが言って、「それは違うのではないですか」と批判するのは大事です。しかし、「それは違うのではないですか」だけならいいのだけれど、「そんなもの違うに決まっているだろう、バカ!」と言うのは、誹謗中傷なわけですよね。

新行)そうですね。

佐々木)それは区別できます。一方で、「それは違うのではないですか」とか、「その意見は間違っていると思う」と1人だけが言うのならば、言われた方も「そうかな」となって、「考えてみよう」と思うかも知れない。でも、同じことを1000人から言われたらどう思うでしょうか。

新行)1000人から。

佐々木)「違うんじゃないの」、「バカじゃないの」などと言われていたら、明らかに攻撃されていますよね。私も何度か炎上した経験があって、ちょっとしたことで「ワーッ」と1000人くらいから意見が来たりするのですよ。そうすると、普通の人はメンタルがやられます。私はこればかり10年やっているので慣れてしまって、1000人くらいから誹謗中傷が来てもあまり気にならなくなりましたけれど、普通の人だと耐えられません。

新行)普通の人は耐えられないですよね。

佐々木)インターネットは数の問題なのです。日常生活を送っていて、ちょっとした議論とか、口論まで行かなくとも、批判されるのはせいぜい1人か2人でしょう。何百人から言われるような経験はないですよね。でも、インターネットはそれを可能にしてしまう。これを「数の兵器」と私は呼んでいます。

新行)数の兵器。

佐々木)それが起きてしまうと、正当な批判でも、ある種の誹謗中傷的なものになってしまうのです。だから、みんなが言っているということが、実は攻撃になってしまう可能性があるのを、我々は理解しなくてはいけない。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」ではありませんが、ツイッターで誰かが誰かを批判しているのを見ると、「批判が正しい」と思ったら、「そうだそうだ」と加勢してしまうではないですか。

「自分のやっていることは、批判ではなくて誹謗中傷になってしまう可能性がある」ということを考えなくてはいけない

佐々木)それをやった瞬間に、「自分のやっていることは、批判ではなくて誹謗中傷になってしまう可能性がある」ということを考えなくてはいけないのです。つまり、みんながやっているから大丈夫なのではなく、「みんながやっているからマズイ」という考えを持たなくてはいけないのがネットなのです。

人類にSNSは早過ぎるのか~一罰百戒しかない

佐々木)そこの理解がまだ及んでいない。「我々人類には、まだSNSは早過ぎる」と言っている人がたまにいるけれども、そういうところがあるのではないかなと思います。

新行)早過ぎる。

佐々木)これをやめるためには、論理的にみんなが考える必要がある。しかし、数の問題やトーン・ポリシングの問題、ダブスタの問題などをきっちり考えましたと言っても、おそらくそこまで考えられないです。

新行)そこまで。

佐々木)だから一罰百戒しかないのではないかなと思います。変なことをやったら、「みんながやっているから大丈夫」ではなくて、少し言っただけでも「ドカン」と懲役刑を食らいますよと。「匿名でやっていても、あっという間に個人を特定されて、賠償金を課されますよ」ということがたまに報道されて、「ヤバイ、昨日佐々木俊尚に悪口を言っちゃった。ひょっとしたら警察に逮捕されるかも」と思わされた方が、効果があるということです。刑罰に頼るというのは、身も蓋もないですけれどね。それぐらいしか方法はないのかなという感じはします。

新行)罪の意識を持って、ということになりますものね。

佐々木)一罰百戒がいちばん大事、ということです。

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