訪米は菅総理の「卒業旅行」ではない ~今後の日米に重要な存在となる「クアッド」

By -  公開:  更新:

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(9月24日放送)に外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が出演。菅総理が「クアッド」首脳会合に出席するためにワシントン訪問というニュースについて解説した。

訪米は菅総理の「卒業旅行」ではない ~今後の日米に重要な存在となる「クアッド」

2021年9月23日、会見する菅総理~出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/actions/202109/23bura.html)

菅総理大臣が最後の外遊、「クアッド」首脳会合出席へ

菅総理大臣は日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4ヵ国の枠組み、「クアッド」初の対面形式の首脳会合に出席するため、アメリカ・ワシントンに向けて9月23日に出発した。日本時間24日に現地アンドルーズ空軍基地へ到着したという報道が入って来ている。首脳会合ではワクチンなどの新型コロナウイルス対策、気候変動、先端技術などの分野で協力を確認し、共同文書を発表する方向で調整している。対面形式での開催は今回が初めて。政府関係者によると、海洋進出を強める中国を念頭に4ヵ国の連携の重要性を首脳レベルで確認し、首脳会合の定例化を目指したいとのことだ。

飯田)対面で行うのは初めてなのですね。

宮家)3月にやったときはリモートでした。そのときに初めて日米豪印の首脳会合が行われた。そのあとに日米の2プラス2があった。4月には日米首脳会談があって、6月にG7サミットがあった。アメリカの政策は一貫しています。そして8月末にアフガニスタンからアメリカが撤退して、本格的にテロとの戦いから、中国とは言えないので、「インド太平洋」という形で政策をシフトして来たわけです。

いまはアメリカの政治の変化が本格化して行く過程

宮家)そういう意味では、クアッド首脳会議がいま行われるというのは、極めて当たり前のことであって、恐らくは2021年の前半から考えていたことだと思います。日本メディアの一部は、「菅総理の訪米は卒業旅行」だと言いますが、政局絡みで外交を語るのはもうやめて欲しいと思います。問題はアメリカの政策が変わり、かなり本格化して行く過程として、いまクワッドが動いているのです。「AUKUS(オーカス)」という枠組みもありましたしね。

飯田)アメリカとオーストラリアとイギリスの。

宮家)これが全部連動していると考えなくてはいけないと思います。そういう意味では、首脳会議開催のタイミングとしては9月後半しかないのです。2021年3月に「年内にやる」と言っていましたが、やるとしたら、国連総会のある9月下旬というのが相場です。たまたまこの時期になったということなので、卒業旅行でも何でもありません。もっと重要性の高いことです。

中国に対する懸念がアフガニスタン撤退を契機に表面化して来た~そのなかで開かれるクアッド首脳会合

飯田)振り返って考えてみると、アメリカは段階を踏んでその意思を何回も示している。国連総会でのバイデン氏の演説も、「戦争の時代が終わって、インド太平洋にシフトする」と明解に言っていますものね。

宮家)アメリカ人はわかりやすい人たちなのです。いい意味でも悪い意味でも。1度に2つも3つも仕事ができないから。

飯田)同時進行というのはなかなか難しいですか。

宮家)難しいです。それは各国とも同じです。中国はアメリカとの対立をどうするのか。ロシアはNATO方面で、経済制裁をどうやって解除させるか。政策のプライオリティーは必ずあって、最優先事項に基づいて物事を考えて行かざるを得ないし、実際にそれで動いているわけです。アメリカの場合も同じで、バイデン政権になって新たに物事が変わったというよりは、トランプ政権の前から動き始めていた中国に対する懸念や中国との競争を重視する考え方が徐々に表に出て来て、それが8月末のアフガニスタン米軍撤退を契機に表面化して来た。そのなかで開かれるクアッド首脳会議だと理解すればいいでしょう。

訪米は菅総理の「卒業旅行」ではない ~今後の日米に重要な存在となる「クアッド」

2021年3月12日、テレビ会議に出席する菅総理~出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/actions/202103/12tv_kaigi.html)

軍事面も含めた衛星のデータ、サイバー等は重視するところ

飯田)読売新聞が一面トップで、

『日米豪印、宇宙・サイバー協力で合意へ…衛星データ共有し気候変動や災害予測』

~『読売新聞オンライン』2021年9月24日配信記事 より

飯田)……という見出しで書いています。かなり安全保障にも踏み込んでいますよね。

宮家)安全保障が最終目的だとは思いますけれども、説明としては、安全保障、軍事だけを扱うのではない、閉鎖的ではなく、オープンなものである、というのが「インド太平洋」の基本的考え方ですよね。

飯田)安全保障、軍事だけでなく。

宮家)具体的な協力のなかには気候変動もあると思いますけれども、当然、軍事面も含めた衛星のデータ、サイバー等々、この辺りはやはり重視する項目だろうと思います。

ASEAN、クアッド、日米安保などを多層的に動かして効果を出すしかない

宮家)いま何が起きているかと言うと、「単にクアッドがあった、イギリス、アメリカ、豪州が協力を深めた」というのではありません。中国という大きな存在を考えると、彼らを何とか抑止しないといけないわけですから、とても1ヵ国ではそれはできません。日本も含めて、東アジアでNATOのような多国間の安全保障の枠組みはできません。

飯田)NATOのような枠組みは。

宮家)となると、いま我々ができることは、いろいろな国々がいろいろな形でグループとして集まり、多層的に補完し合う。ASEANもあり、クアッドもあり、日米安保ももちろんあって、豪州との協力等々もある。これを1つにしないで、重層的に、多層的に効果を出そうとするということしかないのだと思います。

飯田)組み合わせることで、水を漏らさないようにするということですね。

宮家)そうです。そうするしかないし、その方が効果的だと思います。NATOのようなものをつくるのは無理ですから。

飯田)あれだけいろいろな国が集まるとなると、意思決定が難しい。

宮家)あれはヨーロッパで、ソ連という国があったからこそできたものなので。東アジアで同じようには行かないだろうということです。

番組情報

飯田浩司のOK! Cozy up!

FM93/AM1242ニッポン放送 月-金 6:00-8:00

番組HP

忙しい現代人の朝に最適な情報をお送りするニュース情報番組。多彩なコメンテーターと朝から熱いディスカッション!ニュースに対するあなたのご意見(リスナーズオピニオン)をお待ちしています。

Page top