各党の「原発エネルギー政策」の議論は現実感が欠けている

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月18日放送)にジャーナリストの須田慎一郎が出演。10月19日に公示される衆院選について解説した。

各党の「原発エネルギー政策」の議論は現実感が欠けている

東京電力福島第1原発敷地内に立ち並ぶ処理水保管タンク=2020年2月 写真提供:共同通信社

衆院選 ~期間中に土日が1回しかない

衆院選は10月19日に公示される。衆院解散後、初めての日曜日となった17日、各党党首はインターネット番組で論戦を交わし、投開票に向けてアピールした。

飯田)19日に衆院選の公示ということで、今回は展開が早いですね。

須田)戦後最短というようなスケジュール感ですからね。公示から投開票まで土日が1回しかないということが、与野党にとってどのような結果をもたらすのか。

飯田)普通は解散から時間があるので、人が集まる土日でいろいろな広報戦略を立てます。

須田)通常であれば3回ぐらいはあります。

現実感を欠いている「原発エネルギー政策」の議論

飯田)経済や経済安全保障が争点とされていますが、須田さんが注目されているテーマは何ですか?

須田)「原発エネルギー政策」です。あまりにも現実感を欠いている議論が横行していると思います。

飯田)17日には岸田総理大臣が福島第1原発を視察していました。処理水の放出についても「待ったなしだ」というようなコメントも出しています。それにも関連する原発エネルギー政策について、現実感を欠いているというと、どのようなことなのでしょうか?

須田)原発を再稼働するのか、さらに踏み込んで新規で建設して行くのかというところで、賛成と反対の2択で考えてもまったく意味はないのです。大前提として、2050年にカーボンニュートラルで温室効果ガス排出実質ゼロという大目標があります。これは日本だけが設定しているわけではなく、国際協調のなかで進んでいるので、動かしようがありません。

飯田)そうですね。

須田)2030年の中間目標があり、「50%削減する」ということが設定されています。これを前提に、原発政策をどのように考えるのかというところを議論して行かなければいけません。

飯田)まずは中間目標を前提に。

再生可能エネルギーにドライブした際、電力価格はどのように設定されるのか ~産業分野でその設定価格に耐えられるのか

須田)理想論を言えば確かにゼロにすることもできるわけですが、ゼロにした場合、再生可能エネルギーに大きく依存します。再生可能エネルギー以外では、CO2の排出量が少ない天然ガスの火力発電に依存することになります。では、現状として、火力発電は十分に量が確保できているのかと言えば、これもできていない。確保するためには新設しなければならず、それが間に合うかどうかという問題もあります。

飯田)新設が間に合うか。

須田)再生可能エネルギーに大きくドライブしたとき、電力価格はどのように設定されるのか。特に産業分野でその設定価格に耐えられるのか。耐えられない場合は、それに対して補助金をどのような形で出して行くのか、あるいは出すべきなのか、出さざるべきなのかというように、トータルで考えないと、「原発がいいですよ、悪いですよ」と言っても、まったく意味がありません。

再生可能エネルギーにシフトする場合、産業政策とセットで考えるべき

飯田)よく、「電力はベストミックスだ」という話がありますが、そのなかで1つのピースだけを取り上げても、全体の最適にはならないということになります。

須田)再生可能エネルギーに大きくシフトして行くことは可能なのですが、その電力料金では産業界が持ちません。そうすると、日本の経済が衰退して行くという状況になる。そうさせないためにも、産業政策とワンセットになって考えないと意味がないのだと思います。

各党の「原発エネルギー政策」の議論は現実感が欠けている

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

「ベースロード電源」の見通しも立っていない

飯田)電気の質の話も一部では言われています。周波数が安定するかどうか、再生可能エネルギーだと、これがなかなか安定しないのではないかという指摘もあり、半導体の工場誘致のような話も出ています。しかし、そのような精密機械を動かせるのか、というところに関しても、産業界は危惧しているようです。

須田)よく「ベースロード電源」と言われるではないですか。基盤のところをどのようにするのか。その辺についての議論も、安定的に一定程度の電力を確保して、「どのような環境下においてもコンスタントに提供できます」というところが一定程度安定しているからこそ、プラスアルファの部分を乗せて行くことができるのです。その辺りの見通しがまったく立っていません。

欧米ではベースロード電源として「原発を容認せざるを得ないのではないか」との指摘も

飯田)ヨーロッパやアメリカの環境派の方のなかでも、原発はベースロード電源としてCO2を出さないのだからというところで、容認せざるを得ないのではないかという指摘をしている人もいます。

須田)私もそれが現実的ではないかと思います。再生可能エネルギーと言っても、技術的に確立していて、経済ベースで維持できるのは太陽光発電と地上風力発電しかありません。他にも地熱発電や洋上風力発電はありますが、まだ技術的にも経済的にも使用に耐えられるような状況になっていない。「これからの技術革新に懸けて行きます」というものを織り込んで計画を立てるのは難しいではないですか。

飯田)その辺り、自民党は「安全性が確認された原発の再稼働」と言っています。公明党は「新設は認めない」。立憲民主党は「原発の新増設を認めず」。共産党は「原発ゼロ」。国民民主党は「原子力に依存しない社会を目指す」。維新は「原発のフェードアウトを目指す」。れいわ新選組は「原発の即時停止」、社民党は「原発ゼロ基本法を施行して5年以内の廃炉」というように、グラデーションが分かれています。確かに「新しいものまで」というところに踏み込む党は少ないですが、その辺も本当は議論が必要ということですか?

既存の原発については、安全性が確認できた段階で順次再稼働して行く ~新設は慎重に考える

須田)そこを議論しないと、再生可能エネルギーと言っても、現実問題として難しいですよね。議論が後先になってしまいましたが、私の主張として、「既存の原発については、安全性が確認できた段階で順次再稼働して行く」。とはいえ、「新設については慎重に考えるべき」だと思います。廃炉の費用などを考えると、やはり慎重に考えるべきではないかということが私の基本的なスタンスです。

飯田)新設は慎重に。

須田)経済政策全体で考えて見たときに、野党は一律給付金を出します、あるいは消費税を減税しますと言っていますが、では財源はどうするのかと言うと、当面は赤字国債の発行でということになっています。「将来的には、大企業への増税や富裕層への増税で賄います」という増税路線を取っているのです。

高コストの電力料金の負担や企業への増税などによって日本の産業が空洞化する可能性も ~エネルギー政策や原発政策だけで議論をしても意味がない

須田)増税をする一方で、高コストの電力料金を負担するなかで、日本の企業はどのようになってしまうのか。立ち行かなくなってしまうのではないか。体力のあるところは、「日本でやっても意味がない」ということで、海外にシフトして行ってしまうのではないか。その辺りも全体で考えて行かないといけません。一方では給付金や減税の問題で、「減税がいいね」となっていても、その財源として企業に対する負担が増えて行ったときに、果たして日本産業の空洞化は止められるのか。このようなところもワンセットで考えて行かないと、エネルギー政策や原発政策だけで議論をしていても意味がないのです。

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