科学と安全保障がつながらない日本 ~経済安保推進法案

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(11月29日放送)に元内閣官房副長官補・同志社大学特別客員教授の兼原信克が出演。経済安保推進法案について解説した。

科学と安全保障がつながらない日本 ~経済安保推進法案

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

経済界や経済官庁にも安全保障を考えてもらう必要がある

政府は11月26日、経済安全保障政策の確立に向けた有識者会議の初会合を開き、2022年の通常国会への提出を目指す「経済安保推進法案」の策定作業を加速させた。

飯田)兼原さんは外交安全保障のエキスパートでいらっしゃいます。第2次安倍政権で内閣官房副長官補、国家安全保障局次長を務められ、現在の岸田政権でも「経済安全保障法制に関する有識者会議」のメンバーとして、会議に参加されていらっしゃいます。経済安全保障について、岸田内閣で法制に取り組むというのは、総裁選のときから掲げていらっしゃいましたけれども、どういう概念になるのでしょうか?

兼原)3本柱がありまして、まず中国に機微技術を出さない、守るということ。逆に中国がレアアースの輸出を止めてしまうなどの意地悪をして来るので、「エコノミック・ステイトクラフト」と言うのですが、中国の圧力に対抗するというものです。そして、日本の科学技術や産業技術を安全保障に活かすという、官民協力です。経済安保は、実は英語にならないのです。日本は特殊な国で、経済界と経済官庁と安全保障系の防衛官庁が、戦後は完全に切れていたのです。

飯田)関係が切れていた。

兼原)敗戦国のため仕方ないのですが、中国が相手なので、経済界や経済官庁にも安全保障を考えてもらう必要があります。そこでいろいろな問題が出て来ていて、3本柱が立っているのですが、経済安保ということで、安倍政権の末期からやっています。半分くらいまとまって来たため、そろそろまとまったものを国会に出そうではないかということで、岸田総理にやっていただいているのです。

「防衛省には協力しない」と言って頑張ってしまっている日本学術会議 ~何とかしなければならない

飯田)特に3つ目の科学技術の部分と、安全保障、防衛との断絶は、防衛省や自衛隊などを取材していても、いちばん「頭が痛いのですよ」という意見をよく聞きます。

兼原)軍事と科学技術は完全に一体化していて、科学技術の進歩にはとてもお金がかかるのです。千の対策をやって3つ当たればいいというくらいなのですが、それは企業がやっています。安全保障も10万程度やって3つ当たればいいという世界まで入って行くのです。

飯田)千どころではないのですね。

兼原)いちばん高いリスクを取るのが、安全保障の科学技術のところなのです。国民の血税を使って多くのお金を入れるのですが、日本は年間約4兆円を科学者に渡しています。防衛費が5兆円なので、4兆円というのは大した金額です。

飯田)年間4兆円。

兼原)日本の科学界は平和主義なので、「防衛省には協力しない」と言って頑張ってしまっているわけです。日本学術会議などがそうなのですが、これを何とかしなければならない。科学で負ける者は戦争でも負けるのです。飛行機や潜水艦、核兵器など、20世紀がそうでした。日本は10周くらい遅れているので、そろそろ何とかしなければいけないという話だと思います。

科学と安全保障がつながらない日本

飯田)これから先、宇宙やサイバーが注目されますが、その辺りも含めてという。

兼原)宇宙、サイバーでいま最先端なのが「量子」です。量子力学。10年か20年で勝負がついてしまうのですが、量子コンピュータを発明したのは日本人なのです。しかし、それが全然活きていない。外国でみんな頑張っていて、量子が出て来ると、いまのコンピュータの性能が上がって行くので、これで負けたら負けてしまいます。

飯田)量子で。

兼原)通信や暗号、素材からコンピュータまで、全部変わってしまうのです。IPアドレスなどもなくなってしまいますから、全然違う世界が待っています。いま一生懸命やっているのですが、日本の場合は、ここと安全保障がなかなかつながらないのです。

科学を防衛につなげなくてはならない

飯田)もともと量子力学と言うと、湯川秀樹博士や朝永振一郎博士、利根川進博士など、ノーベル賞学者が綺羅星のごとく日本から出て行った分野ですよね。

兼原)まだここは紙と鉛筆の世界なので、お金はあまりいらないため、前に出ているのですが、これから社会実装として実用化すると、お金がいるのです。そういうところを政府が担保して、日本の安全保障につなげて行かないと、「安全保障だけやりません」と言ってしまえば、「なぜお金を払うのだ」という話になるわけです。富岳なんて、ほとんど誰も使っていないのですよ。

飯田)スーパーコンピュータ。

兼原)ほぼ誰も使っていません。つくっているだけで。理研と富士通でやっているのですが、「何のためにやっているか」というのが、この国にはないのです。「科学のための科学」になってしまっている。社会実装、パンデミックの防疫や、防災など、社会に役立てて欲しいのです。特に「防衛は絶対にやらない」と頑張っている人がたくさんいるので、何とかしなければいけないと思います。

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