ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(11月22日放送)に朝日新聞編集委員の峯村健司が出演。林芳正外務大臣に王毅外相からあった中国訪問の打診について解説した。
林芳正外務大臣に王毅外相から中国訪問の打診
林芳正外務大臣は11月21日、フジテレビの番組に出演し、18日の中国・王毅外相との電話協議のなかで、中国訪問を打診されていたことを明らかにした。応じるかどうかについては、「現時点では何も決まっていない」としている。
飯田)外務大臣が選挙のあとに変わって、林芳正さんになった。日本の姿勢など、これからどうなるかということがいろいろ言われていますが、峯村さんはどうご覧になりますか?
峯村)林さんはアメリカのハーバードにもいらっしゃって、私の恩師であるエズラ・ヴォーゲル名誉教授も可愛がっておられました。ヴォーゲル氏に「日本の政治家でどの方を評価されますか」と聞くと、最初に林さんを挙げていたほどです。外交には長けているし、英語も流暢で、アメリカのこともよく知っている方だろうという評価はしています。ただ、このタイミングで訪中の話が出て来ることについては、「どうなのかな」という疑問符がつきます。
アルシュ・サミットでの日本が犯した過ち
飯田)クアッドについて、来年(2022年)は日本で会合を行うという話も出ていて、包囲網的なものが狭まりつつある。そのなかで、中国に対してどのようなスタンスを取るのかということですか?
峯村)もしもクアッドを含めた西側諸国との足並みが乱れるような訪中であれば、非常に問題だと思いますし、1989年に行われたフランスのアルシュで開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)の「失敗」を思い出すのです。
飯田)アルシュ・サミット。
峯村)天安門事件が起きたときに、日本以外の西側諸国が中国に対して制裁をかけなければいけないと一致していました。ところが、当時の宇野宗佑首相だけが「いやいや、中国が孤立しないよう引き戻すことが重要だ」と抵抗し、中国を強く批判する声明の文言を和らげさせたのです。その結果、中国包囲網の足並みが乱れてしまった。
飯田)外交文書が30年の期限を迎えていろいろ出て来ていますが、事前に外務省などが根回しをして、声明が柔らかいものになるように、かなり工作をしていた。そこには、中国からの要請もあったのではないかと言われています。
峯村)日本の外務省幹部たちは、これに関して「素晴らしいことで、日本外交のプレゼンスを示した」と言っていますが、私は同意しません。その証左として、当時の中国の外務大臣だった銭其琛元副首相の回顧録にもはっきり出ていますが、「日本は西側の対中制裁の連合戦線で最も弱い輪だ。おのずと良い突破口となった」と言っているのです。アルシュ・サミットで日本から対中包囲網を崩した中国は1992年の天皇陛下の訪中まで引き出したのです。中国共産党指導部が日本のことを「たやすい」と見ていたことがよくわかります。
日本を崩せば西側の対中包囲網は崩れる ~成功体験を持ってしまった中国
飯田)西側で足並みを揃えているように見えるけれども、「1個崩せば崩れる」と。ある意味の成功体験ですね。
峯村)成功体験です。天安門事件は1989年でしたけれども、2001年には中国がWTOに加盟しているわけです。中国からすると「12年待てば西側の、欧米・日本の包囲網は崩れる」と。中国共産党の内部では、そういう成功体験になってしまっているのです。これをつくった当時の日本外交の過ちは、非常に大きいと思います。
飯田)天安門事件で相当な経済制裁を掛けられたけれども、WTOに加盟するということは、自由貿易をするのだから。
峯村)「もういいではないか」という話ですよね。
飯田)全解除ということになってしまった。
峯村)なりますよね。
飯田)10年程度の歳月は、中国にとってそれほど長くはないわけですか?
峯村)そうですね。特に当時の国力と比べたら、いまのGDPは倍になっていますから、10年のタイムスパンがもっと弱まるかも知れません。
飯田)5年くらいで。国家主席の任期1期ほど我慢すれば十分ではないかと。
峯村)そうなると、「台湾問題がどうなるのか」という話になります。各国が何か中国に対して制裁をしても、「どうせしばらく我慢していれば、こんな包囲網は崩れる」と思われかねないという意味では、非常に大きな失敗だったと思います。
アルシュ・サミットと同じ轍を踏んではいけない
飯田)その意味では、日本外交として同じ轍を踏んではいけないわけですよね。
峯村)踏むべきではないと思います。アルシュ・サミットの教訓は、「西側諸国の団結を崩してはいけない」という一言に尽きます。特に今回で言うと、当時の天安門事件のように人権問題がクローズアップされているなかで、慎重にアメリカやクアッド、その他の国々と緻密な連絡を取って、「リング」が崩れないようにするべきだと思います。
日本だけで決めるのではなく、欧米諸国との協調を最優先にするべき
飯田)中国訪問について、現時点では何も決まっていないということですが、習近平氏の国賓での来日も事実上、凍結のような形になっています。しかし、招請を取り下げたわけではないですよね。
峯村)新型コロナが発生したため棚上げになっているだけで、いつでも復活しかねない話です。林大臣は、21日のフジテレビの番組で「中国訪問は決まっていない」とおっしゃっていますが、別のBS朝日の番組では、もう少し前向きに「王毅外相から打診されている。今後、調整を勧められている」とおっしゃっています。
飯田)調整を勧められている。
峯村)明らかに二つの番組ではトーンは変わっています。
飯田)それは中国に対してというよりも、西側に誤ったメッセージが送られてしまう。
峯村)日本だけで何かを決めるというよりは、他国との協調が大切です。クアッド、特に欧米諸国との協調は最重要課題として置くべきだと思います。
北京五輪への外交的ボイコットの検討を明言したバイデン大統領 ~イギリスも同調
飯田)テニスの彭帥(ほうすい)選手の消息についていろいろと言われていますが、それに関連して、北京五輪への「外交的ボイコット」について検討していることをバイデン氏が明言しました。イギリスもそれに乗る方向のようです。
峯村)そうですね。イギリスも同調すると言っています。
飯田)日本は「独自の対応を」というようなことを言っています。
日本も英米と協調するべき ~アルシュ・サミットの過ちを繰り返してはいけない
峯村)いまの段階で、「日本は日本の道を行くのだ」という判断はいいのです。日本の道を行くのは当然の話です。そのまま追従するだけということはよくありません。ただ、北京五輪に関しては、アメリカやイギリスと協調を模索することを探るべきでしょう。アルシュ・サミットのような脆い「リング」になるのであれば、過ちを繰り返すことになると思います。
飯田)その分、何らかの決議をするなど、他に何かないとロジックが成り立たないですよね。
アルシュ・サミットで日本は中国を助けて何を得たのか
峯村)アルシュ・サミットについて、日本は中国を擁護したことで「代わりに何を得たのか」という疑問があります。例えば尖閣問題で中国から譲歩を引き出していれば、私はまだいいと思いますが、1992年には中国が領海法をつくり、「尖閣は中国の領土である」ということまで明記して、現状を明らかに変更しているわけです。
飯田)領海法をつくって。
峯村)日本は譲歩をしただけではなく、さらに主権を失っている愚行をしたわけです。はっきり言って、これは外交ではないと思います。「中国を昔のような、古い閉じ込められた中国にしてはいけない」というのが当時の宇野総理や外務省幹部の主張ですが、いまの中国を見てください。「開かれて、自由で民主的な中国になっていますか?」という話です。ただの時間稼ぎを与えただけにしか、私には見えません。
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