ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(11月19日放送)に外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が出演。日米両政府による「日米通商協力枠組み」の新設について解説した。
TPPを背景にして、アメリカをどのくらい自主的に巻き込むか
日米両政府は11月17日、日米間やインド太平洋地域での通商分野の連携について協議する「日米通商協力枠組み」を新たに設けると発表した。中国を念頭に国内産業への過度な補助金など、第三国による不公正な貿易慣行の是正などを議題とするということだ。
飯田)日本側は経産省と外務省、アメリカ側は通商代表部(USTR)の局長級幹部が参加したということで、定期的に会合を開くそうです。
宮家)本来ならば、アメリカに「TPPに戻っておいで」と言うのが筋なのだけれども、いまのアメリカの国内状況では、とても無理だろうということです。
飯田)アメリカの国内事情では。
宮家)いちばん大事なことは、中国がいろいろな形で影響力を拡大しているなかで、アメリカはTPPには戻らないけれども、できるだけ同じような効果を出さなければいけません。アメリカにも日米の貿易の利益がありますから当然、日米二国間の交渉すると同時に、「TPPを背景にして、アメリカを多国間の協議にどのくらい自主的に巻き込むか」ということも考えなくてはいけないと思います。重要な協議だと思います。
日米共通の大きな問題が出て来た
飯田)日米で「通商」と付くと、昔の牛肉やオレンジを思い出します。
宮家)昔は「日米の貿易戦争」などと言っていたのだけれども、いまは様変わりしていて、時代は変わったなとつくづく思います。
飯田)五感で思うかつてのイメージとはまったく違うということですか?
宮家)違うと思います。
飯田)いままでは日米間のやりとりのなかで、インド太平洋地域の通商分野での連携などという文章はなかったですよね。
宮家)ありませんでした。とにかく「農産物だ、牛肉だ、自動車だ」ということばかりでした。
飯田)こちらが引くか、向こうが折れるかのような感じでした。
宮家)本当に喧嘩腰だったのですよ。いい意味で競争して喧嘩をするのはいいのだけれども、今回は中国の台頭という共通の大きな問題が出て来たということが、80年代や90年代とは違うところだと思います。
日本は中国からの利益も念頭に置いてアメリカに助言する
飯田)日本はアジア太平洋地域に位置する国でもあるから、その部分でやれることや、アメリカに対して助言できることがたくさんあるということですか?
宮家)そうです。同時に日本は中国にも投資をしているわけですから、その利益も念頭に置く必要がある。アメリカも当然そうですが、単に関税をどうするかとか、赤字を減らせなどという話ではないわけです。その意味では、日米がいい方向へ動いていることは事実です。
アメリカがTPPに帰ってくれない理由
宮家)ただ、本来は先ほども申し上げましたが、「アメリカがTPPに帰って来るのが筋でしょう」とは思います。
飯田)ここは中間選挙が影響していますか?
宮家)いまは無理です。アメリカ議会のなかを見ていると、そもそも民主党の方がTPPをやる気がないのだから。支持層を考えれば、とても民主党にはできません。でも、これまで自由貿易を推進して来たはずの共和党の人たちがこんなことになっているわけですから、もう議会から交渉権限を得ることは容易ではないでしょう。TPPの交渉権限をくれといったら、ノーと言われると思います。
飯田)議会は超党派でノーと言って来るだろうということですか?
宮家)そう思います。だからもう政治的に事実上できないのです。
飯田)そうするとアメリカは今後、多国間の枠組みを仕掛けて行くのは難しいですか?
宮家)アメリカが主導でやるというのは当分、無理ではないですかね。
多国間の自由貿易システムでいちばん利益を得る1つの国は日本
飯田)一方でアジア太平洋地域などを見ていると、どこかがやらなければいけないということになります。
宮家)そうです。いろいろな経緯はありましたけれども、日本はTPP11(イレブン)でまとめたときに、かなり重要な役割を果たしました。そういう形でやって行かないといけません。貿易の世界でマルチラテラリズム、つまり多国間主義の貿易体制というものを、昔はアメリカがそれに向けて最も突っ走っていたのですが、いまは見る影もありません。他の国々で補完しなければいけないし、そもそも多国間の自由貿易システムでいちばん利益を得る国の一つは日本なのです。それを忘れてはいけないだろうと思います。
中国はTPPには入れない ~入れてしまえばWTOと同じ失敗になる
飯田)そこを突き崩す意図があるのかどうか、TPPに対して中国は手を挙げていますよね。
宮家)手を挙げるのは自由ですからね。でも中国を入れるためにはテストがあります。台湾がテストに通ったから、中国も一緒に入れると思ったら、それは大間違いです。ご自分で別のテストを受けてもらわなければいけないし、そのテストに通るためには、中国のいままでのやり方ではまったく通用しないわけです。
飯田)いままでのやり方では。
宮家)「シンガポールなどが中国の申請を歓迎していて、日本が孤立している」と言う人がいるけれども、歓迎することと、加盟を認めることは別です。歓迎はリップサービスで言えるけれども、最終的には中国のどこがTPPの高い水準に達しているのか、全然達していないではないかということです。それははっきりとわかります。
飯田)TPPの高い水準に。
宮家)しかも1項目や2項目ではなく、TPPには何百項目とクリアすべき条件があるのです。そう考えると、それほど簡単に中国が入れるとか、中国を入れてやろうという動きが大きくなるとは思えません。万一、簡単に入れてしまえば、WTOと同じ失敗になる。WTOが中国を入れてしまったのは大失敗であったと思います。その過ちだけは繰り返してはいけないと思います。
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