日本の子宮頸がんワクチン接種を激減させた大手新聞の「無責任」

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(11月17日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。HPVワクチンの積極的勧奨について解説した。

日本の子宮頸がんワクチン接種を激減させた大手新聞の「無責任」

厚生労働省が作成した子宮頸がんやHPVワクチンに関する啓発リーフレット(部分) 写真提供:共同通信社

HPVによって年間3000人が亡くなっている ~HPVワクチンの積極的勧奨をやめた経緯

11月12日に勧奨再開を決定した子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を防ぐワクチンについて、厚生労働省の分科会は11月15日、積極的勧奨が中止となった間に定期接種の対象年齢を過ぎた女性も、無料接種を可能にして救済することで一致した。

飯田)ヒトパピローマウイルス(HPV)は100種類以上の型があり、一部の型において子宮頸がんの原因となることがわかっています。

佐々木)ワクチンを打っていない状態で、年間1万人が罹患し、3000人近くが亡くなっている。3000人の女性がですよ。どういう経緯なのかと言うと、もともと積極的勧奨をしていたのだけれど、いまから8年近く前の2013年、副反応が出ているということをメディア、特に朝日新聞、毎日新聞辺りが報じて、結果的に厚労省が積極的勧奨をやめてしまったというのが大きな原因です。

飯田)メディアの報道が原因で。

佐々木)その経緯はいろいろなところで語られています。例えば以前、「バズフィード」が厚労省に「なぜ積極的勧奨をやめて、しかも6年以上も経っているのですか」ということを聞いたら、厚労省の担当者が「マスコミの方がいまさらそういうことを言われるのですか」と皮肉な答えをしたということです。言わないけれど「お前らのせいだろう」と。

飯田)当時の審議会などに入っていた先生方も、「これだけマスコミが騒いでいるから一旦やめるけれど、1年~2年で積極的勧奨を再開すると思って決断したのですが」と言っていました。

佐々木)その間に、「HPVワクチンをやりましょう」ということを発言する医療従事者や医学関係者、研究者もいたのだと思いますが、言った瞬間に反ワクチンの人たちから袋叩きにされた。

明らかな報道被害

佐々木)反ワクチンの人たちをメディアが諫めればいいのだけれど、まったく逆で、反ワクチンに乗っかってしまった。2015年には、実際にワクチンと副反応に関係があるのかということを、名古屋市立大学で調べたのです。

飯田)名古屋市立大学で。

佐々木)そして、結果的には関連がないという研究結果が出た。これは「名古屋スタディ」という有名な論文なのですが、朝日新聞は報じませんでした。しかも、猛烈にまた批判されたものだから、名古屋市が委託して研究したのだけれど、市がこれを報じずに撤回してしまったのです。しかも撤回したことだけは報じたという有名な話があります。とにかくこれは明らかな報道被害なのです。

飯田)ワクチン接種を訴えて来た医師で、ジャーナリストでもある村中璃子さんも訴訟になってしまった。

佐々木)年間3000人が死んでいて、10年近く積極的勧奨をやっていないのです。その間に、報道被害で3万人くらいが亡くなっているのですよ。3万人死ぬということは、大変な事件ではないですか。それに対して何も責任を取っていないのです。

「積極的勧奨がされなかったのは自民党の保守派のせい」という記事が東京新聞に掲載

佐々木)しかも、あろうことか東京新聞が、

『子宮頸がんワクチン、8年ぶりに積極勧奨再開 自民の一部「性の乱れ」と抵抗、コロナ追い風に』

~『東京新聞』2021年11月13日配信記事 より

佐々木)……という記事を書いているのだけれど、積極的勧奨がされなかった理由について、「自民党の保守派のせいだ」と書いているのです。

飯田)HPVは、性交渉により感染するということが言われています。だからワクチンを打つことによって、「自由に性交渉ができるとして広まってしまっては困る」という。

佐々木)東京新聞の記事には、

『ある政府関係者は「自民党内の保守的なグループが、HPVが性行為を通じて感染することから接種が『性の乱れ』につながると長く抵抗していた」と背景を明かし、「新型コロナのワクチン接種でワクチンそのものの効果を実感できるようになるなどして、ようやく議論ができる環境になった」と話した』

~『東京新聞』2021年11月13日配信記事 より

佐々木)……と書かれています。そういうことを言っている自民党の保守的な議員もいるかも知れませんが、「いちばんの原因はあなたたちだろう」ということです。それには一言も触れないで、「自民党の保守グループの責任だ」と一刀両断したことは、許しがたいことだと思います。

日本の子宮頸がんワクチン接種を激減させた大手新聞の「無責任」

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

中日新聞の記者の削除されたツイート

佐々木)さらに、この東京新聞の記事に関して、東京新聞と中日新聞は同じ会社なのですが、しばらく前に中日新聞の記者が、「HPVワクチンの信頼が失墜しているから打たれなくなった」と書いた。「なぜ信頼が失墜しているのかについて、マスコミのせいだと言っている人がいる。それを言うのは自由だが、マスコミには失墜した信頼を回復させる能力はありませんので、関係する人たちが自分で信頼回復に取り組むしかありません」と、8月に中日新聞の今井さんという記者がツイートしたのです。みんなから批判されて、結局そのツイートは削除されましたが、未だにスクリーンショットで残っています。

飯田)非難されて削除した。

佐々木)何を言っているのかと。自分たちが失墜させておいて、挙句に「信頼を回復させる能力がない」などと言い、「自民党の保守グループのせいだ」と言い放っている。こういうことをしていては、新聞の信頼が回復できるわけがないと思います。

新型コロナは日本人全体に関わる問題なので、ワクチン接種に関して、メディアが副反応を煽っても騙されなかった

飯田)産婦人科のお医者さんに話を聞くと、本当に大変なことをしてくれたと。今回の新型コロナのワクチン接種に関しても、同じことをしてはいけないと、かなりピリピリしていました。

佐々木)新型コロナワクチンも、マスコミは副反応があると煽りまくっていたではないですか。でもさすがにみんな、言うことを聞かなくなっていて、いまのように8割近い人が接種している状況になっています。

飯田)お医者さんたちも、「副反応は出ます」と。「一方でメリットもある。これを冷静に天秤に計って、皆さんで判断してください」と情報を積極的に発信していました。海外論文も引いて一生懸命やっていらっしゃった。

佐々木)2011年に起きた東日本大震災の原発に対する考え方など、メディアに踊らされて来たところがあるわけではないですか。原発事故も、結果的に健康被害は何も出ず、風評被害しかなかったわけです。

飯田)そうですね。

佐々木)それを「被害が出ている」と新聞などが煽って来た。HPVワクチンも同じように報道によって煽られて、みんな打つのをやめてしまった。メディアの影響で酷い目に遭って来たのです。

飯田)メディアに煽られて。

佐々木)原発事故も、福島のなかだけの話で、HPVワクチンは若い女性だけの問題としてあって、社会全体で引き受けるだけの心構えが我々にできていなかった。しかし、今回のコロナは日本人全員に関係があるので、さすがにこの問題ではメディアに騙されなくなって来た。コロナ禍によって、「メディアのやって来たことは酷かったよね」ということがようやく社会全体で共有されるようになったとも言えるのではないでしょうか。その結果として、新型コロナワクチンの高い接種率があるのだと思います。

海外では男の子にワクチンを打つ国もある

飯田)HPVは、過去に1度でも性交渉経験のある方なら、誰でも感染の可能性があると考えられています。しかし、すべての人が発症するわけではないのですよね。

佐々木)そうなのです。

飯田)しかも、男性にもまったく関係がない話ではなく、陰茎がんや前立腺がんとの関連が疑われているけれども、まだはっきりとはわかっていない。諸外国では男の子にワクチンを打つところもあります。

佐々木)医療関係者の話を聞くと、男性も打った方がいいと言われます。

飯田)いまのところは女性への接種に関して勧奨という形になっていて、小学校6年生~高校1年生までが対象となっていますが、いままで打つチャンスを逃してしまった方に関しても、救済措置というところもある。

佐々木)キャッチアップ接種で、過去に打ち逃した人も、今回打てるようにしましょうという話になっています。厚労省はよくやってくれましたという感じです。

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