どうすれば「風評被害」から脱却できるのか ~福島県葛尾村で準備宿泊が始まる

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(12月1日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。福島県葛尾村の帰還困難区域で始まった準備宿泊について解説した。

どうすれば「風評被害」から脱却できるのか ~福島県葛尾村で準備宿泊が始まる

道の駅なみえを視察する岸田文雄首相(中央)=2021年10月17日午前11時34分、福島県浪江町 写真提供:産経新聞社

福島県葛尾村、帰還困難区域で初の準備宿泊

原発事故のあと、立ち入りが厳しく制限されている福島県葛尾村の帰還困難区域で、2022年春の避難指示解除を前に、11月30日から住民が自宅などに寝泊まりしながら生活再建に向けた準備を進める「準備宿泊」が始まった。帰還困難区域で準備宿泊が始まったのは初めてである。

飯田)村の面積のおよそ2割、34世帯93人が帰還困難区域内に住んでいたということです。

ほとんどの世帯が戻らない現実 ~準備宿泊申請をしたのは1世帯のみ

佐々木)今回、準備宿泊を申請したのは1世帯、60代のお二方だけなのです。しかも、内藤さんというご夫妻らしいのですが、震災直前に家を新築していたのです。一時帰宅できるようになってからは、泊まれないけれど一生懸命、家に帰って掃除されていたということです。切ない話ですよね。

飯田)切ないですね。

佐々木)それ以外の33世帯の方々の大半が、避難先や別の場所で家を建てたり、仕事を見つけたりしています。もう10年ですからね。いまさら戻ってどうなるのかということです。しかも、他の人たちが戻って来ないと、コミュニティ自体が存在しない状況になるわけで、帰還困難区域の10年というのは本当に重いなと感じます。

飯田)今後、これが浪江町や双葉町、大熊町などに広がるのかどうか。

佐々木)最終的にすべての帰還困難区域が解除される日は、いつかは来るのだと思うのですけれども。

原発事故の被害はほとんどが風評被害だった

佐々木)そろそろ11年になるわけですが、時間が経ってみると、結果的に健康被害と言われていたものはほとんどなかった。甲状腺がんの指摘もされていますが、あれも過剰診断の結果であって、原発の放射線によって甲状腺がんになったという話ではなかったのです。

現状では見えない「風評被害からの脱却」 ~未だに「汚染水」と呼ぶメディアも

佐々木)そのように考えると、約11年の原発事故の被害は、ほとんど風評被害だったのです。しかし、例のトリチウム処理水の放出問題も含めて、未だに風評被害のために解決していない問題はたくさんあります。トリチウム処理水についても「ALPS」で処理し、トリチウムだけにして、それを海に流すということは全世界的にどこの原発でもやっていることなので、問題ないのです。でも地元の漁協が反対しているのは、またそれでメディアが大騒ぎして、風評被害が出てしまう可能性があるからです。未だに「汚染水」と呼んだり。

飯田)見出しになっているところもあります。

佐々木)わざわざ「処理済み汚染水」と呼ぶような大手メディアもあるわけです。「その処理済み汚染水を流しました」と言ったら、また風評被害になって、また魚が売れなくなると。

飯田)メディアによって。

佐々木)未だに福島の野菜など、市場で値段が叩かれたりしているケースもあって、昔通りには戻っていない部分もあるわけです。「風評被害からどうやって最終的に脱却するのか」という道筋が、まだ現状では見えていない。

飯田)その辺りは、メディアが「どう報道して、それがどう影響したか」というのも検証しなければいけない。

佐々木)結局、自分自身の問題なのですよ。メディアは「当事者である」という自覚を持たなければいけないのだけれど、常に自覚がない。だから風評被害が終わりだという話になって来たら、今度は「ネットで広がった風評被害。いまでも残る傷跡」というような記事を書いて、自分たちが起こした風評被害はあまり気にしないという。この当事者性を復活させることが大事だと思います。

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