ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(12月14日放送)に朝日新聞編集委員の峯村健司が出演。オーストラリアを訪問した韓国の文在寅大統領が「北京五輪での外交的ボイコットは考えていない」と述べたというニュースについて解説した。
韓国の文在寅大統領が北京オリンピックへの外交的ボイコットについて「検討していない」と述べる
オーストラリアを訪問した韓国の文在寅大統領は12月13日、モリソン首相と首脳会談を行ったあとの共同記者会見で、2022年2月の北京冬季オリンピックに選手団以外の外交使節団を派遣しない外交的ボイコットについて、「韓国政府はボイコットを検討していない」と述べた。
飯田)現時点で外交的ボイコットを表明しているのは、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、イギリスです。ニュージーランドに関しては、外交的ボイコットとは言わずに「新型コロナ流行による理由」としています。「日本はどうするのだ」ということになります。
峯村)「外交的ボイコット」を表明している5ヵ国は、ファイブ・アイズと言われているアメリカを中心とした情報機関で、情報を共有しているコアグループのため、ここと足並みを揃えるかどうかというところなのです。韓国の文大統領は、わざわざそのファイブ・アイズの一員であるオーストラリアに行っているにも拘わらず、「私は参加しない」と言った。ここが文在寅大統領らしいところです。
飯田)文在寅大統領らしいところ。
「まだ考えている」日本 ~アメリカは2月には外交的ボイコットを検討していた
峯村)日本は韓国のように割り切れないですよね。先日、岸田総理大臣が「適切な時期に国益を考えて判断する」とおっしゃいましたが、それは当たり前のことです。
飯田)これを繰り返していますね。
峯村)まだ検討中なのか、というのが率直な感想です。アメリカは今年(2021年)の初め、2月ごろには、外交的ボイコットを検討しているような動きがあったのです。それに対して、アメリカは中国側とも、おそらく水面下でいろいろなやり取りもしています。
飯田)既に。
峯村)もっと早く日本もその動きを察知していれば、米中の動きに乗ることはできたと思うのです。
飯田)2月と言えば、バイデン政権が発足した直後ですし、ペロシ下院議長などは早くからこのことを言っていました。
峯村)議会は強硬で、先日行われた「民主主義サミット」とセットで議論されていました。だから日本政府の対策が遅かったと言えます。
日本の判断で「ボイコットするのか、しないのか」「理由は何か」という説明をしなければ、米中、どちらからも嫌われてしまう
飯田)ホワイトハウスの発表は今月(12月)の頭でしたけれども、アメリカは約10ヵ月にわたって、周到に準備している。
峯村)準備していますね。、だからこそ「アメリカがやったからうちもやります」という軽い追随のノリでやると、とんでもない中国からのしっぺ返しを受けるのではないかと思います。
飯田)中国から。
峯村)アメリカも10ヵ月かけて、水面下でネゴをしているのです。日本はネゴをしないまま、ボイコットに踏み込むとアメリカ以上の反発を受けかねません。いちばん必要なのは、「なぜこのボイコットをするのか、しないのか」、「理由は何なのか」ということです。アメリカは関係なく、我が国の価値であり、「新疆ウイグルでの人権侵害について、これだけの問題があるのだ」という日本の判断であることが大切です。「だからボイコットするのだ」というところの説明を、米中だけではなく各国に説明できないと、どちらからも総スカンというか、アメリカサイド、中国サイドからも嫌われてしまうという状況です。
対応が遅くなればなるほど値段が上がってしまう
飯田)しかも、その選択肢が日を追うごとに狭まっているような。
峯村)おっしゃる通りです。早く言ってしまったもの勝ちなので、「サッ」と、「アメリカが言う前に言う」という手もあったと思うのです。しっかりと根拠のある説明さえできれば、それでいけたと思うのですけれども、どんどん後手に回って来ると、値段が上がり、言うことが難しくなります。
飯田)遅くなればなるほど。
峯村)人権問題担当補佐官の中谷さんが自民党の重鎮に意見を求めて、「外交的ボイコットはどうしましょう」と聞いていたらしいのです。せっかくあのポストができたのだから、人権をどう考えるのか、日本としての対応をどうするのかということは、早急かつ明確に決めていただきたいと思います。
「独自の国益を勘案した選出」とは
飯田)閣僚は派遣しないけれども、スポーツ庁長官が行くのではないかなど、いろいろな観測記事が出ているではないですか。こういう国内向けの観測記事は、海外に対しても効果があるのですか?
峯村)ないでしょうね。「この人であればどうかな」という国内の意向を探るところもあると思うのですけれども、それも違うと思います。いま出ている人選を見ていると、「足して2で割った」ような人選なのです。
飯田)そうですね。
峯村)そうではなく、「いま人権はこれだけ問題なのだ」と。「しかし、東京オリンピックとの関係もあるからこういう人を出すのだ」という説得ができるかどうかだと思います。「誰だったら行ける、誰だったら行けない」という話ではないのです。まさにそれが岸田さんの言っている「独自の国益を勘案した選出」ということだと思います。
国家としての意思表明をしなければ、「日本は人権軽視の国」とみられかねない
飯田)各国、人権というところで、どうするかを決めているだけに、その部分を国家として意思表明しなければ、ロジックとして立ち行かないわけですか?
峯村)これだけ「北京五輪と人権」がマターになっているわけですから、ここで日本が何もしなかったり、日本だけが違う対応を取ったりすれば、「日本は人権軽視の国、無視をしている国なのか」とみられかねない。真剣かつ踏み込んだ措置を取らなくてはいけないと思います。
西側への大きなメッセージとなる
飯田)各国は人権に関して、既に議会で議決を出しています。日本はまだそれもできていない。
峯村)できていませんね。かなり遅れています。日本版のマグニツキー法なども遅れそうな感じですし、人権補佐官というのは、岸田政権内でいくつかある功績のなかの1つだと思うのですけれども、仏のなかに魂が入っているかどうかの1つの指標が、今回の北京五輪への対応ではないかなと思い、注目しています。
飯田)西側に対してのメッセージは大きいですか?
峯村)大きいですね。むしろ西側にどのような態度を出すのか。そうではなくても、「日本は人権問題について関心が薄い」とみられがちです。ここでしっかりと説得力のある人選をするなり、行かないことも含めて、決断すべきときです。
ここで価値観外交が揺らぐことがあれば、欧米諸国に「期待を裏切られた」と思われてしまう
飯田)安倍政権などは、価値観外交は旗を立ててやるという方向でした。諸外国はそれが安倍さんの個性なのか、それとも日本外交が変わったのかどうかについて見ているのだという指摘がありますけれども、いかがですか?
峯村)安倍政権以降、外国では「価値観外交によって、日本の外交は変わった」と思われているのです。例えば、ここで価値観外交が揺らいだりすることがあると、逆に欧米諸国を中心に「期待を裏切られた」とも取られかねない。ここは慎重な対応が求められると思いますね。
3期目を習近平氏が乗り越えた場合、終身制になる可能性も
飯田)中国を相手にするというところで、オリンピックがあり、その先を考えると、台湾海峡がどうなるかという問題もあります。中国は来年(2022年)には、党大会も控えています。
峯村)北京オリンピックが終わったらもう、来年秋に向けて、中国共産党大会に進むことになります。ここで習近平氏が3期目をやるかどうかということがすべてなので、中国国内としても緊張した状況が続くのです。
飯田)そうですよね。
峯村)一方で、3期目を習近平氏が乗り越えた場合は、終身制になる可能性がある。そして、このまま大国、強国に向けて突っ走るということを考えると、いま中国に対して、「体制について改善しましょう」とか、「人権を重視しましょう」ということを打ち込める最後のチャンスが、わずかこの半年しかないのです。このことは、アメリカ政府の人間と話すのですけれども、この期間に何もしないのではなく、「最後の期間だ」と思い、中国に対して、日本としてのメッセージを打ち込むことは大事だと思います。
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