ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(2月14日放送)に元内閣官房参与で前駐スイス大使の本田悦朗が出演。自民党の若手国会議員が2月9日設立総会を行った「責任ある積極財政を推進する議員連盟」について解説した。
自民党内の若手国会議員が積極財政議連を設立
自民党の若手国会議員でつくる「責任ある積極財政を推進する議員連盟」が2月9日、国会内で設立総会を行った。会合には、安倍晋三元内閣総理大臣が講師として招かれ、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化目標について「カレンダーベースで置くべきではない」と話した。
飯田)初会合には、本田さんも出席されました。その前日にも「財政政策検討本部」の会合があり、そこにも本田さんはご出席されております。こういう動きが広まって来ているのですか?
本田)広まって来ているような感じを受けます。これまでは、財務省にはなかなか逆らえないというのが一般的な反応だったのですが、「ちょっと待てよ」と。「なぜ日本が長期停滞から抜けられないのだろうか、どこかが間違っているのではないか」と思い始めている人が多いのです。
飯田)どこかが間違っているのではないかと。
本田)特に、選挙区に帰ると、中小企業の経営者の方を中心に「景気をよくしてくれ」と。「なぜこんなにずっと景気が低迷しているのか」と言われる。いまはコロナ禍で異常事態ですけれども、「コロナが終わったら本当に景気がよくなるのですか?」と、みんな問われていると思うのです。
マクロ政策が力不足ではないか
本田)真剣に考えてみると、やはりマクロ政策が力不足ではないかと。アベノミクスがそれを補うために、2012年末に始まったのですが、「金融」と「財政」を車の両輪として思い切りふかそうと。そのうちに生産性が上がって来たら別の方策を立てて、日本経済全体を上げて行こうという戦略を立てたのです。
今後どうするべきかを真剣に考える若手議員が増えて来た ~「責任ある積極財政を推進する議員連盟」の設立
本田)金融は日銀が自由にできますから、金融はいいのですが、財政はやっているうちに「消費税増税をそろそろやらないと危ない」ということや、毎年、緊縮財政をやらないと、日本の借金は1000兆円を超えているので、「借金で首が回らなくなって返済できないのではないか」という不安を感じる人が、財務省の説明を受けて増えているのです。
飯田)財務省の説明を受けて。
本田)まったく心配は要らないのですが、そういう財政当局の考えに引き摺られている人が多かったのです。しかし、最近は真剣に考え始めて、徐々に政策的に手を打とうと。「どこが間違っていて、どこが正しくて、今後どうして行くべきか」ということを真剣に考える方が若手の方を中心に増えて来たのです。
飯田)どうするべきかと。
本田)先ほどおっしゃった若手議連の会。「責任ある積極財政を推進する議員連盟」には、熱意のある方がいらっしゃいます。もちろん、自民党の政調の検討本部でも活発な議論がされていて、有益な議論だったと思います。
物価が毎年減少する状況からは脱出した
飯田)結局、緊縮で行くと、経済全体が縮小均衡に陥ってしまう。見かけ上はいい数字が出るかも知れないけれど、「全体として貧しくなっていないか」という危機感があるのですね。
本田)最大の問題は「賃金が上がらない」ということです。なぜ賃金が上がらないかと言うと、売れないから上がらない。投資もしない。だからまた売れない、その悪循環がずっと続いているのです。
飯田)売れないから賃金が上がらない。
本田)ただ、アベノミクスのおかげで、物価が毎年減少して行くという状況は、もうありません。脱出しました。ですから、かろうじてプラスにはなっているのです。
新しいプロジェクトをつくり生産性を上げる ~アベノミクス
本田)貨幣にはいろいろな機能があります。「ものを買う」というのは、いちばん重要な機能なのですが、もう1つ、「貯めておく」という機能があります。10年~20年先のために1000万円を貯金する。これも重要なお金の機能です。その貯蓄機能が発揮されすぎてしまっている。デフレですから、ものが安くなって行くので、10年後にはもっと安くなっているだろうと。だからいま誰も買わないのです。
飯田)貯めておいた方が得だろうと思ってしまう。
本田)でも、それだと経済が破壊されるのです。誰も買いませんから。お金というのは、そもそも単なる紙や金属ですから、使わなければ意味がない。「使ってくれ」という人間のマインドの変化、気持ちの変化。これを経済学者のケインズは「アニマルスピリット」と呼んでいますが、お金を使って、新しいプロジェクトをやってみようと。それで生産性を上げてみようということです。
飯田)アニマルスピリット。
本田)失敗するかも知れません。しかし、やらないと経済はよくならないのです。日本人はもともとアニマル精神があり、世界に冠たる技術を持っていましたので、それをもう1度、日本に取り戻そうということで始まったのが、アベノミクスです。
コロナ後は「アベノミクス・バージョン2」で行く
本田)インフレ率はまだ2%の物価安定目標に到達していませんが、労働仕様はよくなって、就業率は職種を選ばなければ、必ず仕事は1人に1つあります。学生の内定率もほぼ100%に近いのです。明らかによくなっています。それが、いまはコロナ禍で隠れていますけれども、コロナが収束すれば、再びアベノミクスをバージョンアップして「アベノミクス・バージョン2」で行きましょう、というのがこの会で話され、とても有益だったと思います。
無謀だった消費税3%の増税
飯田)「財政と金融の両輪で」と先ほどおっしゃいました。先ほどの物価の話で、「物価が上がって来ているのだから、財政をふかしたりすれば、もっとインフレになってしまう」と言う人がいるのですが、その心配はありませんか?
本田)全然上がって来ないのです。上がって来ないから心配しているのです。
飯田)むしろ、そちらが心配。
本田)2014年、アベノミクスが始まって1年と少しの時期に、消費税を5%から8%に上げました。5%から8%にするというのは、無謀としか言いようがありません。世界中でこんなことをやった国はありません。
飯田)無謀だったと。
本田)3%の消費税を一気に上げるということが、消費者にとってどれだけショックかということです。名目の給料も上がらないし、デフレだから実質上がっているかも知れないけれど、慰めにもならない。そこで消費税を3%も上げるのですから、みんな大変な苦労をしますよね。そういうことはやってはいけないのです。
飯田)やってはいけなかった。
本田)2019年10月にもう1回、8%から10%に上げました。このときは軽減税率がついていましたけれども、そういうことは、いつかやればいいと思います。完全雇用で経済がフルに回っているときは、増税に耐えられると思いますけれども、いまやってはいけないのです。その途中経過なのです。それをやってしまった。
財政を緊縮していた
本田)私自身の反省もあるのですが、あまりにも消費税増税が大問題なので、そちらの論争に参加しすぎてしまって、「毎年財政がどうなっているのか」というところが疎かになったことは否定できません。よくよくみると、毎年財政を締めているのです。
飯田)毎年、財政を締めていた。
本田)というのは、景気が少しずつよくなっていますから、税収が増えて来るのです。増税しなくても税収が増え、歳出はカットしているのです。財務省はプライマリーバランス黒字目標を持っていますから。財務省としては、賢いのです。でも、日本経済全体としてみれば、間違っているのです。
飯田)チャンスに全然出さなかったわけですよね。
本田)そうです。もし自然増収で上がって来るのであれば、その分、税収を使ってくれと。1回戻してくれと。
飯田)市場に戻す。
本田)経済が安定するまでは戻して来る。そうすればよかったのですが、そこはやや疎かになったところは否めません。
インフレ率を3%までに抑える
本田)いまは、みんな気が付いていますので、「財政は、いまは緊縮しないように」ということです。債務残高は1000兆円を超えていますが、債務残高をGDP……日本の国民所得全体を足したもので割った値を、債務比率と呼んでいますが、債務比率が発散するか、収束するか。収束していれば問題ないのです。発散してしまうと、財政はどこかで破綻します。
飯田)発散してしまうと。
本田)でも収束すると、無限に行ったとしても、そこで止まるのです。ただ、止まったところのインフレ率が5%では困る。せいぜい、3%までに抑えるということは見ていないといけません。
飯田)3%までに抑える。
本田)ですから、債務残高の対GDP比と、インフレ率をよく見ながら、2%を超えて来たら要注意です。3%辺りは物価安定目標です。でも、オーバーシュート型コミットメントというものをやっていました。少しオーバーしてもいいよと。だから、3%まで行ったら締めないといけない。それは間違いありません。そこさえ見ていれば、財政は心配いりません。
飯田)このときに見る物価上昇率は、コアの数字で見ますか?
本田)基本的にはコアで見てもいいのですが、日銀はそこをはっきりとおっしゃらず、総合的に判断する。総合指数はコアコア、コア、日銀コアなど、いろいろ種類がありますけれども、いろいろな観点から見ながら、最後は日銀が判断しますと。だいたい、すべての指標が2%くらいで安定して来るように、人間のマインドがそこで安定するように運営して行くというのが鉄則です。
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