本能で襲って来る『熊』への対処法を悩んでいる西側の人々 ~「ロシアは話が通じる」と見誤ってはいけない

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(2月15日放送)に地政学・戦略学者の奥山真司が出演。緊迫するウクライナ情勢について解説した。

ロシアのプーチン大統領(ロシア・モスクワ)=2020年7月1日 写真提供:時事通信

ウクライナ情勢を受け、日本政府が在留邦人に即時退避を呼び掛け

松野官房長官は2月14日、ウクライナ情勢を受けて在留邦人に即時退避を促していると明らかにした。首都キエフの日本大使館員については「不測の事態に備え、一部を除き国外退避させる。領事業務を含めた限定的な機能は維持する」と述べた。

「ロシアの軍事侵攻は起こる」という前提を持つべき ~ロシアは熊である

飯田)侵攻した場合には、G7が足並みを揃えて対露制裁をするというような話も出ています。

奥山)当然ですよね。まず戦略を考える人間として、考えなければならないのは、「軍事侵攻は起こる」という前提を持つことです。

飯田)起こるという前提。

奥山)そこは外してはいけないと思います。最悪の事態を想定するのは当然のことなので、日本政府が在留邦人に即時退避を呼びかけたのは正しいと思います。「戦争が起こるという前提で考えましょう」ということです。

飯田)戦争が起こるという前提で。

奥山)ロシアと、それに対する西側、NATOの東方拡大というところが1つの焦点なのですけれども、その焦点をめぐる今回の現象を、我々は引いて考える必要があると思います。引いて考える必要は何かと言うと、「ロシアは熊である」という認識を持たなければいけないということです。

西側諸国でやっているバーベキュー会場に熊がやって来たのがいまのウクライナの状況

奥山)EU、西側諸国が熊の前でバーベキュー大会を開いていると、そういう認識を持った方がいいのではないかということです。これは私が言っているわけではなくて、国際政治学者でこのように言う人が多くいます。その認識は正しいと思います。

飯田)国際政治学者の方で。

奥山)西側諸国で話のわかる、話が通じる人間同士でバーベキューをやる。お互いにパーティーを森の前でして、お互いにウィンウィンの関係で頑張って、お互いに儲けてみんなで美味しい食事を食べている。そんなときに、後ろから「ガオー」とバーベキュー場に強烈な熊が入って来て、「ウワーッ」となっているのがいまの状況である、というイメージで描くのが正しいと思います。

飯田)バーベキュー会場に熊が入って来て。

奥山)熊と我々人間同士を見たとすると、ロシアはそもそも「やるかやられるか」の19世紀の世界観を持っている。

民主国の同意を得て外交交渉できる人たちの集まりに、ギャングが入って来て脅している状況

奥山)帝国主義の時代の世界観を、そのまま持っている存在ではないですか。それに対して、21世紀の現在を生きている我々としては、国家そのものが相手の民主国の同意を得て拡大したり、約束したりして話の通じる人間であると。外交交渉ができる人たちが集まって、「お互いにこのようにやりましょう」ということで寄り合いをつくって来たところなのですけれど。

飯田)国際法の上で。

奥山)そういうことですね。そこに1人だけギャングが入って来て、「お前、どう落とし前をつけるんだ」と脅しているような状況を想像すれば、しっかりと現状を考えられると思います。

飯田)なるほど。

奥山)ロシア側も当然の如く、NATO側の東方拡大を認めて来た部分もあるのです。しかし、あとからイチャモンをつけて、「いま私の近くに来るな」と言っている。

飯田)通常のやり取りが通じない。

奥山)自分の縄張りに侵攻して来れば、それに対して「ガブッとやるぞ」という姿勢を見せているというのが現状です。EU側は同じ人間としてパーティーをやりたいのだけれど、突然わけのわからない熊が吠え出したと。

飯田)熊が。

奥山)ロシアは自分たちで勝手に情報を操作して、「我々がNATOに侵攻されているのだ」という物語をロシア国内でつくっていますので、国民としては「やられているのだ」と。「だったらやり返すしかない」という状況になっているのが怖いと思います。

2021年12月21日、ロシア国防省幹部の会合で話すプーチン大統領(タス=共同) 写真提供:共同通信社

ゼロサム思考を持っている人に対してウィンウィン思考の私たちがどう対抗するのか

奥山)話が通じない。その1つの大事な視点として、19世紀思考のロシアという「やるかやられるか」の世界観を持っている人たちに、「ウィンウィンでやりましょう。ビジネス関係でやりましょう」と言う21世紀型でどう対処するのかということです。ゼロサム思考を持っている人に対して、ウィンウィン思考の私たちがどう対抗するのかという根本的なジレンマが起きているのが、いまの状況なのです。そういう理解をすべきだと思います。

飯田)ゼロサム思考で来ているところに、妥協案は成立し得ない。

奥山)しないですね。妥協案というのは、そもそもウィンウィン思考ではないですか。

飯田)お互いに譲り合うというところの。

奥山)ロシアもたまには譲ることもありますが、基本的には「やられている」という被害者意識があって、入って来る情報を捻じ曲げて国民に教えている部分もあります。そういう熊的な、グリズリーのような存在に正しい情報をいくら説いたところで、向こうは本能でやって来ている部分もあります。それに「どう対処しようかな」と悩んでいるのが、現在の外交交渉においてすべての根本的な原因だと捉えています。

「ロシアは話が通じる」と見誤ってはいけない ~現状では退けないロシア

飯田)根本的なところは、帝国主義的な考えだと、「パワーとパワー」になるということですか?

奥山)そういうことですね。

飯田)ウクライナに対して西側も直接、兵力を投射することになるのかどうか。

奥山)その場合、やはり戦争になってしまいますので、私の読みだと、最終的にはある程度の妥協が図られて、「西側もロシア側も言いたいことを言った」と退くのがいちばんだと思うのですけれど、現状だとロシア側は退けない状況です。

飯田)ロシアとしては。

奥山)ウクライナ側に、とにかく強烈に自分たちの影響圏であること、縄張りであることを認めろと。「私たちの影響下にあるということを認めろよ」と、西側にも、アメリカにも求めて来るでしょうし、ウクライナ側にも自分たちの主張を認めさせるところで影響圏を確立する。自分のいる場所、縄張りをしっかり確立することが、熊であるロシアが求めている条件であるという認識をしないとならない。我々が「ロシアは話が通じる」と見誤ってしまうことを心配しています。

ロシアが最も嫌がるのは何か

飯田)そうすると、直接戦力投射をしなくても、ロシアが脅威だと感じるような抑止力をどう効かせるのか。そういうところで、ミサイルなどの話があります。

奥山)そうですね。「ジャベリン」という対戦車ミサイルがアメリカから供与されるなど、いろいろ動いていますけれど、熊であるロシアが「最も嫌がるのは何か」というところを突き詰めて考えるべきです。脅して来ていますので、それに対してどう対抗するかというところを考えると、我々も脅し的なものをやらなくてはいけない。金融制裁もあるのですけれど、果たしてそれがどこまで効くのか。経済的に痛くても、欲しいものは獲るのだと覚悟されてしまうと、困ってしまうわけです。我々はそのジレンマを感じながら、いまギリギリの交渉をしているというのが正しい姿だと思います。

2022年2月3日、米ホワイトハウスで、過激派組織「イスラム国」指導者の自爆死について話すバイデン大統領(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

ロシアに対してアメリカがどう対処するのかを中国は分析している

飯田)対する日本はというと、力による現状変更を認めてしまうような場合、直接的に東アジアへ跳ね返って来ますよね。

奥山)いま中国や台湾は、ロシアに対して西側がどう対処するのか、特にアメリカはどう対処するのかということを、タスクフォースのようなものをつくって現状分析しています。中国が同じようなことをやって来た場合はどうするかというアナロジーとして、これから使われて行くのは間違いありません。日本もこの問題を、しっかり見て行かなければならないと思います。

アメリカの優先順位がウクライナに引っ張られている ~東アジアに向かせるためには

飯田)ウクライナをめぐるアメリカの立場と、台湾をめぐるアメリカの立場は違うのだ、という指摘もありますよね。

奥山)当然なのですけれど、アメリカにとっては、ウクライナよりも台湾の方が歴史的にも深い関係がありますし、昔から支援の濃さというのもあります。すべてにおいて優先順位は上だと思います。

飯田)台湾の方が。

奥山)ただ、アメリカ側のメディアや知識人にヨーロッパ系の人が多いということもあり、その人たちが現在のアメリカの優先順位として、1位ではないウクライナに全賭けしようとしている。バイデン政権は東アジアにおいて、最大のライバルである中国とどう対峙して行くのか、というところに優先順位を置くべきなのですが、間違えてしまっています。本来であれば、東アジアの日本周辺がいちばん大事なのですけれど、ウクライナの方に引っ張られてしまうのはまずい状況だと思います。

飯田)アメリカ政界や言論に対しての工作を、日本は考えておかなければいけないということですか?

奥山)できればそうしたいですけれど、できるのかなという心配な部分はあります。

飯田)そうすると、日本は日本で独自の対処方法を考えておかなければならない。

奥山)そういう意味で今回、G7がまとめたようなもの、金融制裁を共同して科す用意があるという姿勢は、まさに日本がやらなければいけない対応だと思います。

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