ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月8日放送)に産経新聞ソウル支局長の桜井紀雄氏が出演。3月9日に投開票が行われる韓国大統領選挙について解説した。
韓国大統領選挙、3月9日に投開票
3月9日、韓国大統領選挙の投開票が行われる。与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補と、最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソンヨル)候補が世論調査で接戦となっている。また、期日前投票が36.93%と過去最高となっている。
飯田)野党候補の一本化等々、情勢はどうなっていますか?
桜井)韓国では有権者に予断を与えないよう、投票直前1週間に聞かれた世論調査の公表はこの期間、禁じられています。大手世論調査会社の先週の発表では、尹錫悦さんが40.6%、李在明さんが39.2%と、ほんの少し尹さんがリードしているような状況です。現場で韓国大統領選挙を取材するのは3回目になりますが、これほどの接戦を経験したことはありません。
撤退した安哲秀氏への批判も高い ~李在明氏に流れる可能性も
飯田)直前の調査は、安哲秀(アン・チョルス)候補もいた段階での調査だったのですか?
桜井)そうです。安哲秀さんの「アン」というのは韓国語で「~しない」、チョルスというのは「撤収」という意味です。安哲秀さんは「アン・チョルス」を連呼して、「絶対に撤退しません」と強調していましたが、土壇場になって撤退しました。
飯田)なるほど。
桜井)直前の調査ですと、10%弱の支持率を安さんが獲得していました。これが単純に尹さんに流れるのかどうか。現状では、急に一本化したので安さんへの批判もかなり高まっています。そもそも安さんの支持者は「李在明さんもいろいろあるけれど、尹錫悦さんへの反発が強いので安さんを選ぶ」という支持者が多かったのです。
飯田)尹錫悦さんへの反発が強く。
桜井)そういう人たちの一定票は「李在明さんに流れてしまうのではないか」、もしくは「棄権してしまうのではないか」という分析が出ています。ただ選挙は勢いが大事ですので、急に連合して、安さんが遊説の場で「尹錫悦へ一票を」と叫んでいることは、イメージとしても勢いを感じられるため、大きな影響を与えるかも知れません。
20~30代の世代を取り合う両陣営
飯田)今回の大統領選挙の主な争点は、どのようなところになるのですか?
桜井)争点としては経済問題などがあるのですが、どちらも似たような政策が多いのです。特に住宅問題、若者の雇用問題。これらは20~30代の若者の心をどうつかむかということで、尹さんの陣営も李さんの陣営も腐心しているところです。
飯田)若年層の雇用については、「文在寅さんも雇用の話をして大統領選を勝ったが、何もできなかったではないか」という批判があると報道されています。その辺りはいかがですか?
桜井)韓国では、世代の分断も大きいと言われています。60代以上の高齢層は保守系、すなわち尹さん支持が多く、40代前後の世代は革新系、つまり李さん支持が多いというような世代間のギャップがあります。
飯田)世代間のギャップが。
桜井)そのなかでも30代は、就職や結婚、出産など、将来の不安を抱えていて現状に不満があります。以前、ろうそくを持ったデモで文在寅政権の誕生に貢献したのも20~30代だったということもあり、この世代を両陣営ともに取り合っている状況です。
「政治交代」ということで文在寅政権との違いをアピールする李在明氏
桜井)最近、土壇場に来て面白いことを李在明さんが言い始めました。政権交代に対抗するという意味で「政治交代するのだ」と、「私の政治は文在寅さん当時の政治とは違う」と、20~30代にやさしい政治なのだと言い始めたのです。
飯田)それは20~30代に刺さっているのですか?
桜井)20代の心をつかむのは両陣営とも難しいようで、両陣営とも家族をめぐるスキャンダルがどこまで響くかというような、ネガティブ合戦になっている側面もあります。
若い世代における対日感情 ~反日感情を超える反中感情
桜井)若い世代では、例えばコロナ以前には日本へ旅行に行った人が急増していて、「あそこに行ったのは楽しかったね」という感じで、日本に対する偏見を持つ人は多くありません。しかし、竹島問題などの話になった場合は、「日本の主張は正しくない」という傾向になります。また、20~30代の人でも、日本の肩を持つ行為がネット上でバッシングされるところがあるので、日本びいきをすることは難しいのです。
飯田)政治的な話になると。
桜井)ここで新しい要素として出て来たのが、いまの若者のなかで反中感情が高まっているということです。北京オリンピックで「チマ・チョゴリを着た朝鮮族の人を出させたのは文化を奪うものだ」、「不公平な判定があったではないか」ということで、反中感情が出ています。いまはこういう世論が反日感情を超えて、若者世代を中心に高まっているところです。「中国から吹く風が影響を与えるのではないか」という分析も出ています。
若者世代が中国に反感を持つことは与党にとって逆風なのか ~ウクライナ情勢による影響も
桜井)このように中国の話になった場合、例えば北朝鮮を狙った米軍のミサイル配備の問題をめぐって、尹錫悦さんが「追加配備が必要だ」と言ったところ、李在明さんは「中国との経済関係が悪くなる」と反対したのです。親中的なのは李在明さんだとみられているので、マイナスに働くかも知れません。
飯田)与党にはマイナスに。
桜井)ただ、ウクライナ情勢も出て来たので、例えば「強硬路線だと戦争になってしまうではないか」という方向に流れた場合には、李在明さんが有利ですね。「やはり安保が大事だ」となれば、尹さんに流れるということで、いまの世界情勢が反映されている部分も出て来ています。
尹氏が大統領になった場合、少数与党となり、厳しい対日政策を迫られる
飯田)李在明さんは日本に対してかなり厳しい発言が、知事時代も多かったとされています。日本にとっては尹さんの方がやりやすいのでしょうか?
桜井)尹さんの方が対日姿勢ではいいとされています。ただ、尹さんが政権を獲った場合は少数与党になるのです。いま、与党側が180議席という大きな議席を獲っているので、例えばいわゆる「徴用工」をめぐる訴訟については、日本企業に賠償をそのまま払わせるのかどうかの問題をめぐり、国会で法律をつくって解決しなければいけない場面も出て来ます。2022年中にも動き出すのではないかと言われているなかで、少数与党になった場合、非常に厳しい対日政策を迫られるのではないかと考えられています。
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