福島県浪江町請戸漁港で操業再開『柴栄水産』の「勇気」と「もう1つの心配」 ~東日本大震災・福島第一原発事故から11年

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月11日放送)では、東日本大震災による福島第一原発の事故から11年を迎えた福島県浪江町・請戸漁港の水産業の現状について、飯田アナウンサーがレポートした。

福島県浪江町請戸漁港で操業再開『柴栄水産』の「勇気」と「もう1つの心配」 ~東日本大震災・福島第一原発事故から11年

東日本大震災や福島第1原発事故の影響で避難した漁船が、請戸漁港に戻った=2017年2月25日 写真提供:産経新聞社

1897年、浪江町で創業された「柴栄水産」

飯田)東日本大震災から、きょう(3月11日)14時46分で11年が経ちます。今回は福島県浪江町・請戸漁港の水産業についてのレポートです。1897年に浪江町で創業された「柴栄水産」は、125年の歴史を持ちます。市場では「いちます」という名前で親しまれている水産業者です。

美味しい魚が豊富に獲れる福島県の浜通り

飯田)福島県の浜通りと言うと、目の前に太平洋を擁する場所で、北からの親潮と南からの黒潮が混ざり合い、たくさんの魚が獲れますし、プランクトンがたくさん発生するのでとても美味しいです。東京の公設卸売市場は、いまは豊洲ですが、昔の築地では「常磐もの」と言われ、この辺りの魚は非常に重宝されて来ました。震災以前はこの魚を使って、仲卸の他にも直営店舗や和食レストランもやっていました。

「初めて明るい話を持って来てもらった」と「柴栄水産」の事業再開を喜んだ馬場町長

飯田)「柴栄水産」の柴孝一社長によると、かつては東京の築地にもたくさん取引があり、メバル・アイナメ・ヒラメ・コウナゴ・シラスなどは加工品でも卸していました。しかし、東日本大震災で大きな被害を受け、すべての店舗が休業になりました。その後、福島第一原発の事故もあり、全町避難も経験されましたが、「何とか事業を再開しなくては」と柴社長が浪江での事業再開を決めたとき、当時の町長も含め、どのような様子だったのかを伺いました。

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柴社長)当時の町長は馬場町長で、専務と挨拶に行きました。そのころ、陳情に来る人はみんな暗い話ばかり持って来るそうで、「初めて明るい話を持って来てもらった」と、馬場町長はとても喜んでくれました。

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「復興のセンターピン」を誰が倒すのか ~手を挙げた柴社長

飯田)2018年に亡くなられた馬場町長は、「ふるさとの浪江を復興させるのだ」と、東京のメディアなどでも積極的に発信を続けられていた方でした。柴社長ご自身も東京や千葉で避難生活を送られていましたが、水産は誰かがやらなければならない問題で、水産物が揚がって来たとしても、流通がしっかりしていなければ意味がない。流通がしっかりしていることがわからないと、行政も市場の整備ができないという問題があり、「復興のセンターピン」を誰が倒すのかということが取り沙汰されていました。しかし、リスクがあってなかなか取り掛かる人がいなかった。そんななかで柴社長が手を挙げたことに、馬場さんは本当に喜ばれました。そこで仕組みを整備し、水産団地をつくるために町としても動き出したのです。柴さんも人生のすべてを賭けて再出発する決意を固められています。

「柴栄水産」が操業再開したときに風評被害はなかった ~各地の漁協や県の水産試験場などの努力の結果

飯田)そうは言っても、津波で完全に流されてしまったところでした。そこにかさ上げをして水産団地をつくる。さらに、福島第一原発事故の被害を受けていたので、除染もしなければならず、拠点をつくるにもたくさんの努力が必要でした。そして操業を開始し、魚が揚がるようになり、美味しく加工できるようになってからも風評被害が取り沙汰されるようになりました。その風評被害についても伺いました。

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柴社長)最初は心配していましたが、時間が経っていたので風評被害はありませんでした。既にいい魚を出荷するようになっていたのですが、特に被害はありませんでした。うちの魚はいいものばかりなので、各市場の需要があるのです。

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飯田)柴さんが事業を再開されたのは2020年4月だったので、震災から約9年が経過していたこともあり、柴さん自身が風評被害を受けることはなかったそうです。ただ、それには各地の漁協や県の水産試験場などが逐一モニタリング調査して、放射線量を測り、安全なものだけを市場に出して来たという前段階がありました。その数字はいまでもリアルタイムに近い形でホームページに公開され続けています。こういった努力が風評被害をなくすことにつながりました。そして何よりも、目の前にある海から「いい魚が揚がるのだ」とおっしゃっていました。

気候変動により魚の揚がる時期が変わっている ~春先にコナゴが揚がらない

飯田)柴さんは今後の処理水の放出についても、「風評被害がどの程度出るかが問題だ」と気にしていらっしゃいます。いまは試験操業中ということもあり、「週に3日」などの決められた日付だけ漁に出ていますし、範囲も決まっているなかで行っています。そのため、入って来る魚の量が最盛期に比べてだいぶ落ち込んでいますし、昔に比べると所属している漁船の数も減っています。「もっと美味しい魚を自信を持って出したい」とおっしゃっていました。それともう1つ、柴社長は魚の揚がる時期が変わっていることを心配していました。例えば春先はコナゴがいい時期で、たくさん揚げて天日干しにして出すという名産があるのですが、この時期にコナゴが揚がって来なくなったということです。

気候変動や海流の変化が影響していると思います。この部分は「俺たちが心配してどうなるものでもない」とおっしゃっていました。いま柴さんたちは新型コロナ感染の影響も受けています。以前までは美味しい魚を食べに、関東や東北からたくさんの観光バスが来ていたのですが、コロナ禍でツアーなどもやりづらくなりました。しかし、「これからなんだよ」と、魚の品質には自信を持っているので、「コロナが落ち着いたときにはぜひ食べて欲しい」ともおっしゃっていました。

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