「ロシア側につくのか否か」中国に踏み絵を迫る 米中高官の対面会談の「大きな意味」

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月14日放送)に朝日新聞編集委員で元北京・ワシントン特派員の峯村健司が出演。イタリアのローマでの米ジェイク・サリバン大統領補佐官と中国の外交トップの楊潔篪政治局員の会談について解説した。

「ロシア側につくのか否か」中国に踏み絵を迫る 米中高官の対面会談の「大きな意味」

中ロ首脳会談=2019(令和元)年6月5日、ロシア・モスクワ(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

米サリバン大統領補佐官、中国・楊潔篪氏と14日に会談 直接会談の持つ意味

アメリカのバイデン政権で安全保障を担当するジェイク・サリバン大統領補佐官が3月14日、イタリアのローマで中国外交トップ・楊潔篪政治局員と会談。(※編集部注:以下、会談前の放送内容)

飯田)昨年(2021年)10月にスイス・チューリッヒで会って以来の直接会談になります。

峯村)今回の会談が持つ意味は、前回とは比較にならないくらい重要だと思います。一言で表すと、「中国、お前はどちらの側につくのか?」ということです。

飯田)どうするのかと。

峯村)踏み絵を迫る。つまり、「このままロシアの肩を持ち続けて、そのまま死んでしまうのかと。お前も一緒に道連れになるのか」と。

飯田)ロシアと同じレッドチームだと。

峯村)「レッドチームに入るのか、それともあなたたちが言っている大国としての責任を果たして、我々と協力するのか」というワンメッセージだと思いますね。

中国に「どちら側につくのか」を確認する会談

飯田)アメリカ側は開戦前も、いろいろな情報を中国にも提供していたという報道が出ています。

峯村)そうですね。報道が出ているのもアメリカのメディア、「ニューヨーク・タイムズ」や「ブルームバーグ」などから出ているので、アメリカ政府のリークの可能性があります。

飯田)アメリカ政府からの。

峯村)もう1つ、私も報道についてクロスでチェックしたのですが、正しそうです。アメリカ側は今回のロシア軍の動きについて相当、細かいインテリジェンス情報を中国側へ事前に提供しています。

飯田)事前に。

峯村)アメリカとしては「我々と同じくらい情報をシェアしていますよね。にも関わらず2月4日、習近平さんはプーチンさんと会いましたよね」と。「『我々の両国の間には、何も禁じられた分野などないのだ』という共同声明を出しました。ということは、もうあなたたちはグルですよ」という世論をアメリカがつくろうとしているわけです。

飯田)アメリカが。

峯村)ここまで圧力を高めたタイミングで、さらにきょう(3月14日)、実は私の盟友である「フィナンシャル・タイムズ」のデミトリー記者がスクープしていたのですが、「ロシアが中国側に武器の供与を要請している」という記事を素晴らしいタイミングで出しているのです。

飯田)なるほど。

峯村)ここまで来ると、もう「中国さん、わかっていますね?」というすべての状況が整ったわけです。このタイミングで、まさにサリバン氏が楊潔篪氏に「どちらにつくのですか」ということを確認するのが、今回のいちばんのメインだと見ています。

「ロシア側につくのか否か」中国に踏み絵を迫る 米中高官の対面会談の「大きな意味」

モスクワで、取材に応じるロシアのプーチン大統領(ロシア・モスクワ) AFP=時事 写真提供:時事通信

アメリカが情報を与えたのは罠ではないかと疑った中国

飯田)中国側としては、2月4日の北京オリンピックの開会のところで中露首脳会談を行い、ある意味、ロシア側に賭けてしまったわけですよね。

峯村)そういうことです。アメリカからすると、あれだけ「危ない」とインテリジェンス情報を渡していて、「何とか一緒に止めてくれ」と言ったにも関わらず、それを反故にしてロシアを支持したように見えるわけです。

飯田)ロシアを支持したと。

峯村)実際、それにほぼ近い状態です。中国もアメリカのインテリジェンス情報を信じていなかったのです。アメリカは中国とロシアの関係を離そうとしているはずなので、「どうせ中ロの離間のために言って来ているのではないか」というくらいに思っているわけです。特にいまの習近平政権の考え方は、基本的には対米不信感なので、そうした発想になりがちなのです。

飯田)アメリカとの信頼関係は。

峯村)ですので、これは中国の「三国志」以来の発想で、「敵が情報を提供してきたのは何かの罠だ」と思ってしまうのです。

飯田)罠ではないかと。

峯村)そこはフラットに、「そうですね、ではプーチンさんを説得して止めますね」とはならなかったわけです。

諜報機関出身のプーチン大統領が戦争の情報を他国に言うことはない

飯田)なるほど。他方、ロシア側からは別の情報が入っていたはずですよね。

峯村)「プーチン大統領から習近平国家主席に具体的な話があった」というようなアメリカの報道もありますが、私はこれに関しては疑問を持っています。プーチン大統領のような諜報機関出身の人間が、最高機密情報である戦争の情報を他国に言うということは、まず考えられません。

飯田)個人的な友誼(ゆうぎ)があったとしても。

峯村)それはないですね。そんなに甘くありません。

あのタイミングであれほど大規模な侵攻が行われるとは考えていなかった中国

峯村)アメリカ政府の関係者、中国政府の関係者にいろいろ聞いていますけれども、習近平氏がプーチン氏に対して2月4日の会談で、「北京オリンピックが終わるまで待ってくれ」と言ったという情報があるのですが、これも私はないと思います。

飯田)ない。

峯村)戦争に関わることを、わざわざトップが軽々しく言うことは考えにくい。そこは暗黙の了解で「わかっているよね?」と言ったくらいなのだろうなと思います。「わかってね」と言っていたのに、実際にプーチン氏は行動を起こしてしまったというところが真相に近いでしょうね。

飯田)そうすると中国政府、特に最高指導部、中南海にとっては意外だったというか、「えー! やったの!」という感じだったのですね。

峯村)プーチン氏の「固い決意を感じたのはわかった」という話を中国側は理解していたようです。しかし、ここまで大規模な軍事展開を行うというところまでは考えていなかった。しかもあのタイミングで行うことは考えていなかったと思います。

飯田)あの規模で、あのタイミングでやるとは。

峯村)その1つの証拠として、ウクライナには約7000人の中国人がいるのですけれども、退避勧告が前日まで出ていなかったのです。当日になって慌てふためいたように行動していた。そして、まだウクライナには中国人が残っているわけです。

飯田)中国の人が。

峯村)中国外務省に対する批判や不満はものすごく出ています。自国民の保護は最優先しなければならないものですので、おそらく知らなかったし把握していなかった。さらに私が先ほど申し上げた「アメリカのインテリジェンスの情報も信じていなかった」ということの、1つの証拠として見ています。

「ロシア側につくのか否か」中国に踏み絵を迫る 米中高官の対面会談の「大きな意味」

インタビュー取材を受けるウクライナのゼレンスキー大統領=2022年3月1日、キエフ(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

中国にとって重要な国であるウクライナ

飯田)他方、中国とウクライナとの関係は、「一帯一路」などでつながっているという話があります。

峯村)中国にとっては重要な国です。ロシアよりもウクライナの方が重要だった時期もあります。

飯田)そうなのですか。

峯村)例えばロシアがくれない軍事技術などを、ウクライナからもらっていたのです。

飯田)なるほど。

峯村)中国の空母「遼寧」のもとになった「ワリャーク」という空母は、旧ソ連が解体したときにウクライナに移ったものです。それを香港の実業家が「カジノに使う」という嘘をついて買い、横流ししたのです。私は大連にある中国の工場に潜入したことがあるのですが、ホテルのワンフロアの食堂に200人くらい、空母を建造するウクライナ人の技術者がいたのです。

飯田)そうですか。

峯村)そこから考えると、その空母を買っただけではなく、技術者も一緒に雇ったと。つまり、ウクライナは中国にとって非常に重要な国であった。もう1つ、経済面でも、習近平政権の重要な政策である一帯一路のヨーロッパ側のハブがキエフなのです。

飯田)そうなのですね。

峯村)ここから中国側の鉄道と結ぶというのが、一帯一路のコンセプトにおける基本なのです。ですので、ここをロシアに攻められたということは内心、面白くないはずです。

2013年に締結されたウクライナと中国の「友好協力条約」 ~この条約の履行について圧力を掛ける

峯村)さらに言うと、2013年の段階でウクライナと中国は「友好協力条約」を結んでいます。

飯田)2013年。

峯村)習近平政権が発足した年です。このなかで肝になるのは、わかりやすく言うと、「ウクライナが核を放棄したのは素晴らしい。中国としては、もし核を放棄したウクライナが核を持った国に攻撃された場合は、安全保障を提供します」という文言が条約に書かれているのです。

飯田)安全保障を提供すると。

峯村)もともとはブダペスト覚書という、ウクライナを含む3ヵ国が核を捨てたときに、ロシアも含めて保障したもののほぼ焼き直しではあるのですけれど、中国バージョンは若干踏み込んでいるのです。おそらく中国とウクライナの関係が特別だからこそ、少しサービスしたのだろうと思います。

飯田)特別な関係だから。

峯村)ですので、この条約はどうなっているのだと。このことは国際社会からもっと圧力を掛けるべきなのです。習近平氏にとっても耳が痛い話で、「その条約を結んだのは自分ではない」とは言えないですよね。

飯田)自分の政権が発足したときに結んだものであるから。

峯村)自分がサインしているのだから、「そんな約束すら守れないのですか」と。このことをある番組で話したら、「中国なんてどうせ約束を守らないですよ」と、ある専門家に一蹴されましたが、私は違うと思います。そういうことも含めて、「中国はきちんとやるべきだ」と圧力を掛ければ効くのですよ。

飯田)中国は大義名分を大事にする。

峯村)中国が得意とする法律戦や世論戦の逆張りをすればいいのです。こういうこともチクチクやって行くのが外交の神髄ですね。

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