ウクライナの善戦は「ドローン」の有効な使い方にある
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月23日放送)に安全保障アナリストで慶應義塾大学SFC研究所上席所員の部谷直亮氏が出演。ロシアのウクライナ侵略における制空権とドローンの有用性について解説した。
ドローンを使った攻撃が成功しているウクライナ
ロシアによるウクライナへの侵略が続くなか、アメリカのバイデン政権高官は、制空権をめぐってロシア軍とウクライナ軍の争いが激化していると明らかにした。またバイデン政権が決定した対空ミサイルやドローンなど900億円を超えるウクライナへの追加軍事支援は、まだ現地に届いていないことも明らかにしている。
飯田)バイデン政権が「制空権をめぐって争いが激化している」ということを明らかにしていますが、この辺りについて、安全保障アナリストで慶應義塾大学SFC研究所上席所員の部谷直亮さんにお話を伺います。侵攻が始まって1ヵ月が経とうとしています。まずはこの戦いをどうご覧になっていますか?
部谷)ロシアがまったく目的を達成できておらず、ウクライナがドローンなどを使った嫌がらせに成功しているというところですね。
飯田)ドローンについてなのですけれども、もともとウクライナ軍はドローンをたくさん持っていたのですか?
部谷)国産の攻撃用ドローンも使用していますが、トルコからトルコ製のドローンを緊急的に供与されたとも言われています。あとはウクライナ国内外の一般ボランティアなどから民生用ドローンを大量に送ってもらい、それを使っているということです。
民生用のドローンも使用
飯田)なるほど。軍事用を攻撃に使うというのはわかるのですが、民生用のものはどうやって使うのですか?
部谷)民生用の使い方には2つありまして、いろいろな工夫を施し、電波妨害などのなかでも飛べるようにして偵察する。あとは爆弾や火炎瓶を落とすのに使っていると言われています。
飯田)それほど重くないものであれば運ぶことができるので、それを利用するわけですね。
部谷)そうですね。
戦車にもドローンを組み合わせて攻撃
飯田)その辺りの攻撃や偵察が、ロシアに対してかなり効果的だということですか?
部谷)民生用ドローンで大砲の弾を誘導するというのは、イスラム国(IS)がやっていた方法ですけれども、これが有効なのです。撃たれた海兵隊員が「ゴールデンショットだ」と言うくらい、正確に当てることができます。また、ドローンの偵察によってロシア軍がどこから来るかわかるので、地上で待ち伏せして対戦車ミサイルなどで攻撃ができます。
飯田)ロシアの戦車が相当な攻撃を受けているというのは、ドローンもうまく組み合わせて、場所の特定等々をやっているということなのですね。
部谷)そうです。
ロシアのドローン攻撃が低調な4つの原因
飯田)一方でロシアもドローンを使っていると言われていますが、こちらはどうなのですか?
部谷)いろいろな専門家が不思議がっているのですが、基本的に低調です。理由は4つあって、1つはロシアが使うドローンは旧式で、10年くらい前のものが多いのです。ドローンの世界はスマホと同じなので、現在だと10年前のスマホはほとんど使えないではないですか。また2つ目は、小型のタイプを多く使っていると言われています。ウクライナが持っているような、中型の武装ドローンは少ないのです。
飯田)なるほど。
部谷)3つ目は、ウクライナの電子戦対策です。電子戦に磨きをかけているので、ウクライナに妨害されてロシアのドローンが飛ばせないのではないかということです。
飯田)妨害されてドローンを飛ばせない。
部谷)そしてもう1つは、ロシア軍がバッテリーで苦労しているという報道があります。いまの軍隊はかなり電気を使うのですが、ウクライナがロシアの補給路を武装ドローンなどで破壊しているのです。それで充電ができず、使えないのではないかということです。
飯田)攻撃されて。
部谷)ただ最近は、ロシア軍もドローンで撮影した映像や、数少ない武装ドローンで攻撃している映像も出して来てはいます。
飯田)ロシアの兵站について、脆弱なのではないかという話がいろいろなところで言われていますが、ドローンにも影響しているのですね。
部谷)ドローンによってさらに悪化させられていると思います。ウクライナ軍がリークしたトルコ製の武装ドローンによる攻撃映像や、インタビュー映像などを観ていると、集中的にトラックや燃料輸送列車などを狙っている感じです。
指揮官もドローンに精通
飯田)各国から義勇兵等も入って来ていますが、義勇兵でも十分使うことができるし、あるいは一般人でも少し訓練すれば使えるということですか?
部谷)ウクライナの模型屋さんがドローンを大量に寄付して、それをウクライナ兵が使ったり、ウクライナ国防省がドローンを持っている国民に対し、「ドローンを持って戦争に参加してくれ」と募集をかけている状況です。
飯田)それを上手いこと統合して、作戦のなかに組み込まなければいけませんね。その辺りは指揮官も精通しているということですか?
部谷)精通していますし、ドローン部隊をつくってみんなで集まり、ドローンの事業者が3Dプリンターで部品を改造したり、爆弾を落とせるようにするというようなことをやっています。
飯田)西側の支援はあるのですか?
部谷)フィンランドだったと思うのですが、民生用のドローンを寄付したという話がありました。また、西側の軍隊が手に入れた情報と、ドローンで手に入れた情報を組み合わせて攻撃している可能性は十分にありますね。
制空権を握ることのできないロシア
飯田)制空権をめぐり争いが激化しているという報道もあります。かつてであれば、航空機が自由に飛べるゾーンを確保するという話が出て来ますけれども、この辺りの争いとドローンはどう絡んで来ますか?
部谷)ドローンはレーダーに映りにくいわけです。つまり防空網の穴を突きやすい。その穴にドローンが入って行き、穴を拡大して行く。その結果、ドローン自体もそうですし、戦闘機でも活動できるようになるのです。そうなるとロシア側は、制空権を握ることが難しくなります。ロシア側の防空網は崩れて行き、ウクライナ側の戦闘機は活動しやすくなる。
飯田)ロシアはいま、制空権をどれくらい握っているのですか?
部谷)握っていないことは確かです。ウクライナ側もいま戦闘機が活動中ですし、何よりウクライナ側のドローンが自由自在に飛び回っているということは、特に低空における制空権をロシアが握れていないということです。
飯田)ここを握れないと、この先ロシアも攻めづらくなる。
部谷)少なくとも、ずっとドローンで兵站を破壊されるというのを止められないわけですからね。
飯田)泥沼化して長引くという可能性が高まりますか?
部谷)ロシアは南部を除くと、全然侵攻が進んでいないですよね。
中国に武装ドローンの供与を頼んだのはロシアの敗北宣言
飯田)ロシア軍は何かドローン対策をやっているのですか?
部谷)2014年のクリミア侵攻では、かなりうまくやっていたのです。ただ、いまのところうまく行っていないですね。実際、中国に武装ドローンを供与してくれという話が流れていましたけれども、これはある意味でのロシアの敗北宣言ですよね。ウクライナのドローンに手が付けられないという。
日本も有事の際にはウクライナのドローンによる情報戦を参考にするべき
飯田)今回のウクライナの善戦には、ドローンがかなり役立っているわけですね。
部谷)ドローン自体の軍事的な役割も大きいのですが、ドローンによってウクライナが善戦している映像を流すことで、国際世論も変わるし、ウクライナの士気も上がる。そしてロシア軍の士気は下がります。こういう映像を観ると、「ウクライナが善戦しているんだ、応援しよう」という雰囲気が出るではないですか。
飯田)なるほど。情報戦との組み合わせというのは、我々が日本を守るときの対策として重要になりますね。
部谷)今回、民生用ドローンが撮影したものですが、ロシア軍が破壊する都市の映像がメディアに出ているではないですか。「我々は被害者なのだ」と、「正当性があるのだ」という情報発信ができるようにしておかないと、日本としてもまずいですよね。
飯田)日本を取り囲む国のなかには、ドローンを数多く持っていて、技術もあるという国があるわけですよね。
部谷)あります。その国は平時の情報戦でも、彼らのSNSアカウントでもドローンを使ってアピールしている国です。
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