ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月30日放送)に慶應義塾大学総合政策学部准教授の鶴岡路人が出演。アメリカ軍とフィリピン軍による過去最大規模の合同軍事演習について解説した。
南シナ海にあるフィリピンの軍事拠点としての重要性
フィリピンで、アメリカ軍とフィリピン軍による過去最大規模の合同軍事演習が3月28日から始まった。アメリカ側には南シナ海で海洋進出の動きを強め、軍事的な活動を活発化させる中国を念頭に、存在感をアピールする狙いがあるとみられている。
飯田)新型コロナの影響で昨年(2021年)は大幅に規模が縮小されていたそうなのですが、今年(2022年)は過去最大規模になったということです。中国を念頭に置いているのは間違いないですよね。
鶴岡)フィリピンは場所が重要で、南シナ海に位置しています。アメリカは日本と韓国には部隊を置いているのですけれども、他はなかなかないわけです。ですからフィリピンと協力し、必要なときには部隊を派遣できるようにしておくことは重要なのだと思います。
読みにくいドゥテルテ政権
飯田)いまのドゥテルテ政権がアメリカと少し距離を置くのではないかなど、いろいろ言われていましたけれど、こういう演習はやるのですね。
鶴岡)ドゥテルテ政権は中国に寄ったり、アメリカに寄ったりと、読みにくいところがあるのでアメリカは困っていると思います。
飯田)コミットメントの強さとしては、日本やオーストラリアを相手にするのとは違う感じですか?
鶴岡)予測ができないということだと思います。
ロシアによるウクライナ侵攻を受けて重要性がさらに高まったフィリピンの存在
飯田)いまのウクライナ情勢のなかで、そうは言ってもアメリカにとってのメインは、インド太平洋地域で揺るがないということですか?
鶴岡)そうですね。ただ、いま発生してしまっている戦争には対処しなければいけないということです。「中国の方が重要だからウクライナには対処しない」と言って、しかも化学兵器を使われてしまった場合でも対処できないとなると、アメリカへの信頼が傷ついてしまいますから。
飯田)対処しないわけにはいかない。
鶴岡)もう1つ重要なのは、今回、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、アメリカはポーランドやルーマニアなど、ウクライナの周辺国にかなりの規模で派兵しているということです。
飯田)ウクライナ周辺国へ。
鶴岡)米軍の立場からすると、危機があったときに近くに部隊を送れるというのは、NATOの場合だと安心材料なわけです。もちろん、それらの国を守らなければいけないということがありますが。
飯田)なるほど。
鶴岡)これをインド太平洋で考えた場合、仮に台湾で有事があったときに、どこに部隊を展開できるのか。アメリカにとってはルーマニアやポーランドのような存在が必要なのです。ウクライナ侵攻を受けて、フィリピンの重要性が再発見され、さらに高まったということが言えるのかも知れません。
物資を運ぶ後方基地として、また軍事対応をするメインの基地として必要なフィリピン ~南シナ海や台湾での有事の場合
飯田)ポーランドなどのように、そこに物資を集結させた上で必要なところに運ぶという、後方基地としての役割は価値が高いということですね。
鶴岡)あとは、もし化学兵器を使われた場合、何らかの軍事的対応をするときにも当然、ポーランドが基地になるわけです。南シナ海や台湾などを睨んだときに、もちろん日本の存在はあるわけですけれども、もういくつかの拠点が必要になります。
飯田)韓国は政権が変わりますが、関わり合いも少し変わって来ますか?
鶴岡)変わると思いますが、地理的に考えると、南シナ海や台湾を念頭に置いたときには、韓国よりは南の方に欲しいのです。
化学兵器が使われた場合の対応の難しさ ~「ロシアが化学兵器を使った」証拠を集めなければならない
飯田)ウクライナのケースでは、化学兵器や生物兵器、あるいは戦術核なども使われる可能性があるのではないかと言われています。生物兵器や化学兵器を使った場合、どういう対処方法が考えられますか?
鶴岡)私は軍事オプションがあると思います。24日に行われたNATO首脳会議では、おそらくその辺りを詰めたのだと思います。
飯田)その対処について。
鶴岡)問題なのは、化学兵器が使われても、ロシアは絶対に「化学兵器を使った」とは言いません。「ウクライナが使った」、「アメリカが使った」と言います。そうすると、ロシアが使った証拠を集めなければいけません。それがどこまで可能なのか。
飯田)証拠を集められるのか。
鶴岡)あとはNATOのなかで、加盟30ヵ国がコンセンサスをつくれるような証拠が出せるのかということです。「ロシアによって化学兵器が使われた」という認定ができなければ、次の段階に行けないわけです。これはかなり大きなハードルだと思います。
飯田)そのためにウクライナ国内に何らかの調査団が入るということが、この情勢のなかでできるかどうかの問題もありますしね。
鶴岡)しかも、そこで時間がかかっていると、化学兵器の証拠は消滅して行きますので。
ロシアが化学兵器を使った場合、アメリカは軍事オプションを実行するしかない
飯田)もちろん使わせないに越したことはないけれど、そのための抑止が重要になりますし、規模としては、同等のものでやらないといけない。だからといって、「こちら側も化学兵器を使うぞ」と言うわけにはいかないということですか?
鶴岡)バイデン大統領が微妙な発言をしていて、「対応する」を“in kind”という言い方で表したのです。“in kind”というのは「同じような手段で」というニュアンスになるので、「アメリカも化学兵器を使うのですか?」というような議論もありました。それは政府が否定していましたけれども。
飯田)同じような手段を使うということで。
鶴岡)しかし、何らかの軍事的なオプションをしない限り、単に避難して終わるということだけでは、「大量破壊兵器が使われても何のお咎めもなかった」という前例になってしまいます。中国や他の国のことを考えれば、そういう前例はつくれないのです。
飯田)シリアで「アサド政権が化学兵器を使ったのではないか」と言われたときには、トランプ政権はトマホークを打ち込みました。さすがに同じようなことはできないという感じですか?
鶴岡)いや、十分考えられると思います。ただ、ロシア領内への攻撃はないはずです。あるとしたら、ウクライナに展開しているロシア軍が標的になるのだと思います。
ロシアを抑止できなければ、中国を抑止することもできない ~核兵器を持って現状変更しようとする国にどう対処するかを冷静に考える
飯田)あとはバイデンさんが決断するかどうかというところですか?
鶴岡)やはりリスクはあるわけです。ロシアと直接的な交戦状態になってしまうかも知れない。ただ、そこで短絡的に「第三次世界大戦になる」とか、「全面核戦争になる」というような議論はよくないと思います。
飯田)第三次世界大戦になってしまうということは。
鶴岡)抑止~エスカレーションと段階がありますので、少しずつ登って行く覚悟を示すことで、登らないようにする。まさにこれが抑止なのです。ロシアの「少しでも何かやったら第三次世界大戦だぞ」という言葉に怯えていたのでは、抑止できなくなってしまいます。ロシアを抑止できなくなることと同時に、将来的には中国に対してもそうなります。
飯田)ロシアを抑止できなければ。
鶴岡)中国も核兵器を持っているのですから。中国との戦いになれば、全面核戦争になる可能性は常にあるわけです。「中国に何も手を出せない」ということになると、我々は中国を抑止できないということになってしまいます。
飯田)「蹂躙されるがままに」という可能性だってあるだろうと。
鶴岡)それをいかに止めるかということです。核兵器を持って現状変更しようとする国に向けて、しっかり対処できるような何らかの方法を、もう少し我々の方で落ち着いて冷静に考えるということが大事なのだと思います。
経済制裁にどこまでロシアが耐えられるのか ~兵器についても西側から輸入する部品に頼っている
飯田)いま、メインで発動しているのは経済制裁ですが、効果としてはどの程度まで考えられますか?
鶴岡)効果はかなりあると思います。ただ、若干時間がかかるわけです。ロシア経済が5月に崩壊するとか、6月に崩壊するとか、いろいろと言われていますが、どうなるかはまだわかりません。しかし、ロシア側もこのままでは本当に苦しくなるということは、プーチン大統領も含めて気付いているのだろうとは思います。
飯田)ロシア国内も既に少子高齢化が進んでいるし、国内の産業も、部品などを外から持って来ないとできない。ベアリング1つすらつくれないと言われています。既存のストックを使い果たしたら、もうおしまいということですか?
鶴岡)武器に関しても同じことです。どこまで本当かはわかりませんが、戦車工場も停止したというようなニュースがあります。ロシアの兵器も西側から輸入する部品に頼っている部分がかなりあるということです。
飯田)半導体や精密部品を中国から入れられるのかというと、それもなかなか難しいという話がありますね。
鶴岡)あれだけ国境が接しているので、小さなものであれば入れることは可能だと思いますけれども。それをどこまで中国政府がコントロールしているのか、どこまでロシアを支援するつもりがあるのかは、見えて来ません。
日本が学ぶこと
飯田)いずれにせよ日本としては、悪い前例を中国が学んだりすることのないように、「他人事ではないぞ」という思いで見なければいけませんね。
鶴岡)核兵器を使った恫喝などをして、それが効いたということになると、この地域にも核兵器を持って脅そうとしている国があるわけですから。我々は相手が核兵器を持っているとわかった上で、抑止しなければならないのです。ロシアに対しても、我々はしっかりと教訓を得るタイミングなのかも知れません。
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