北朝鮮の核ミサイルが急襲的に日本に落下するリスクが浮上するいま、検討すべき「迎撃システム」

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元航空自衛官で評論家の潮匡人が5月9日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。北朝鮮が発射したSLBMと推定される弾道ミサイルについて解説した。

北朝鮮の核ミサイルが急襲的に日本に落下するリスクが浮上するいま、検討すべき「迎撃システム」

平壌で軍事パレードを観覧する北朝鮮の金正恩総書記=朝鮮中央通信が2022年4月26日に配信 AFP=時事 写真提供:時事通信

北朝鮮がSLBMと推定される弾道ミサイルを発射

北朝鮮は5月7日午後、弾道ミサイル1発を日本海に向け発射した。発射されたミサイルは潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)と推定され、日本の排他的経済水域(EEZ)の外側に落下したとみられる。日本の航空機や船舶の被害などの情報は確認されていない。

飯田)今年(2022年)に入ってから14回目ということで、ほぼ毎週撃っていることになります。

潮)この5~6年間を振り返ると、「落ちたところが日本の排他的経済水域(EEZ)の外か内か」など、国際法上ではあまり意味のないことを言ったり、「日本の船舶には被害がない」など、政府は同じようなことを毎回言っています。その間に北朝鮮が核戦力をどこまで大きくしてきたのかということを考えるべきで、慣れっこになってはいけないと改めて思います。

「火星15号」の時点でアメリカの東海岸まで狙えるという実績を残している ~射程を伸ばすための実験ではない

飯田)ミサイルの部分は弾頭を運ぶ手段であり、それを多様化するということが報道でも言われています。この部分は相当、技術が進んでしまったのでしょうか?

潮)そう思います。特に今回撃った潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)は、以前にも軍事パレードでお披露目した、かなり大きなタイプのものだろうと思います。また最近、いわゆる大陸間弾道ミサイル(ICBM)について、「火星17」という形でお披露目されたものを撃ったのではないかということもありました。いずれにせよ、従来のものと比べて射程は伸びているのですが、日本政府は、射程を伸ばす長射程化を進めている北朝鮮の姿勢に変わりはないという認識を度々示しているわけです。しかし、私はそうは思いません。

飯田)そうではないと。

潮)「火星15」の時点で、既にアメリカの東海岸まで狙えるという実績を示していたので、これ以上に射程を伸ばすなど、軍事的なターゲットとして「太平洋上のどこに落とすのか」という問題ではないのです。

3つ以上の弾頭を搭載できるミサイルを開発か

潮)ここ数回撃っているものに絞って考えれば、弾頭を巨大化させることによって、従来は1つの弾頭しか積めなかったけれど、これからは3つ以上搭載できる可能性も出てきます。

飯田)複数の弾頭を。

潮)迎撃する側で考えれば、いままでは1発のミサイルが1個の弾頭しか落としてこないので、「3つのミサイルが同時に落ちてきたら困る」ということだったのです。

飯田)これまでは。

潮)しかし、これからは「1つのミサイルでも3つ以上の弾頭が同時に落ちてくる」という状況になるので、それらをすべて撃破しなければならない。1つでも撃ちもらせば、ニューヨークその他に核が落ちてくることになるので、当然その動きは阻止しなければなりません。

別途、戦術核の開発を進めている可能性も ~日本にとっても深刻な事態に

潮)それだけではなく、同時に「戦術核の開発を進めているのではないか」という専門家の見方もあります。5月中、あるいは6月にも核実験が行われるのではないかと言われています。

飯田)戦術核の開発を。

潮)仮にその出力、威力が小さかった場合を考えると、もちろん「失敗した」という可能性もあるのでしょうが、そうではなく意図的に戦術核の開発も別途進めていて、それが実用段階に入っているというようなことかも知れません。

飯田)実用段階に入っている。

潮)そう考えると、いわゆる戦略核よりも戦術核の方がどちらかといえば使いやすい、そういう兵器だという側面もあります。日本の安全保障にとっても、どちらもより重要な、とても深刻な事態だと思います。

出力は小さいけれど使いやすい戦術核

飯田)戦略核の部分は大陸間弾道ミサイル(ICBM)に象徴されるようなものですが、戦術核となると、個人的なイメージですけれど、もう少し射程が短い印象です。そして弾道ではなく巡航かも知れないし、使いやすくなるということですか?

潮)そうです。

飯田)出力は小さいけれども。小さいと言っても、広島や長崎規模のものがいまや小さいとされるくらいなのですよね?

潮)そういうことです。

北朝鮮の核ミサイルが急襲的に日本に落下するリスクが浮上するいま、検討すべき「迎撃システム」

平壌から発射実験が行われ、飛行する新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」=20022年3月24日(朝鮮中央通信=共同) 写真提供:共同通信社

地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備を再検討するべき

飯田)より日本の安全保障にとって問題だと。

潮)そうです。

飯田)どのように守るかということで、石破茂元幹事長が地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」について、配備計画の見直しを提起されました。その可能性についてはいかがですか?

潮)私はあの発言はとても注目すべきだと思いますし、この番組で何度も申し上げてきたように、私も結論を同じくしているところです。特に潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)が今回発射されたということを受けて言えば、当たり前のことですが、潜水艦から発射されるわけであり、事前の発射の兆候は地上から発射されるタイプのものよりもはるかに掴みにくい。

飯田)そうですね。

潮)電子偵察機RC135S(通称コブラボール)と言われている、アメリカの弾道ミサイルを観測するための特殊な航空機があるのですが、一説によると、それがその日は飛んでいなかったという報道もあります。アメリカ軍ですら、少なくともその日は、発射の兆候を掴んでいなかったということです。

飯田)アメリカ軍ですら。

潮)そうであれば、いつでも急襲的に北朝鮮の核ミサイルが日本に落下するリスクを、我々は目の当たりにしているのです。そのためにPAC3やイージス艦からの迎撃という、弾道ミサイル防衛網を構築してきたわけですが、「それらはいつ発射されるかわからない。ということは、常時発射体制を取れということですか?」という問題になります。人は24時間365日戦うことはできませんので、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の導入検討に至ったのです。当時の防衛白書に、はっきりそう書いてあります。

飯田)防衛白書にも。

潮)その必要性をいま私たちが目の当たりにしている。代替案として、洋上に浮かべるということが議論されているのですが、よくも悪くも、財務省もそれを疑問視している以上、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」には意味があると、原点に戻るべきだろうと思います。

潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)は敵基地ではなく、日本海から撃ってくる

飯田)結局、あのあとの議論は「向かってくるものを撃ち落とすのではなく、撃たせないようにするのだ」と言って、いわゆる敵基地攻撃能力、いまは反撃能力などさまざまな言葉が出ていますが、そのような議論になっています。しかし、潜水艦から発射されるとなると兆候が掴めないので、どうしようもないですよね。

潮)その通りなのです。そもそも「敵基地攻撃能力」というネーミングもどうかと思います。基地から撃っているのではなく、日本海から撃ってきたりするので、まずその名前は考えるべきだろうと思います。

飯田)そうですね。

潮)ただ同時に、反撃能力ということになると、それもまた違うのではないかと。国際法上の議論をすると、「反撃してもよい」という理解にはならないのです。あくまでも仮にそう見える行為をする場合は、2撃目、3撃目を阻止するための自衛権の行使はもちろん許されるのですが、「やられたらやり返す」「倍返しだ」ということは、国際法上では間違った考え方とされています。そのような無用な誤解を招かないように、普通の言葉、例えば「打撃力」などが昔から日本が使ってきた公式な言葉であり、あるいは攻撃力でも構いません。普通の用語でそれが必要なのだという議論を続けていくべきだと思います。

敵基地を含めた情報収集力、その他、課題は山積

飯田)折しも2022年は、戦略3文書とされる「国家安全保障戦略」「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」が変わる予定です。ここの書きぶりも変えていかなければいけないですか?

潮)もちろんそう思いますし、書き方も重要ですが、実際に何を導入するのか、どのような整備をしていくのかについて、いわゆる敵基地を含めた情報収集力や、その他の課題が山積していると思います。

飯田)情報収集の部分でも、日本が対外諜報できるかというと、いまのところそのような手段もない。

潮)同時にそのような問題も、もちろん考えていかなければなりません。何十年も前から言われてきたことが、ようやく多くの国民にも共有されてきたのではないでしょうか。

飯田)ウクライナ情勢が台湾海峡に影響するのではないかという見方があり、世論調査では8割くらいの人が危機感を持っています。いまこそ、もう少しきちんとした議論をしなくてはいけない。

潮)そう思います。

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