スウェーデンとフィンランドのNATO加盟申請が「ウクライナとロシアの和平交渉」にどう影響するか

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アジア・パシフィック・イニシアティブ主任研究員の相良祥之が5月19日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。米ホワイトハウスでのスウェーデン・アンデション首相、フィンランド・ニーニスト大統領の両首脳とバイデン大統領の会談について解説した。

モスクワ近郊ノボオガリョボで、オンラインの安全保障会議に臨むロシアのプーチン大統領(ロシア・モスクワ近郊ノボオガリョボ) AFP=時事 写真提供:時事通信

バイデン大統領、5月19日にスウェーデン・フィンランドの首脳と会談へ

アメリカのバイデン大統領は5月19日、北大西洋条約機構(NATO)への加盟申請を表明した北欧スウェーデンのアンデション首相、フィンランドのニーニスト大統領の両首脳とホワイトハウスで会談する。ホワイトハウスのジャンピエール報道官によると、スウェーデンとフィンランドの加盟申請やヨーロッパの安全保障、ウクライナ支援などについて協議する予定。

飯田)スウェーデンとフィンランドの正式なNATO加盟申請については、日本でもかなり大きく報じられていました。世界的に見ても衝撃は大きいのでしょうか?

相良)スウェーデンとフィンランドは、長く中立の立場を貫いてきて、まさに北欧諸国の中立のブランドであったと思います。中立であるからこそできる外交交渉などがあるのですが、それを押してでも安全保障を強化しなければいけないという、非常に大きな1歩だったと思います。

スウェーデンとフィンランドもNATOの枠組みに ~ウクライナ侵略が裏目に出てしまったロシア

飯田)ロシアによるウクライナ侵略は、NATOの東方拡大を阻止するためだとロシアは言っていたはずですが、結果としては逆になっています。

相良)そうですね。もともとNATOの東方拡大がロシアにとっての脅威だとプーチンさんは言っていて、ウクライナへの侵略にも踏み込んでしまったのですが、結果的にスウェーデンとフィンランドもNATOの集団防衛の枠組みに入ることになりました。プーチンさんの行いが裏目に出てしまっています。戦略的には失敗だと言えるのではないでしょうか。

「北欧諸国の中立」というブランド力を持つスウェーデンとフィンランド

飯田)中立についてですが、相良さんご自身も国際機関や国連にもいらっしゃいました。独特の存在感やブランドがあるのでしょうか?

相良)「北欧諸国の中立」というブランドは強いです。私は国連事務局で紛争解決や和平調停の仕事をしていたのですが、この分野にはスウェーデン人やフィンランド人のプロフェッショナルも多いです。もともと政治家の方や元首相、元外相などの方々が、紛争解決や和平調停の仕事をやっている場合も多いです。

飯田)確かにスウェーデンやフィンランドの都市の名前が付いた和平協定がありますが、イスラエルやパレスチナの辺りでも、そのような名前が出ていますよね。

相良)有名なものだと、「オスロ合意」というものがあります。中東への和平調停もそうですし、アメリカと北朝鮮で米朝協議をやっていたときも、スウェーデンで実務者協議が行われています。そのような形で、スウェーデンやフィンランドの立場でしか成し得ない中立的な役割があります。ロシアも国連安保理ではそれを言って支持していました。しかし、NATOに入って軍事的中立を脱却していくことになると、スウェーデンやフィンランドの和平調停などにロシアが難色を示してくる可能性もあります。

飯田)スウェーデンは北朝鮮の平壌にも大使館があり、西側諸国の利益代表的な形での活動について報じられることがあります。

相良)スウェーデンは、実はアメリカに対しても、そのようなメッセージのやりとりの仲介を一部行っていたと報じられています。中立のブランドを持ち、紛争当事者が話し合うためのプロフェッショナルとして、スウェーデンやフィンランドの立場があります。今回は、そのようなブランドを弱めてでも、自国の安全保障を守らなければいけないという意識で踏み込んだのです。

「この辺りで戦争を止めて手打ちをしたい」と思うタイミングで両国を仲介する

飯田)プロフェッショナルというのは、どのようなところがプロフェッショナルなのでしょうか?

相良)なかなか日本だと難しいのですが、紛争当事者もお互いに紛争を続けていると、「これ以上長くは続けられない」というタイミングが来ます。まさにいまウクライナとロシアで起きているように、軍事的な損耗や兵士、民間人の犠牲が大きく、経済制裁でも痛みが大きくなり、「この辺りで戦争を止めて手打ちをしたい」と思うタイミングがいずれ来るのです。

飯田)手打ちをしたいと。

相良)そのようなタイミングを見極めて、「戦争を止める方向に話し合いをしてみませんか」と仲介することが重要になります。以前、国連のグテーレス事務総長が「マリウポリに人道回廊を開いたらどうか」ということをロシアとウクライナに言っています。あのような場合、実は裏側で北欧の方々がプロとして仕事をしているというところもあります。

飯田)そうなのですね。やはり声をかけるタイミングが重要になってくるのですね。

ウクライナのゼレンスキー大統領(ゲッティ=共同) 写真提供:共同通信社

「誰かが言ってくれれば、喧嘩をやめたい」というタイミングがある

相良)喧嘩をしている間は、なかなか振り上げた拳を下ろせないこともありますが、「誰かが言ってくれれば、喧嘩をやめたい」というタイミングがあるのです。そこに第3者が仲介に入っていくということは非常に重要です。

飯田)誰かが言ってくれれば。

タイミングを見極め、条件など、さまざまなテクニックが必要

相良)そのタイミングを見極め、かつどのような条件であれば両者が折り合えるのか、どこまで両者を妥結させるのかというところで、時間を使って交渉させるなど、いろいろなテクニックがあります。

飯田)テクニックが。

相良)私がいた国連事務局は、まさにそのような専門家がたくさんいました。ただ、政治的に動かすことが最後は重要になります。スウェーデンやフィンランドの元大統領や元外相が、最後にサインさせるというように動いていたことは、ロシアが今後、難色を示してくるリスクがあるかも知れません。

飯田)積み上げのところで条件をどうするのかについては、プロ同士で行ったりするけれども、最後は交渉力が重要になってくる。「お前はアメリカの味方なのだろう」となってしまうと、上手くいかないところがあるのでしょうか?

相良)そうですね。中立というのは実は非常に難しくて、立場を取らないということではなく、両者のなかでバランスを見極めながらも、「我々は紛争を解決するためにこのような立場を取るのだ」という明確な意思表明をしなければなりません。そうなったときに、「そうは言っても西側の意見なのではないか」と言われると、交渉しにくいところはあります。

スウェーデンとフィンランドの加盟申請による調停能力の減少

飯田)今回のスウェーデンやフィンランドの加盟申請は、ロシアのウクライナへの侵略が背中を押した側面はありますが、全体で見ると、調停能力やキャパシティが少し減るかも知れない可能性はありますか?

相良)プロフェッショナルはたくさんいます。それこそ昔のユーゴスラビアやシリアなど、国連事務局ではたくさんの調停をしたのですが、最後はどうしても安保理では大国間の競争について合意できず、戦争が続いてしまうということを繰り返してきました。

飯田)なるほど。

相良)それでも、苦しくても実務家として落としどころを見つけられる、代替策を見つけられるようなプロは、かなり蓄積されています。ただ、トランプ政権以降、国連を支持していこうという動きが少し弱まって、さらに中国が国連をうまく使うというような動きも出てきています。そのような動きがあるなかで、いかに中立な立場をブランドとして使っていくかというところに、今後は少し影響が出てくる可能性はあります。

ウクライナとロシアの今後の和平交渉

飯田)考えてみれば、北朝鮮相手に有識者も含めて行われた1.5トラック会合は、スイスなど、中立の国で行われた例がありましたよね。

相良)そうですね。特にスウェーデンなどで、1.5トラック会合の形で大学の先生やシンクタンクの方々などが集まり、そこにシンクタンクの研究者や大学の研究者という名前を付けた北朝鮮の人も来たりはしていました。スウェーデンやフィンランドには独特な強みがあり、そのようなものをどう国の力につなげていくかというところで、これまでも元大統領や元首相が和平調停に直接乗り出すこともありました。政治的なところを、ロシアが今後どのように見てくるのかという懸念が1つあります。

飯田)ウクライナの今後の停戦についても、いろいろと変数が変わってくるかも知れない。

相良)間に入って話をするだけではなく、場所を提供することも重要です。空気や森も綺麗なスウェーデン、フィンランドで和平交渉をしてもらうなど、場所を提供することも本当はできるのですが、NATOに加わることで、そこにも影響が出てくるかも知れません。

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