外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が5月20日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。トルコがフィンランドとスウェーデンのNATO加盟に反対する理由について解説した。
バイデン大統領、北欧2ヵ国の首脳と会談
アメリカのバイデン大統領は5月19日、スウェーデンのアンデション首相、フィンランドのニーニスト大統領とホワイトハウスで会談した。欧米の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を両国が18日に申請したことを歓迎した。
プーチン大統領の判断ミスから
飯田)フィンランド、スウェーデンが正式にNATO加盟申請を行いました。当然ながら、ウクライナ情勢をにらんだ動きです。
宮家)「スウェーデン、お前もか」というところですよね。ロシアの侵略が始まった当初、2月25日の放送のときに、「プーチン大統領は戦略的な判断ミスをした」と申し上げました。なぜそれを言ったかというと、その日の2~3週間前にフィンランドのシンクタンクの人と、たまたまウェビナー(ウェブ・セミナー)で話す機会があったのです。その際、その人が「自分たちはNATOに入るから」と言っていたのですよ。
飯田)ことが起こった場合には。
宮家)「スウェーデンもですか?」と聞いたら、「きっとね」と言っていました。もしロシアが何かやったら、あの辺りがドミノ式にグレーから白くなってしまう。「ということは、大失敗になるな」と思ったのですが、当時は半信半疑でした。けれども、これだけ早く動いたということは、いかにプーチン大統領の判断が間違っていたかということでしょうね。
トルコが反対する理由
宮家)ただ今回、トルコという、きちんと文句を言う国がいるわけです。
飯田)トルコが。
宮家)トルコは面白い国で、我々はトルコを中東の国だと思っているでしょう。でも、トルコ人はそうは思っておらず、自分たちはヨーロッパ人だと思っているわけです。それには理由があるのだけれども。
飯田)ヨーロッパ人だと。
宮家)しかし、NATOには入るけれども、EUには入れないわけです。それは、おそらくイスラムだからなのだけれど、誰も口が裂けても言わない。
飯田)その理由は。
宮家)しかも最近のトルコは、エルドアン大統領が強力な長期政権を維持している。当然、国内の引き締めも厳しいから、クルド労働者党(PKK)を掃討しようとしています。
飯田)そうですね。
宮家)それは、ヨーロッパから見ると人権問題になるわけです。北欧の国々は、そういうところがすごく優しい。トルコ国内ではテロリストと言われているクルド労働者党(PKK)ですが、逃げてくると保護する。エルドアンさんからすれば、「フィンランドとスウェーデンは悪党を支援している」ということになるので、文句を言いたいわけです。
アメリカ含め、フィンランドとスウェーデンが「どれだけトルコに譲歩するか」がポイント
宮家)しかし、この2ヵ国がNATOに入るためには、加盟30ヵ国すべてがOKしなければいけないのだけれど、ロシアがウクライナに対して行っていることを考えれば、入れるのは当たり前でしょう。「NO」などと言う国はありません。さすがのエルドアンさんも、それはわかっていると思います。
飯田)そこは。
宮家)しかし、ここですぐに「YES」と言ってしまったら、取れるものも取れないではないですか。フィンランドとスウェーデンだけではなく、EU全体に向かって「なめるなよ」と。「自分たちもその気になれば止められるのだぞ、だったら少し考えてくれ。EUに入れろとは言わないけれど、せめてクルド労働者党の連中には厳しくしてくれ」と言いたいのです。アメリカも、フィンランドやスウェーデンと似たようなことをやっているわけです。「反体制の人間たちをかくまっている」とトルコは思っているのでしょう。
飯田)アメリカも。
宮家)そういう意味では、NATOの内政問題も絡んだなかでトルコが駄々をこねている。ですから、時間の問題だと思います。フィンランド、スウェーデン、アメリカも含めて、「どれだけ譲歩するのか」ということがポイントになると思います。
飯田)トルコがアメリカからステルス戦闘機「F35」を入れようとしたときに、アメリカは「ロシアから武器を買っているのであれば渡さない」と、トルコへの引き渡しを中止したということもありました。
宮家)ロシアから地対空ミサイルシステムを買っている。その対応を先にやれよと、文句を言いたい人たちもいるのです。でも、そんなことを言っていたら、スウェーデンとフィンランドがいつまでたっても入れないではないですか。そこは大人の対応をしていくだろうけれども、若干時間がかかるでしょう。最初から「YES」と言うわけにはいかないので、まずは「NO」と言って、「ではどうするか」というようなプロセスがこれから始まるのだと思います。
ロシアに近いハンガリーはなぜ黙っているのか
飯田)NATO加盟国は30ヵ国もあります。足並みを考えると、ロシアに近いとされているハンガリーなどはどうなりますか?
宮家)本来ならハンガリーも黙っていないはずですが、静かにしているのは、ある程度、その問題については決着がついているのか。それとも、いまは静かにしているけれど、トルコの話が終わったら「ちょっと待ってくれ、自分たちにも主張があるんだ」と言う可能性もあります。どうでしょうか。
飯田)あとから。
宮家)今回のことは、すべてわかった上でみんなゲームをやっているはずです。混乱させるのはいいことではないので、おそらく手は打っていると思います。
プーチン大統領の最大の判断ミス
宮家)私が気になるのは、NATOが拡大していくのはいいのだけれども、これでロシアがどういう対応を取るのかということです。
飯田)ロシアの反応ですね。
宮家)ロシアの戦争目的は、あわよくばキーウを占領して傀儡政権にするということでした。そもそも国を認めていないわけですからね。しかしダメだったので、東部に専念しようとしたけれども、案の定、うまくいっていません。
飯田)そうですね。
宮家)5月9日の戦勝記念日に勝利宣言をしようと思っていたけれど、できなかった。いまの状況としては、ウクライナはマリウポリの製鉄所から戦闘員を出すでしょう。それでマリウポリは完全に落ちます。そこが勝利宣言を行うチャンスです。これ以上長引いたら、今度は逆に攻め込まれてしまい、勝ちもなくなってしまったら困るでしょう。
飯田)長引けば。
宮家)そうすると、おそらく東部ドンバスを獲って勝利宣言する。そして、この地域はロシアに編入する。当然、母なるロシアの領土ですから、核を使ってでも守る……という形になると、事実上、ここに線ができるわけです。クリミアのときにもできましたけれど。
飯田)ウクライナとの。
宮家)そうすると何が起こるかと言えば、反対側のウクライナは、限りなくNATOに近くなるのです。しかも、支援はほとんど無制限です。NATOの普通のメンバーよりもいいではないですか。
飯田)確かに。
宮家)そうなれば、あそこが事実上の新しい境界線になるのです。ウクライナ人のなかでも、「自分たちはロシアと一体で兄弟だ」と思っている人たちは多かったはずなのです。特別な関係だったのだけれども、プーチンさんが攻め入るから、「ウクライナ」という独立した民族国家ができてしまった。プーチンさんがあんなことをしなければ、特別な関係で、ウクライナは中途半端な状況だったかも知れないけれど、国民国家としてウクライナができてしまった。これはプーチンさんの素晴らしい偉業ですよ。そしてゼレンスキーさんの素晴らしい偉業です。
飯田)なるほど。
宮家)境界線ができてしまい、そしてロシアはあきらめない。ということは、今後もずっと事態は燻ぶるということです。当分、この問題は続くと思います。
番組情報
忙しい現代人の朝に最適な情報をお送りするニュース情報番組。多彩なコメンテーターと朝から熱いディスカッション!ニュースに対するあなたのご意見(リスナーズオピニオン)をお待ちしています。