筑波大学教授の東野篤子氏が6月23日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ウクライナのEU加盟候補国の地位承認について語った。
EU閣僚会議「ウクライナ加盟候補国入り」に全会一致
ヨーロッパ連合(EU)は6月21日、欧州問題担当相会議を開き、ロシアの侵攻を受けるウクライナに対し、加盟候補国としての地位を付与する方針で「全会一致」した。
飯田)ウクライナに対し、EU加盟候補国としての地位を付与する方針で全会一致したということですが、ここまでの流れも含めて、どうご覧になっていますか?
東野)閣僚理事会で、ウクライナに対して全会一致で加盟候補国の地位を承認することが決まりましたが、こうなると、23日~24日の2日間に渡って開催される欧州理事会……EUのサミットにあたるものですが、こちらでも加盟候補国の地位が承認されることは、ほぼ確実な情勢となっています。
ここまで早く加盟候補国の地位が承認されたのはEUの歴史上初めて ~ウクライナへの応援のメッセージ
東野)ここまで速いスピードで加盟候補国の地位が承認されたのは、EU拡大の歴史で初めてのことです。
飯田)初めて。
東野)しかも、ウクライナの現状を見ますと、戦争している国です。戦争をしていて、まだ改革も達成されたとは言えない状況でのスピード承認です。これは戦争中のウクライナに対するモラルサポート、「頑張って欲しい」という強いメッセージの表れです。
飯田)なるほど。
東野)ただ、ここから加盟までは大変なプロセスが待っています。ウクライナにとっても、EUにとっても、多くの課題が残されています。
加盟までのプロセスとして残るさまざまな宿題 ~戦争中の国に対して加盟候補国の認定を行うのは歴史上初めて
飯田)加盟に向けて今後、どのように対応しなければならないのでしょうか?
東野)23日~24日の首脳会議では、たくさんの宿題が出る可能性があります。ウクライナに関しては民主的な機構を改革して欲しい。法の支配をしっかり確立して欲しい。また、ウクライナ国内には、ハンガリー系やロシア語を話す人たちなど、さまざまな少数民族が存在しますが、少数民族の保護の問題も大事になります。
飯田)宿題として。
東野)EUとしても、ウクライナという戦争中の国について加盟交渉するのは、歴史上初めてなのです。いままでの加盟交渉は、すべて政治的にも経済的にも、完全に落ち着いた状態にある国に対してのものでした。
飯田)これまでの加盟交渉は。
東野)ところが今回、戦争している国に対して加盟候補国の認定を行うことになりましたので、EUとしても現在進行形で戦争中の国との間で、どのように拡大のプロセスを進めていくのか、すべて手探りなのです。
加盟候補国承認に反対の立場であったオランダなどと、2国間で事前に電話協議を重ねたゼレンスキー大統領
飯田)そのプロセスのなかには、出口戦略をどうするかということまで入ってくるのですか?
東野)戦争の出口戦略とはまったく異なるところで進めることになります。これがまた難しい問題です。
神奈川大学法学部教授・大庭三枝)EUには多くの加盟国がありますので、ウクライナに対する対応についても、温度差があるのではないかと思います。今回の加盟候補国に承認されたプロセスにおいて、加盟国間での意見の不一致や躊躇う国、逆に積極的に進めた方がいいと考える国など、それぞれの色分けはできるものなのでしょうか?
東野)もともとウクライナとEUは「連合協定」という、加盟とは関係ないのですが、ウクライナとEUの関係強化に関する協定がありました。この協定1つ取っても、加盟国のなかで意見が分かれていたのです。
飯田)連合協定においても。
東野)「進めるべきだ」という立場のポーランドやバルト諸国がある一方で、「あまり改革が進んでいない国と関係を強化するのはどうなのか」というオランダやデンマークのような国など、戦争前まではEU加盟国内でも意見は分かれていました。
飯田)そうなのですね。
東野)ところが今回、ゼレンスキー大統領の、特に電話による働きかけがあり、それが功を奏した部分があります。反対しそうな国々と事前に電話協議を重ねて、「加盟候補国の地位を与えて欲しい」と訴え、反対を取り除いていくという戦略に出たのです。
飯田)ゼレンスキー大統領が。
東野)もともとウクライナに対しては厳しめな立場を取りがちなオランダやデンマーク、フランスなどの国々と、「加盟候補国の地位を承認して欲しい」と2国間での調整を行い、事前に障害を取り除いたのです。
飯田)2国間での調整をして。
東野)これがある程度、功を奏したと考えられています。欧州理事会が始まる前の段階で、ほとんどの加盟国が「ウクライナの加盟候補国入りを承認する」と表明していたのです。その結果、事前に想定されていた加盟国間の違いが最大限に払拭された形で、今回のEUサミットを迎える形になりました。
最初から加盟国の地位を与えることに協力的だったドイツ
大庭)ドイツにもゼレンスキー大統領は電話交渉を仕掛けたのでしょうか?
東野)ドイツとも加盟候補国の地位については、しっかりと調整していたようです。ドイツに関しては、「武器供与が遅いのではないか、決定してもなかなか成されないのではないか」という報道があり、もしかしたらドイツはウクライナ情勢に対して後ろ向きではないかと思われていたかも知れません。しかし、EU加盟候補国の地位を与えることについては、ドイツは最初から積極的でした。
飯田)加盟候補国の地位を与えることに関しては。
東野)ウクライナをめぐる問題1つを取っても、加盟候補国の地位を与える問題、武器供与の問題、戦争の終わらせ方の問題など、いろいろな立場があります。加盟候補国の地位に限定して言うと、ドイツは最初から協力的だったということが言えると思います。
NATO非加盟国である日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドのNATO首脳会議への参加 ~ロシアへの大きなメッセージに
飯田)岸田総理はG7サミットや、NATO首脳会議に出席します。ウクライナの話が当然ながら中心になると思いますが、日本としての関わり方についてはどのようなことが考えられますか?
東野)NATO首脳会議については、日本の総理が初めて参加することになります。多くのポイントがあるのですが、日本だけに限定すると、2点あると思います。
飯田)2点。
東野)今回の首脳会議には、日本以外に韓国、オーストラリア、ニュージーランドというNATO非加盟国の4ヵ国が参加します。NATO首脳会議の場を借りて、この4ヵ国がウクライナをめぐって協議することになりました。これは非常に大きなメッセージなのです。なぜなら、ロシアはウクライナとの戦争を「NATO対ロシア」という図式に持っていきがちなのですが、実はそうではない。日本や韓国、オーストラリア、ニュージーランドのような非加盟国もNATOと一緒になって、戦争を止めるためにNATO側に立って協力しているのだと。こういった強いメッセージを、ロシアに対して送ることができるのは大きいです。
中国との関係性について、大きな発言権を持つ日本
東野)もう1つ大きなポイントは、直接、日本に大きな発言権があるわけではないのですが、NATO首脳会議では戦略概念を新しくすることを担っており、そのなかで中国に対してしっかりと言及されることになっています。日本はNATOの戦略概念をつくる立場ではありませんが、東アジアの重要な国として、中国の立ち位置やあり方、付き合い方などに重要なインプットを行うことができるのです。
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