東京大学先端科学技術研究センター特任講師の井形彬が7月28日、ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」に出演。学術会議が軍事転用可能なデュアルユースの先端技術について、二分することは困難と示した文書について解説した。
軍事転用可能なデュアルユースの先端科学技術研究の区別は困難 ~日本学術会議が見解を示す
国内の科学者の代表機関である日本学術会議は、軍事と民生双方で活用できる「デュアルユース」の先端科学技術研究について、軍事に無関係な研究と「単純に二分することはもはや困難」とし、事実上容認する見解を示した。大学などに情報公開やリスク管理など、対策をまとめるよう求めている。
新行)学術会議は軍事目的の研究には一貫して反対する立場でしたけれども、安全保障に絡む研究の推進が重要視されているなかで、踏み込んだ考え方を示した形になりました。
井形)個人的には、「やっとここまできたか」というのが本音です。私が東大に移ったのは6月なのですが、最初のガイダンスで言われたのが、「研究費を取ってくるときは東大は国立大学ですので、諸々の歴史を考えると軍事研究に関するものはやらないでください」ということでした。
新行)軍事研究はダメですよと、最初に言われるのですね。
民間用に開発された先端技術も軍事利用できる ~それを分けることは難しい
井形)ただ、先ほどの紹介にもあった通り、いまの先端技術と呼ばれているものは、民間用に使えるものでもほとんどが軍事的に使えてしまうのです。
新行)軍事的にも使えてしまう。
井形)例えば、研究開発が進んでいるところで、BCI(ブレイン・コンピュータ・インターフェイス)というものがあります。これは脳とコンピュータをつなげようというプロジェクトです。事故で手や腕がなくなってしまった人にロボットアームをつける。さらに、脳波からの電気信号を読み取って、ロボットアームを思った通りに動かせるようにする。
新行)脳からの電気信号で。
井形)民間の技術として素晴らしいものなのですが、この技術をどう軍事的に使えるかということを書いている、アメリカの研究所のレポートもあります。
新行)軍事的に。
井形)脳とコンピュータをつなげて、戦場でドローンを自由に動かせるようにする。しかもドローンが取ってきた情報をAIで分析し、即時に作戦に活かすというものです。AIもドローンも、脳コンピュータインターフェイスも、すべて民間のためにつくっている技術なのだけれども、軍事的に使えるのです。そこはもう分けられません。
経済安全保障推進法が成立した影響も
井形)そんななかで先日、「日本の経済安保に重要な先端技術に対しては、国がお金を入れていきましょう」という「経済安全保障推進法」が通りました。
新行)経済安全保障推進法が。
井形)お金を入れる際に「軍事的に使えてしまうからダメだ」ということを言い始めると、先端技術の研究ができなくなるという懸念が出ていたのです。しかし、この法律が通って、これから補助金を先端技術に入れていくとなると、デュアルユースに関して「単純に二分することはもはや困難」という見解を示したのは自然な流れかなと思います。
安全保障貿易管理 ~大学での機微技術の管理を推進するためのガイダンスを作成
新行)安全保障への対策について、日本の状況はいかがでしょうか?
井形)最近は対策を強めています。大学でも先端技術の研究が行われてはいるのですけれども、ここで研究された内容が、産業スパイのような形で他国に持っていかれるような懸念があり、経産省と文科省が連携してガイダンスを大学につくっています。
新行)ガイダンスを。
井形)安全保障貿易管理と言うこともありますが、「あなたは自分の研究室にいる人のバックグラウンドをチェックしていますか?」、また「卒業するときにデータを全部持ち帰っていないかチェックしていますか?」、「注意喚起していますか?」という内容のものをつくっています。
あらゆる先端技術は軍事利用できてしまう ~今後は安全保障管理が必要
新行)今回、学術会議が「単純に二分することはできない」という見解を示したことで、どのような分野に広がっていく可能性がありますか?
井形)先ほど言ったような、さまざまな先端技術です。AIや量子、バイオ関係でもいろいろとあると思います。3Dプリンティングなど、ありとあらゆる先端技術は軍事的に使おうと思えば……悪いように使おうと思えば使えてしまうのです。
新行)あらゆる先端技術が。
井形)ですので、基本的には先端的な科学技術を研究する場合、すべて軍事的に適用できるということで、今後は技術管理、安全保障管理をしていかなければならない時代になってきているのです。
新行)安全保障管理をしなければならない。
井形)大学も企業も、日本が一体として「これがニューノーマルなのだ」という認識の上で、対策を進めていかなければならないと思います。
新行)いままでは研究者の方々にとっても、こういう縛りは影響があったわけですよね。
井形)外部資金を取ってくる、また海外と一緒に共同研究をしようというときに、「すみません。うちは軍事研究ができないので」ということで、機会が失われてしまったこともありました。
宇宙分野においてのデュアルユース ~戦後、日本の宇宙開発は「平和利用のものだけ」という縛りがあった
新行)デュアルユースに関して、宇宙分野についても重要だということですが。
井形)日本は戦後、基本的に「宇宙研究は完全に平和利用のものしか行ってはいけない」という縛りがあったのです。日本以外の軍は、人工衛星で高精度のものを飛ばしたり、自分たちで所有し、常に他国で何をやっているのかということを分析しているのです。
新行)日本以外の軍では。
井形)しかし、日本の場合は人工衛星でスパイ活動のような行いをするのは、軍事的だからダメだと。平和利用の目的ではないからダメだということになっていたのです。
新行)平和利用の目的ではないから。
井形)日本の防衛省は、以前は民間企業の人工衛星から画像を買い、その画像から他国の動向などを分析していました。しかし、民間が持っているようなものなので画像が粗いのです。
新行)なるほど。
井形)アメリカのインテリジェンス機関の人と話したりすると、日本を馬鹿にしていて、「日本のインテリジェンス機関の人は能力が高い。ものすごく粗い画像から、何があるのかという重要な情報を抜き出す技術に長けていて、すごいな」と。「我々はもっと綺麗な画像を見るだけでいいけれどね」と言って笑っていたのです。
宇宙基本法の成立により、軍事利用も許される方向に ~学術会議の見解が出たことで他国との宇宙開発も協力しやすくなる
井形)しかし、「宇宙基本法」が通り、平和目的という解釈があまりにも広すぎないかということで、防衛省も自分たちで人工衛星を持ち、運用することも許されるようになりました。JAXAでももう少し軍事的な側面が強い宇宙関係の開発もやっていいという方向に、少しずつ変わってきていたのです。
新行)宇宙基本法によって。
井形)そして今回、デュアルユースに関しての学術会議の見解が出たということで、宇宙関連の協力についても他国と進めやすくなるのではないかと思います。
新行)ロシアによるウクライナ侵攻で、アメリカが情勢を上から見ていて、その情報をウクライナに提供しています。
井形)アメリカ軍がどのくらい高性能な衛星を持っているのか、もちろんわからないのですが、トランプさんが大統領だったときに、中東について「こんな衛星写真があるよ」とツイートしてしまったことがありました。その画像がものすごく高画質で、みんな驚いたのです。鮮明にすべてが写っていました。ですので、アメリカはだいぶ情報を持っていると思います。
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