ウクライナ軍によるヘルソン奪還作戦 失敗すれば主力野戦軍が壊滅する可能性も

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数量政策学者の高橋洋一と、東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠が8月31日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ヘルソン州で反攻作戦を発動したウクライナ軍について解説した。

ウクライナ軍によるヘルソン奪還作戦 失敗すれば主力野戦軍が壊滅する可能性も

【ロ軍に備えるウクライナ兵 南部州編入要請に猛反発】ウクライナ南部ヘルソン州の北方で、ロシア軍の侵攻に備えるウクライナ軍の戦車 2022年5月9日(ゲッティ=共同) 写真提供:共同通信社

ウクライナがヘルソン奪還へ

ロシアによるウクライナ侵攻で、ウクライナ軍は8月30日、奪還作戦を本格化させたヘルソン州など南部で220回以上の砲撃を行い、T72戦車5両など露軍の装備60ユニットを破壊したと発表した。

うまくいけばウクライナ側が初めてこの戦争でロシア側に大きく反撃できる契機となるが、失敗すればウクライナ軍が最後に隠し持っていた主力野戦軍が壊滅する可能性も

飯田)ウクライナとしては、クリミアを含めて南部もすべて奪還しようということです。そしてヘルソン奪還を目指す。いろいろな情報が錯綜していて、「前線突破か」というような報道も出てきていますが、いかがですか?

小泉)日本時間の昨日(30日)深夜くらいに、ウクライナ軍が南部のヘルソン側で反攻作戦を発動したようです。わかっている限りだと、ヘルソン周辺に5方向くらい攻撃軸をつくって反攻をかけたようですが、いまのところうまくいっている攻撃軸は、そのうち1本だけのようです。

飯田)1本だけ。

小泉)他の軸が陽動や偵察だったのか、もしくは反攻をかけたもののロシア軍の守りを突破できずに撃退されたのかは、まだよくわかりません。

飯田)他の軸の現状はわからない。

小泉)うまくいった攻撃軸についても、どれくらいロシアの支配領域に届いているのか、本当にヘルソン市を獲り返すことができそうなのかは、まったくわかりません。うまくいけば、ウクライナ側が初めて今回の戦争でロシア側に大きく反撃できる契機ではあるため、注目なのですが、うまくいかなかった場合は……。

飯田)これがうまくいかなかったときは。

小泉)おそらく、ウクライナ軍が最後に隠し持っている主力野戦軍が壊滅することにもなりかねません。その意味でも作戦がうまくいくかどうかは、今後の戦争の趨勢に影響すると思います。ロシアウォッチャーも軍事ウォッチャーも、今回のヘルソンでの動きには注目しています。

市民のSNS画像から戦車部隊の陣地や歩兵部隊の位置が特定されてしまう

飯田)ウクライナ軍当局なども「本当に大事な戦いだから、情報などをむやみに出さないように」と。「SNSでも拡散しないようみんなに言って欲しい」と呼びかけています。

小泉)地上で戦っているということは、人間が暮らしている場所で戦っているわけです。しかも今回は、ヘルソンという大都市を獲りにいくのです。ヘルソンもそれほど大きくはないのですけれども、周りには小さな地方都市があります。

飯田)ヘルソン周辺には。

小泉)そこを獲りにいくときに、一般人がスマホで画像を撮ろうと思えば撮れてしまいます。ジオロケーションと呼ばれるのですが、現在だと映っている場所がどこなのか特定するのは、「ベリングキャット」のような民間団体でもできてしまいます。ましてやロシアの参謀本部であれば、さらに組織的に調べられるのです。「ここに戦車部隊の陣地があるらしい」とか、「歩兵部隊はこの倉庫に隠れているらしい」というようなことがわかってしまいかねない。だから情報を出さないでくれと言っているのです。

飯田)その場所が特定されてしまう。

小泉)逆にウクライナ軍も、アメリカから「ハイマース」というロケット砲を供与されていますけれど、あれは事実上、超小型ミサイル発射機なのです。座標を精密に決めて当てることが得意であり、ロシア兵や現地住民があげたSNS画像で特定して、ここに旅団司令部があるらしいから叩く、というようなやり方で対応しています。市民の情報発信が戦況に影響してしまうという点でも、独特な戦争をやっているなという感じがします。

第二次世界大戦でも市民の目や市民の情報が一種の武器だった

飯田)情報戦というと、「サイバー領域内で戦う」というようなイメージがありましたが。

高橋)みんなスマホを持っているから、イメージではなく、リアルなのでしょうね。スマホを持っているだけで位置がわかるわけです。昔であれば情報活動で得ていたものが、いまはスマホのなかでできてしまうということなのでしょうね。

飯田)いままでであれば、人を送り込んで情報を得ていたけれど、その必要がなくなるということですか?

小泉)市民が何でもかんでも見せてくれるわけではないですから、ロシア軍もウクライナ軍も、おそらくアメリカ軍も、必ず戦線後方に特殊部隊を送り込んで情報収集活動はしていると思います。

飯田)戦線後方に。

小泉)お互い衛星を飛ばし合って衛星からデータを取っています。フライトレーダーを見ていると、アメリカやイギリスの電子偵察機が黒海沖合の方に出てきています。見えなくても電波を取って「こんな電波が出ている」、「この電波はこの辺りから出ている」というようなデータも取っているはずです。

飯田)電子偵察機で。

小泉)10年くらい前に私がモスクワに住んでいたときは、長距離列車などに乗っているとモニターが付いていて、列車の安全のお知らせのようなビデオが流れていました。「線路に入ったら危ない」というような普通のお知らせだけではなく、「線路に爆弾を仕掛けている人がいたら、すぐに通報して下さい」というものもありました。つまり「破壊工作員を見たらすぐに知らせてください」というお知らせがあったのです。

飯田)そうなのですね。

小泉)やはり第二次世界大戦中は、一般的なソ連市民がドイツの鉄道を爆破するとか、ドイツ軍の陣地の場所を伝えるというような活動を行い、ドイツと戦って勝ったという意識があるのです。

飯田)第二次世界大戦で。

小泉)大陸で人が住んでいるところに軍隊が入って戦うときは、市民の目や市民からの情報が一種の武器になるので、決して新しいことではないのです。それがスマホというテクノロジーで拡散力を持ったことが新しいのだと思います。

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