防衛大学出身で笹川平和財団上席研究員の小原凡司氏が10月12日、ニッポン放送「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」に出演。中国が将来的に軍事力を行使して台湾統一に動くかどうかについて、辛坊と対談した。
辛坊)私見なのですが、中国の習近平国家主席(中国共産党総書記)のレガシー(遺産)というようなものが仮にあるとするならば、一国二制度の香港を中国共産党の完全な支配下に置いたというのは1つの成果なのでしょうか。
小原)習国家主席は成果として挙げたいと思っているでしょう。しかし、他の中国の人たちにとっては、香港はもともと中国に返還されていましたから、香港の体制がどう変わったかということはあまり大きな意味を持たないです。領土の統一には含まれませんからね。ということは、領土の統一で最もシンボリックなのは台湾ということになります。
辛坊)香港では不十分だとすると、習国家主席がレガシーをつくりたいと本気で思ったときに、最も分かりやすいのは台湾ということですね。だとすれば、今、一国二制度どころか、完全に西側の一角に組み込まれている台湾について、習国家主席は自分の任期中に中国共産党の支配下に置きたいでしょう。ロシアのプーチン大統領が自国の領土を拡大するためにウクライナへ侵略するくらいですからね。
国際的な枠組みの中でいうと、台湾は中国の一部ということになっています。そうすると、そこへ侵攻するほうが、ロシアのウクライナ侵攻よりはるかにハードルが低いと思うのですが、いかがですか。
小原)台湾が中国の一部だと認識されているわけではなく、中国のそうした主張を認識しているということですね。ですから、台湾については「未承認国家だ」と言う人もいるくらいで、「承認はされていないけれども、国家として扱うべきだ」と言う人もいるんです。ただ、中国は「台湾は中国の一部だ」と言っているわけですから、中国にとっては国内問題だということになります。つまり、他国に対する軍事侵攻ではないということです。ですから、「治安問題だ」と主張するはずです。
習国家主席は既に、「祖国の統一は中華民族の偉大な復興の必然の要求である」と宣言しており、「少なくとも2049年までには台湾を統一する」と言っているんですね。10月16日に開幕する第20回中国共産党大会で党規約の改正が行われますが、党大会で発表される党規約の中で台湾がどのように表記されるかが注目されます。今までは「祖国の統一」という形でした。党規約以外でも「平和統一を追求する」としてきました。その表現が変わるのではないかと危惧されています。
辛坊)「平和統一」の「平和」の2文字がなくなる可能性があるということですね。一方、最近の世論調査を見ると、台湾の人は台湾人としてのアイデンティティーがものすごく高まっていていることが分かります。そうであれば、「1つの独立国になろう」という思いを台湾人は皆、持っているわけですよね。
小原)皆かどうかは別として、特に台湾で生まれ台湾で育った若い人たちは、「台湾はもともと中華人民共和国と1つだ」という意識など持っていません。そうした人たちは「生まれたときから、もともと独立している」と考えていますから、わざわざ「独立だ」と言う必要もないんです。要するに、何かから独立するという意識がなんですね。
ですから、「台湾という名称にしたい。中華民国でなくていい」とも考えています。そうした人たちが増えているのは確かだと思います。台湾の与党、民進党も「独立だ」と言うと、そうした若い人たちからの支持が得られないため、「独立」という言葉をわざわざ使わず、「実質的に台湾は台湾だ」という姿勢でいるんだと思いますね。
辛坊)将来的に「台湾人の総意として1つの国になりたい」となったときに、世界が独立を承認し、国として認めるという可能性はあるのでしょうか。
小原)独立するかどうかは、国際法上も台湾の人たちが決めることなんですね。台湾で独立を決める住民投票も憲法を改正しないといけないため、非常にハードルが高いと思います。
辛坊)そうなると台湾の人は皆、「現状を持続させるのが最も現実的だ」と思っているということでしょうか。
小原)そうですね。民主主義的な政治体制があって、外交もしっかりと行え、軍隊を持って地域の防衛も行える。それを「国」と言う人もいますけれども、そうした位置づけで皆、付き合っていくのではないでしょうか。
辛坊)習国家主席が在任中に中国共産党の支配下に力づくで取り込もうとするような動きはあるのでしょうか。
小原)あると思います。習国家主席がわざわざ2027年に人民解放軍の建軍100年の奮闘目標を掲げたのは、「軍にもっと力をつけろ」と言っていることを示しています。この奮闘目標は、「台湾を統一するだけの軍事力をつけろ」という意味でもあります。その意味では、「力づくで」ということは考えられます。
そもそも、「平和統一」と言っていますが、この「平和統一」の意味は私たちが考える平和とは違いますよ。中国では「軍事的な圧力をかけ、台湾の人々を屈服させて平和統一に導く」といったような言い方もあります。それは、私たちにとってみたら全く平和ではないですよね。私たちにとっては平和的手段ではないんですが、中国にとっては「着上陸作戦を行って軍事的に占領するのでなければ、平和的手段だ」ということです。
番組情報
辛坊治郎さんが政治・経済・文化・社会・芸能まで、きょう一日のニュースの中から独自の視点でズームし、いま一番気になる話題を忖度なく語るニュース解説番組です。
[アシスタント]増山さやかアナウンサー(月曜日~木曜日)、飯田浩司アナウンサー(木曜日のみ)