国家安全保障戦略の改定が「なぜ必要なのか」を明確にするべき 前統合幕僚長と国際政治学者が指摘

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前統合幕僚長の河野克俊、慶應義塾大学教授で国際政治学者の細谷雄一が10月21日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。年末までに改定される「国家安全保障戦略」について解説した。

国家安全保障戦略の改定が「なぜ必要なのか」を明確にするべき 前統合幕僚長と国際政治学者が指摘

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

国家安全保障戦略の改定へ ~国民にわかりやすく具体的な国家安全保障戦略を打ち出すべき

自民・公明両党は10月19日、実務者による協議の初会合を開き、政府が年末までに改定する外交・防衛の基本方針「国家安全保障戦略」について意見を交わした。自民党は中国を安全保障上の重大な脅威であることを明確にすべきだとしているが、公明党は表現の見直しについて慎重な姿勢を示しており、今後は中国の位置付けも焦点となる見通し。

飯田)いまの状況を考えると、中国の位置付けがポイントになってくるところですが、なかなかここの議論が聞こえてきませんでした。河野さんは現場でご覧になっていて、どのようにお考えでしょうか?

河野)国家安全保障戦略を改定するということは、いま日本が置かれている安全保障環境が非常に厳しくなって、変えざるを得なくなった。最大のポイントとなるのは、台湾海峡をめぐる緊迫度が増しているということです。

飯田)台湾海峡の緊迫度が。

河野)それを「どう捉えるのか」ということで、国の意思を内外に示すわけですから、オブラートに包んだような表現ではなく、明確に中国の脅威を捉えることが必要です。国民に対してわかりやすく、「日本はこのような方向性の防衛力の整備をするべきだ」という国家安全保障戦略を打ち出していただきたいと思います。

この10年で中国に対する国際社会の認識が変わった ~その変化を「強調するかしないか」で文章の性質が変わる

飯田)細谷さんはいかがでしょうか?

細谷)私は2013年の安倍政権の際、「安全保障と防衛力に関する懇談会(安防懇)」の有識者委員として、末席で策定に加わらせていただきました。

飯田)策定に。

細谷)約10年前のアメリカはオバマ政権でしたが、実は安倍政権の日本が国際社会のなかで、ある意味では「最も中国に対して強硬」と見られていたのです。アメリカは米中で協力し、EUも経済的に中国依存が強まっていました。

飯田)10年前は。

細谷)いま10年ほど経って見てみると、アメリカとヨーロッパと日本のなかで、最も日本が中国に対してソフトという印象です。国際社会のなかで中国の認識が「ガラッ」と変わりました。インドでも大きく変わりました。

飯田)そうですね。

細谷)日本のなかで、この10年における変化を強調している人と、変化をあまり見ない人とで、かなり中国への認識が分裂していると思います。分裂の結果として、政府内の「どちら側の力学が強いのか」によって、文章の性質が変わってくるのではないかと思います。

以前の国家安全保障戦略との違いを国民に対して明確にするべき

飯田)国際社会は「より中国に対して強硬になってきている」というところを盛り込まないことには、日本もキャッチアップできないような気もするのですが、なかなかそうはいかないのでしょうか?

細谷)「中国が変わった」ということについて、河野前統幕長のような現場にいる方は、毎年の変化を具体的な軍事力、船や飛行機の数で見ていらっしゃるわけです。ところが安全保障や軍事に触れる機会がないと、やはり10年前や20年前のイメージで中国を見てしまうと思います。そこで認識の大きな乖離が生まれてしまっているのではないでしょうか。

河野)9年前の国家安全保障戦略では、中国に対して「国際社会の懸念事項」という表現を使っていました。今回、あえて国家安全保障戦略を変えるわけですから、ここで中国に対する認識や表現が同じであれば、「変える」というモメンタムが働くはずがありません。

飯田)表現が同じであれば。

河野)そこが変わったからこそ変えるということだと思うので、9年前の国家安全保障戦略との変化を国民の皆さんへ明確に示し、「こうしなくてはならない」という論理構成にすべきだと思います。変化がわからないと、国民としては「何のために変えたのか?」となってしまいます。

「どのような理由で防衛力を強化するのか」を明確にする

飯田)直近ですが、アメリカではバイデン政権下で初めての国家安全保障戦略が発表されました。そのなかでは、中国に対しても脅威認識が強まっていますし、かなり強い表現ですよね?

河野)そうですね。正面から捉えて、日本は中国に対して懸念を持っており、それを脅威とするのか、どういう表現をするのかはこれから議論されると思います。「従って、日本は今後このように防衛力を強化していかなくてはならないのだ」と言うことが必要です。

飯田)はっきりと。

河野)いまは「防衛力を強化する」という議論の方が先行してしまい、それに合わせて国家安全保障戦略が動いている状況ですが、本来であれば、「国家安全保障戦略ではこういう認識だから、防衛力を強化しなくてはならないのだ」という組み立てになると思います。

飯田)本来であれば。

河野)政治日程などもあるので、いまは防衛力強化の方針を打ち出し、国家安全保障戦略をつくるという流れでもいいとは思いますが、ここがマッチングしていないとおかしなことになってしまいます。与党協議もあり、公明党の考えもあると思うので、これから政府の方で議論を深めていくのだと思います。

飯田)何を装備するのか、また防衛費をどのように増やすか、というような議論ばかりが先行してしまっているところがあります。大もとの部分が変われば、現場の意識も含めて変わっていくのでしょうか?

河野)変わりますね。

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