前統合幕僚長の河野克俊、慶應義塾大学教授で国際政治学者の細谷雄一が10月21日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。「反撃能力」の概念について解説した。
「反撃能力」は第1撃を受けてからでなければできない、という意味ではない
飯田)国家安全保障戦略についての議論で、かつて「敵基地攻撃能力」と言われ、いまは「反撃能力」という言われ方もしますが、反撃するということは、日本に対してまず第1撃が飛んでくるということです。でも、本来は相手に撃たせない努力をしなければいけませんよね?
河野)この議論の始まりは、昭和31年の鳩山一郎元総理の答弁なのです。いままさに向こうが核弾頭付きミサイルを撃とうとしているときに、座して死を待つことが憲法の指し示すところではないだろうと。(相手が)撃とうとしているときにそれを攻撃したとしても、「自衛の範疇に入る」ということが政府の公式見解として出ています。
飯田)鳩山一郎元総理の答弁で。
河野)ただ、政策的にいままでそれを取らなかったということなのです。「反撃能力」という言葉は、自民党の安全保障調査会で統一されたのだと思いますが、先制攻撃という印象を与えないようにしたのでしょう。しかし、反撃能力だからといって、「1発食らってからでしかできないという意味ではない反撃能力」であり、少しわかりにくいですよね。
飯田)第1撃が飛んでこなければできないという意味ではない。
河野)まさに向こうが「撃たん」としているときに、向こうが「攻撃を仕掛けてきた」という認識で、なおかつ「こちらからの先制攻撃ではありません」ということを強調する言葉として「反撃能力」としているのです。反撃能力だからといって、必ず1発受けてからでないと反撃してはいけないという意味ではありません。
飯田)国内向けのロジックなのですね。
河野)そうですね。
脅威認識として北朝鮮ばかりが議論されて中国が出てこない理由 ~政府のなかで基本的な方針が定まっていない
飯田)脅威認識として中国をどう見るかということですが、具体的なところでは中距離弾道ミサイルも含め、日本のすべての都市は中国の射程に入ってしまっています。ところが反撃能力の話をするときは、北朝鮮の話ばかりが出て、なかなか本丸の中国が話題にならないような気がします。
細谷)政府としては、ロシアはいま戦争をしているので基本的な姿勢が変わりましたが、中国との関係をあまり悪化させたくないという力学が働いていると思います。
飯田)中国との関係を悪くしたくない。
細谷)一方で、北朝鮮とは外交がないため、関係を悪化させる心配はないのです。その意味では、やや政府のなかで基本的な方針が定まっていない。いろいろな部署で見方が異なってくると思います。
飯田)基本的な方針が定まっていない。
相手が攻撃に着手した段階で対応することは「専守防衛」の概念に入る
細谷)反撃能力の根源として、日本が防衛問題を考えるときに、どうしても刑法上の概念を考えてしまうのです。
飯田)刑法上の概念を。
細谷)つまり、「殴られない限りは相手を殴ってはいけない、防衛措置を取ることはできない」という認識です。その観念からすると、日本は中国とロシアと北朝鮮という核保有国に囲まれています。しかも、3ヵ国とも日本との間で領土紛争など、直接的な敵意をしばしば示しています。
飯田)そうですね。
細谷)相手が核兵器を搭載した弾道ミサイルを日本に撃ってきた場合、東京に着弾して、「東京が核攻撃を受けて実際に死者が出ないと何もできないというのは、おかしいのではないか」という議論が始まりです。北朝鮮でも中国でもいいのですが、日本に核攻撃を行うという意思を明確に示し、日本に向けて核兵器発射の準備をする。その際、仮に日本に止める手段があったとき、「止めていいのか、いけないのか」ということなのです。
飯田)日本に向けて発射準備をした段階で。
細谷)法律上の概念としては、着手した段階でできます。つまり、これは「専守防衛」なのです。相手が攻撃的な意図を持ち、着手した段階で止めることは専守防衛の範囲に入っているのですが、それをやってはいけないというのは、東京に弾道ミサイルが着弾するまで何もするなということです。しかし、着弾したときには、政府機能が失われて何もできないかも知れません。ですので、「相手が(攻撃に)着手した段階で対応可能にしよう」といういまの議論は、専守防衛のなかに入るのです。
飯田)専守防衛のなか。
細谷)それが何となく、「日本が先制攻撃で専守防衛をしているのではないか」という議論と混ざることで、議論自体がやや交錯しています。そこは分けて考えるべき問題です。どこまで日本が攻撃能力を持つのかという問題はありますが、法律上の概念としては、あくまでも専守防衛の概念のなかに入っているので憲法違反ではない、というのが一貫した基本的な政府の姿勢です。
核弾頭ミサイルを防ぐには現在の防衛システムでは限界がある
河野)向こうの核弾頭ミサイルが飛んでくるということは、日本にとっては存立に関わる極限的な状況です。ところが、いまはイージス艦とパトリオット3という、両構えの弾道ミサイル防衛システムで待ち構えて撃ち落とすことになっています。
飯田)現状では。
河野)ただ、これには限界があります。防ぎきれないケースもあるので、そうなったときには、何としても日本は防がなくてはなりません。もう1つの手段として、相手基地の段階で抑えるという手段も持っておかないと安心することができない、という考え方が根本なのです。
抑止力は突き詰めれば攻撃力である
飯田)相手が殴りかかってこないと止められないということではなく、自分の体を屈強にすれば「あいつは殴りかかってはこないだろう」というような対策を、本当はやらなくてはいけないのですね。
河野)それが抑止力です。
飯田)普通の国であればやっていることですよね。
河野)抑止力を究極的に突き詰めると、やはり攻撃力なのです。こちらがサッカーのゴールキーパーのように何もしなければ、攻撃しようとする方にはあまり抑制がかかりません。相手が「やったら飛んでくる」ということがわかるから、抑制がかかるのです。
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