円買い介入を続けると財務省が困る「本当の理由」

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数量政策学者の高橋洋一が10月26日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。政府・日銀が実施した円買い・ドル売りの為替介入について解説した。

円買い介入を続けると財務省が困る「本当の理由」

1ドル=151円台を付けた円相場を示すボード=2022年10月21日午後、東京都港区 写真提供:産経新聞社

NY株3営業日続伸337ドル高、FRBの利上げ鈍化期待

10月25日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は3営業日で続伸し、前日比337.12ドル高の3万1836.74ドルで取引を終えた。米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げペースを鈍化させると期待した買い注文が優勢となった。

飯田)一方、円相場は1ドル148円ちょうど付近で取引されています。ハイテク株などが買われたことと、アメリカの長期金利が低下しているということで、3営業日続伸になったようです。円相場は、先週末に「グッ」と円高に一瞬振れましたね。

高橋)すぐ戻りましたね。

5兆円程度の介入では効果が続くのは1~2日程度

飯田)そういうものですか?

高橋)介入というとマスコミは大騒ぎしますが、1日の取引は平均すると130~150兆円くらいです。そこに5兆円程度介入したところで、本当に何十分の1のレベルなので、少しは反応しますが、すぐに慣れてしまうのです。

飯田)その程度では。

高橋)介入は一時的な効果しかないのです。介入するとみんな驚きますので、効果がないとは言いません。瞬間的な効果はあるのですが、1日か2日持つレベルです。

飯田)効果が続くのは。

高橋)日々の取引の半分以上介入するのであれば、かなり影響力はあります。資本取引を縮めて資本取引自体を規制できるのです。縮めてしまえば介入は効くのですが、資本取引を自由にしている以上、介入は効きません。

民主主義国は変動相場制になったときに介入が効かない ~資本取引を自由にして、資本調達コストを最小にするから経済が安定する

飯田)3つの要素で説明することがありますよね。為替を安定させるのか、資本取引を自由にするのか。

高橋)資本取引を不自由にしないと為替は安定化できません。資本取引が自由な国、民主主義国家はみんなそうなのです。経済協力開発機構(OECD)に加盟する際、「資本取引を自由にしなければならない」という決まりがあるのです。先進国はみんなそうなので、日本では自動的に「変動相場制になったときに介入が効かない」ということになります。それは仕方がないことです。

飯田)海外からこれだけ投資が入ってくるのは、まさに資本取引が自由であるからですよね。

高橋)逆に資本取引を自由にして、資本調達コストを最小にするから民主主義国家は経済が安定するということにもなります。中国などは共産主義国家なので、資本取引を自由にできません。そうすると経済発展しにくいということにもつながるのです。この話は、そういう理論的な話ですべてがスッキリつながります。

小泉政権のときに特別会計の改革に取り組み、60兆円の「埋蔵金」を掘り起こした

高橋)日本が介入できないのは間違いありませんが、介入について東京新聞に面白い記事が掲載されていました。

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『円安で巨額「評価益」活用論 国のドル建て資産「外為特会」 政府は否定「たまたまプラス」 「埋蔵金」と話題』

~『東京新聞』2022年10月26日掲載記事 より

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高橋)玉木さんが代表質問したあとに、衆議院予算委員会などで伊藤達也さんが……。

飯田)かつて金融担当大臣を務めた方ですね。

高橋)小泉政権のときに埋蔵金の話で一緒にやってくれていた方なのですが、「小泉政権で埋蔵金は出しただろう」と言っています。

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『「小泉政権で特会改革に取り組んで『埋蔵金』を掘り起こした」と振り返り、外為特会を是正する必要性を強調』

~『東京新聞』2022年10月26日配信記事 より

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飯田)記事にも出ていました。

高橋)外為特会もそのときにやったのです。全部で60兆円ぐらい出しました。それで消費増税が飛んでしまった。財務省はそのときの二の舞にならないよう、いろいろな手を打ってきているのです。そもそも、いま「評価益を物価高対策に活用してはどうか」という議論になっているでしょう?

飯田)そのようですね。

円買い介入を続けると財務省が困る「本当の理由」

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

財務省のロジックは「評価益自体を予算の歳入には繰り入れない」 ~日本円で持っているわけではないから

高橋)財務省のロジックは簡単で、「評価益自体を予算の歳入には繰り入れない」という原則があるのです。それをずっと言っています。

飯田)いまは外為特会のなかで、ほとんど米国債で持っているものの評価は上がっていますが、「実際に日本円で持っているわけではないから、私たちの予算では使えませんよ」というのが財務省のロジックですよね。

高橋)それは一理あるので、私はそのロジックは認めます。

ドル債を売却して円買い介入することは実現益 ~介入すればするほど評価益が実現益になる

高橋)一方で、もう介入していますよね。

飯田)確かにそうですね。

高橋)介入とは何かというと、「ドル債を売却している」ということです。

飯田)ドル建ての国債を売却し、円を買っているというのが今回の介入ですね。

高橋)それで既に売却益は実現益になっているのです。売っている部分は。

飯田)いままでであれば、「帳簿上の話ですからね」ということが言えたのですが、既に日本円化してしまっているからということですね。

高橋)これを続けていくと、「介入しなさい」と。財務大臣も「介入する」と言っていますよね。「いいですね。どうぞ、やってください」と。やればやるほど実は評価益が実現益になるだけなのですよ。このロジックの方が簡単で、評価益にこだわることなどはない。先ほども言いましたが、介入はせいぜい1日か2日しか持たないので、「どうぞ」という感じなのです。

「イエレン米財務長官が日本の介入を知らされていない」 ~介入にもブレーキをかけ、「これ以上の評価益は出せない」というロジックに乗っている財務省

高橋)そうすると、ときどき「アメリカが」と言い出すはずです。

飯田)「あまり米国債を売ってしまうと、アメリカさんが怒りますよ」と。

高橋)新聞でも「イエレン米財務長官が日本の介入の通知を受け取っていなかった」と、わざと流していますよね。これは財務省が「あまり売れないのですよ」というメッセージを出しているだけなのです。

飯田)アメリカが怒るから、これ以上の米国債は売れないと。

高橋)イエレンさんからしたらどうでもいい話なのですけれどね。そのような情報をわざと出し、「もうこれ以上は売れませんよ」と介入の方にもブレーキをかけつつ、「評価益は出せません」というロジックに乗っているのです。

飯田)そのような見方をしなければいけないのですね。

高橋)そうです。財務省というのは心理戦ですからね。どんどん介入してください、影響はないでしょう、ということだけで終わってしまいます。それで突っ走った方がいいのです。財務大臣も介入すると言っているのだから、引っ込められません。

変動相場制では、そもそも外貨準備は必要ない

飯田)介入に関して批判的なところから、「外貨準備がなくなってしまったら日本は支払いができなくなってしまう」というようなことも、よく言われています。

高橋)先進国には、そもそも外貨準備などはほとんどありません。先進国で外貨準備をGDP比で出すと、日本だけが突出して高いことがすぐにわかります。

飯田)どうしてですか?

高橋)外貨準備というのは、介入した結果なのです。普通は少し介入することがあるのですが、そのままにしておけば、ドル債は有期債で、3年で償還がきてしまうから残高が減るのです。通常はそうしています。「外貨準備がなくても、他の先進国はみんなうまくやっていますよ」ということです。変動相場制では、そもそも外貨準備はそれほど要りません。金融政策の安定ということで、為替の安定や経済の安定を別の手段で図るということです。

飯田)固定相場制のときは、常に介入しないと相場が固定されないから、外貨準備が重要でしたが。

高橋)基本をやっていると、とんでもないロジックがたくさん横行していることがよくあると思います。

飯田)「日本が支払いできなくなると困りますよ」ということを言われて、「大変だ」と思ってしまいますが、いろいろな話があるのですね。

高橋)ほとんど間違いであることが多いです。

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