「言うべきことは言った」岸田総理 日中首脳会談
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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が11月18日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。タイで行われた岸田総理と習近平国家主席との日中首脳会談について解説した。
日中首脳会談を開催、関係閣僚間の対話を再開へ
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岸田総理大臣は訪問先のタイで、中国の習近平国家主席と対面ではおよそ3年ぶりとなる日中首脳会談を行った。総理は中国公船の領海侵入が続く尖閣諸島を含む東シナ海情勢や、弾道ミサイル発射などの軍事的活動について、深刻な懸念を表明。一方、両首脳は関係閣僚間の対話を再開させることを申し合わせた。
プロフェッショナルなやり方で一連の首脳会談を行った岸田総理
飯田)どうご覧になりましたか?
宮家)日本では、この種の外交を必ず内政、政局につなげたい人がいるわけです。しかし、外交というものは、もっと継続性のあるものであり、内政とは違う、対外関係なのです。
飯田)外交は。
宮家)例えばアメリカ大統領が外国に行って誰かと会ったときに、アメリカのメディアはそれが「アメリカの内政にどれだけ関係があって、成果があったか」などとはあまり言いません。
飯田)アメリカの大統領の場合。
宮家)外交という側面から見ると、久しぶりに8日間も日本の総理が外に出て、これだけ多くの首脳会談を行った。もちろん多国間のものもあったわけだけれど、全体としては極めてプロフェッショナルなやり方だと思います。
各省庁を巻き込んで準備した上での今回の外交
宮家)私にも経験がありますが、これだけの準備をするのは大変なことです。二国間会談も中国だけではなく、ASEAN全部ですから。
飯田)そうですよね、一連の首脳会談を。
宮家)アメリカもいますし、他の国とも会談しています。
飯田)日中もあり、韓国ともあったし。
宮家)外務省だけではなく、各省庁も巻き込んで……。
飯田)経済の話など。
宮家)関係省庁で準備して、それを官邸でまとめるわけです。今回はかなりプロフェッショナルにうまくやったのではないかと思います。
飯田)そうですね。
「率直な議論ができた」は「意見が一致しませんでした」という意味
宮家)手元に総理の記者会見の記録がありますが、「率直かつ突っ込んだ議論ができたと感じています」とおっしゃっている。しかし、私の翻訳では、率直とは「意見が一致しませんでした」という意味です。
飯田)意見が合わなかった。
宮家)米中首脳会談で、中国側は「率直かつ建設的だ」と言っているのだけれども、中国以外では「建設的」という言葉は使いません。アメリカも使っていないし、ここでも使っていない。建設的ではなく、「突っ込んだ議論」というところに「今回は言ってやったぜ」という感じがすごく伝わってきます。
飯田)言ってやったと。
宮家)「安定的な日中関係の構築という方向性を双方の努力で現実のものにする」とありますが、「双方の努力」ということは、「お前もきちんとやれよ」という意味なのです。
飯田)「俺たちはやっているのだから」と。
宮家)「お前がやらなくてはダメなのだ」という感じが出ていて、いいなと思います。
日本側は「言うべきことは言った」
宮家)「全体の基本的な考え方と、安全保障分野での意思疎通の強化で一致した」と書いてある。2番目の一致という言葉ですが、簡単に言えば尖閣で何かあった場合、ホットラインなどがあれば、ということなのでしょう。その前の「深刻な懸念」は、中国による弾道ミサイル等々の軍事活動についてです。「深刻な懸念」というのは、「ちょっと深刻なのだな」と思います。
飯田)深刻。
宮家)「強い懸念」より強い、「深刻な懸念」。もちろん、この対外発表も練ってつくっていると思います。中国との会談も、アメリカとの場合も、おそらく2ヵ月以上前から取り事務レベルで取り組んでいるのです。8月に秋葉さんが(中国へ)行きましたよね。
飯田)秋葉国家安全保障局長。
宮家)楊潔篪(ヤンチエチー)氏と会っていますが、今回の会談もその頃から準備しているのです。その上でこういう言葉になっている。こうした公開情報を読む限り、今回日本側はプロフェッショナルに「言うべきことを言った」のではないでしょうか。
李克強氏にも習近平氏にも同じように具体的な懸念を示した
飯田)流れとしては、東アジアサミットがプノンペンで開かれましたが、李克強氏の前でも同じように具体的な懸念を表明しましたよね。
宮家)(目の)前でも、陰(に隠れて)でも同じことですが。悪いのは向こうなのですから。
飯田)「習近平氏にも同じことを言えるのかどうか」というところで、きちんと言ったのですね。
宮家)そうだと思います。政局的に考えると、「よく言った」と言う人もいれば、「弱腰だ」などと言う人もいるわけですから、そうした配慮があったのかも知れません。
飯田)配慮が。
宮家)しかし、国民交流の再活性化で一致、閣僚の対話で一致、核戦争を行ってはならないとの見解で一致と言っているので、一致点もあったわけです。
飯田)中国と。
宮家)ブリンケンさんの中国訪問が予定され、ほぼ同じようなラインで林外相も中国に行くと。
飯田)中国に行くと言っていますね。
中国にとっての外交はあくまでも「アメリカ」 ~諸外国との関係改善が必要だと考えている習近平氏
飯田)米中首脳会談があり、そのラインと歩調を合わせて日中首脳会談を行ったという感じですけれども。
宮家)中国にとっての最も重要な外交は「アメリカ」なのです。
飯田)アメリカだけ。
宮家)日本も含めて……日本は近いし、軍事力を持っているから一目置くとは思うけれど、それはあくまで「アメリカ以外」なのです。だからアメリカとの最初の会談を3時間行えば、大きい流れは決まってしまう。それで中国は上手くいったかと言えば、うまくはいっていないでしょう。
飯田)中国は。
宮家)アメリカとの関係を見ると、台湾問題でも平行線です。その意味では、それほど華々しく動けたわけではない。ただ中国側は、「諸外国ともう少し関係をよくしなければいけない」と感じているところもあるのではないでしょうか。
飯田)諸外国と。
宮家)ゼロコロナ政策で経済がおかしくなってしまっているし、その上、戦狼外交で嫌われているわけです。おそらく習近平さんもそれをわかっていて、一連の会談を行ったのではないでしょうか。
ASEANの国々と顔を合わせてつなげていくことは大切
飯田)カンボジアに始まり、インドネシア、タイにも行きましたが、一連の外交のなかには日韓関係など、いろいろなテーマがあったと思います。全体を総括すると、いかがですか?
宮家)コロナ禍で3年間、対面会談ができなかったわけです。日本にとって、中国やアメリカとの関係も大事なのだけれど、いちばん大事なのはASEANなのです。
飯田)ASEAN。
宮家)ASEANの国々とは、今回相当いい話し合いができたのだと思います。今回のような場で顔を合わせて話をつなげていくことは、中長期的には大事なことです。
飯田)今回は出発が少し遅れてしまった。
宮家)内政で。
飯田)ラオスやブルネイなどとは(首脳会談が取りやめになった)。
宮家)しかし、そのあと再調整されたではないですか。お互いに準備もしているし、会わないことは失礼になりますからね。これでいいのではないでしょうか。
飯田)APEC閣僚会議は11月18日に開幕ですので、いろいろな論点が出てくると思いますが。
宮家)本来は経済が中心になる国際会議なのですが、ロシアによるウクライナ侵攻があるので、両論併記しないと共同声明が出せないなど、影響が出ていますね。
飯田)ジョコ大統領はよく首脳宣言をまとめましたね。
宮家)議長ですからね。
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