「脱石油」を目指すサウジアラビアが日本に求めること
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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が11月18日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。サウジアラビアについて解説した。
ムハンマド皇太子が来日中止
11月20日に岸田総理との会談が予定されていたサウジアラビアのムハンマド皇太子が来日を中止したことがわかった。同皇太子が率いる使節団も来日しないことになり、11月21日に計画されていた日・サウジビジネスフォーラムも中止される。
(※編集部注:以下の内容は2022年11月18日午前7時45分ごろ、ムハンマド皇太子の来日中止が報道される前の放送)
国づくりで岐路に立っているサウジアラビア
宮家)サウジアラビアはいま、国づくりで岐路に立っています。私が外務省に入った1978年には、人口約600万人でした。それが(2010年ごろには)約2800万人ですから。
飯田)4倍以上。
宮家)しかし、サウジアラビアの石油生産は1050万バレル~1100万バレルで、当時とほとんど同じです。石油価格も購買力平価ではそれほど変わっていません。上がり下がりはしますが。
以前に比べて人口が増え、1人当たりのGDPは4分の1に ~脱石油を目指すも
宮家)つまり、人口が約4倍なのだから、1人当たりのGDPは4分の1になったということです。サウジアラビアも石油が出るうちはいいのだけれど、もうそろそろ石油だけでは食べていけなくなる。
飯田)いまはいいけれど。
宮家)脱石油を考えなくてはなりません。しかも、日本人のようによく働き、投資をして、ものづくりをしてインフラをつくり、科学技術を身に着けたい……と彼らは思うわけです。
飯田)今後に向けて。
宮家)しかし実際にはどうかと言うと、 人口は600万人から2000万人を超えてしまったのだけれども、産業は石油以外にはないですから、これまでは国民みんなを公務員にしてきたわけです。
飯田)公務員に。
宮家)世界レベルで見れば、超高給公務員なわけです。ということは、彼らは、気候も暑いし、一般に働きません。それに慣れてしまった国民を、日本や韓国のように働かせるにはどうしたらいいのかと。
飯田)日本人のように真面目に働かせるには。
ムハンマド皇太子に権力を集中させるサウジアラビア
宮家)ムハンマド・ビン・サルマンさんの名前ですが、「ビン・サルマン」は「サルマンの子ども」という意味です。
飯田)サルマンさんの子ども。
宮家)ムハンマドさんは、いまのサルマン国王の息子なのですが、サウジアラビアでは初代以外、ずっと王位継承を兄弟でやっていたのです。二代目の王位は息子にいって、そのあとはずっと兄弟で王位継承をやってきた。今回もそれで進めるのかなと思ったら、そうではなく、息子に王位を渡す。
飯田)初めて代が替わる。
宮家)初めて父子継承になったのです。権力をムハンマドに集中し、強いリーダーシップでサウジアラビアの国づくりを根本的に変えていこうとしている。
日本にも「国づくりの協力」を要請か
宮家)皇太子はビジョン2030という計画を持っています。今回、韓国にも行っているのですが、韓国の報道を見ていると、サウジアラビアは韓国の中小企業などに積極的な参加を要請したようです。おそらく日本にも同じように「国づくりで協力して欲しい」と言ってくることは間違いないでしょう。
もともと遊牧民であるサウジアラビア人を勤勉な人間に変えることは難しい
宮家)しかし、人を改造するのは難しい。
飯田)ある意味、そこがないと先進国のような近代化はできません。
宮家)日本もヨーロッパもそうですけれど、1つの目的のために人間を組織的に動かしていく。この典型例はある意味で農業であり、それは文化でもあるのです。しかし、サウジアラビアにはそれがないのですから。
飯田)砂漠ですからね。
宮家)砂漠で遊牧民ですからね。「人づくり」と言っても簡単ではないのですけれど、彼はそれを本気でやろうとしているのです。いろいろな事件(トルコでのサウジアラビア人記者殺害事件など)があって評判は悪いのですが、日本はそれほど人権問題について言わないから、その点で日本とは上手くいっているのでしょう。
90年代にも同様の要請があったが
飯田)いままではサウジアラビアから出稼ぎの人に来てもらって、インフラをつくっていましたが。
宮家)私が(外務省で)課長を務めていた90年代にも同じような動きがありました。日本政府や企業に要請があって、人づくりのためサウジアラビアに職業訓練校や組み立て工場をつくるなどの協力をしたのだけれども……。
飯田)教育からとなると、いろいろと大変です。
宮家)文化が違うので、日本人と同じ働き方をするわけではないため、当時はうまくいかなかった。あれから30年経って、もう1度やるというのです。今度は本気ですと言うのだけれども、どうでしょうか。
飯田)まだ石油の需要が世界中にあるうちに。
宮家)再生可能エネルギーが軌道に乗ったら、この国はいらなくなってしまいます。そうした危機感は強いはずなのです。
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