日本の「原発再稼働」が世界から注目される「これだけの理由」
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日本エネルギー経済研究所・首席研究員の小山堅氏が11月21日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。世界のエネルギー情勢について解説した。
COP27、気候変動の被害を支援する新たな基金創設へ
国連の気候変動対策会議「COP27」で気候変動による被害を支援するため、途上国を対象に新たな基金が創設されることが決まった。国連の枠組みで各国が協調して被害の資金支援に取り組むことが合意されるのは初めてのことである。
飯田)会期を延長して行われ、成果文書が採択されたということです。途上国への資金支援という形になりました。
厳しい日本のエネルギー事情
飯田)この冬は日本でも節電要請が出されるなどしていますが、日本のエネルギー事情をどうご覧になっていますか?
小山)厳しい状況だと思います。もちろん、冬場の電力需給の安定もありますし、ウクライナ危機で世界のエネルギー価格がすごい勢いで上がり、市場が不安定化しています。日本にとっては本当に厳しい状況を迎えていると思います。
ロシアから輸入しているLNGが止まれば、それを代替できるところは世界の市場にはない
飯田)ウクライナの話が出ましたけれども、長引くにつれて影響は深刻になっていきますか?
小山)ロシアは、世界のなかでは「エネルギー輸出の巨人」と言ってもいいくらい存在感が大きいのです。特に天然ガスは世界の輸出の4分の1くらいを担っていて、石油も2021年では輸出1位です。石炭も世界3位なのです。
飯田)石炭も。
小山)ロシアのエネルギーがウクライナ危機のもとでの制裁、あるいはロシア自身の供給削減もあり、市場は大揺れしていると言っていいと思います。
飯田)直接、大きな量を輸入していない日本であっても、価格変動などで影響を受けるということですか?
小山)1つに、石油の値段は世界市場で値段が決まれば、どの国も同じように影響を受けるわけです。特に2022年3月はリーマンショック以降、最高値を記録したのですが、そのあとも高価格でした。日本でもガソリンの値段が上がったり、他のエネルギーも上がっています。
飯田)なるほど。
小山)LNGもロシアから600万トンという数量を輸入しているのですが、これは大変な数量で、もし何か問題があったら、いま世界の市場で代替できるところはないのです。
飯田)ないのですね。そうすると、別のエネルギー源にシフトするなり何なり、手段を考えておかなくてはならないのですか?
小山)エネルギー源はありとあらゆるものを使い、そして節電、省エネ、節ガスを行う。いま、ヨーロッパは死に物狂いでそれをやっている状況だと思います。
エネルギーとしての「水素」の可能性
ジャーナリスト・須田慎一郎)2050年にカーボンニュートラルを目指すなかで、政府は新エネルギー源として水素を出していますが、展望はどうなのでしょうか?
小山)水素はエネルギーとして使うときに当然、CO2も出ませんし、極めてクリーンです。あとは、「どのようにして水素をつくるのか」ということです。
飯田)どうつくるか。
小山)再生可能エネルギーや化石燃料からつくるのですけれども、化石燃料の場合には出てきたCO2を地中に埋めるなど、いろいろなやり方を世界が模索している最中です。
飯田)世界で。
小山)何が成功するのかは、まだ読み切れません。しかも、コストがまだ非常に高いので、これから技術進歩でコストを削減し、世界で供給チェーンをつくっていく。それで2050年のカーボンニュートラルにどれだけ貢献できるのか。ここから先がまさに勝負だということです。
水素の原料への関心
須田)水素の原料になる化石燃料についても、ほとんど報道ベースでは出ていませんが、日本はロシアに大きく期待していますよね。
小山)一時期、ウクライナ危機の前にはロシアへの関心もあったと思いますが、いまは当然、ロシアとの関係で水素も極めて難しくなりました。むしろ、いまは中東やオーストラリア、東南アジア、場合によってはアメリカ、カナダなどへの関心をより強めているのだと思います。
須田)なるほど。
世界から注目されている日本の原発再稼働
飯田)新しいエネルギー源についてもいろいろと言われていますが、やはり一長一短の部分がある。今後のエネルギーのベストミックスと呼ばれるバランスは、どう捉えたらいいですか?
小山)日本政府が出している「エネルギー基本計画」では、2030年についての数値目標があるのです。省エネも再生可能エネルギーも水素も化石燃料もあるのですが、どれもこれも非常にハードルが高く、挑戦的な目標ばかりです。
飯田)挑戦的な目標ばかり。
小山)ただ、そうは言っても手をこまねいているわけにはいかないので、どの分野でも最大限に努力しなくてはいけない。
飯田)そうですね。
小山)日本でいまいちばん注目されているのは、やはり「原子力をどう使うか」だと思います。日本は「再稼働」の問題があります。いまヨーロッパの方では急遽、「原発の新設」に動き出しています。
飯田)ヨーロッパでは。
小山)ただし、再稼働というのは、いまある設備を安全性を保って動かすことができれば、CO2も減らせるし電力コストも下げられるし、安定供給につながります。世界から見ると「日本には、まだそういうオプションがあるのだ」と見られているとお考えいただいてもいいかも知れません。
日本が原発を再稼働すれば世界のLNG市場の安定化にも貢献できる ~世界から関心を持たれている
飯田)逆に言うと、「日本は切るカードがまだあるではないか」というように世界からは思われている。
小山)世界中でいろいろな議論をしているのですけれども、世界からはそう見られています。もしそれができれば、日本の需給の安定と同時に、実は日本がLNGの消費を減らせます。その場合はいま世界でいちばん厳しい状況に陥っている天然ガス(LNG)市場の安定化にも、日本が貢献することにつながると思われています。
飯田)その辺りは、西村経産大臣の国会答弁のなかでも指摘がありましたよね。
小山)今回の危機で、最も大変なのは天然ガス(LNG)なのです。それを何とかする手段があまりないなかで、日本の対応が注目されています。日本がうまく対応していけるかどうかはまだわからないのですが、世界は日本についてそういう目で関心を持っているのは確かだと思います。
「2050年カーボンニュートラル」を達成するためにはすべてのことを試みなくてはならない ~鍵を握るのはイノベーション
飯田)野心的な目標を掲げて2050年カーボンニュートラルを達成しようとしていますけれども、現実的な道筋としては、いろいろなものを積み上げなくてはいけないわけです。アプローチの仕方として、小山さんは新聞紙上でも「少し目標が高すぎるのではないか」と指摘されていましたが、この辺りはいかがですか?
小山)正直に言って、これは日本だけではなく、ヨーロッパであろうとアメリカであろうとカーボンニュートラルは大変な目標なのです。
飯田)日本だけではなく。
小山)いまあるエネルギーのシステムを革命的に変えなければ届きませんから。なおかつ現在、商業化されていないような技術がたくさん入ってこないといけない。
飯田)そうですね。
小山)しかし、「難しい」と言っていたら絶対に届きません。「あと30年」と言っても、あっという間です。いまから最大限の取り組みをすべての分野でやるしかないと思います。特にイノベーションが鍵を握りますから、「イノベーションをどうやって進めていくか」というところに注力しなくてはいけないと思います。
飯田)選択肢として、すべてやらなくては間に合わない。原発もその1つだということですか?
小山)そうですね。
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