「日本のエネルギー需給安定化」のために岸田政権が「するべきこと」

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政策アナリストの石川和男氏が11月22日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。LNGのひっ迫に備え、経済通産省が開いた官民連絡会議について解説した。

「日本のエネルギー需給安定化」のために岸田政権が「するべきこと」

2022年11月21日、記者の質問に答える岸田総理~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202211/21bura.html)

液化天然ガスのひっ迫に備え、経済産業省が官民連絡会議を開催

経済産業省は11月21日、冬場の需要期に液化天然ガス(LNG)の需給がひっ迫する事態に備え、エネルギー業界の幹部と意見交換する官民連絡会議を開いた。ロシアによるウクライナ侵略後、火力発電の燃料や都市ガス原料となるLNGの安定調達が懸念されており、電力・都市ガス会社間で融通し合う体制を確認した。

これまで民間企業に任せ過ぎていた ~進歩ではあるが遅すぎる

飯田)まず官民連絡会議についてですが、どうご覧になりましたか?

石川)本来、日本は石油やガス、石炭等はほとんど輸入しているわけです。ですから、国内の調達については国が音頭を取った方がいいのですが、いままでは民間に任せていたのです。

飯田)民間に任せていた。

石川)民間企業も電力会社も立派だということはありますが、任せすぎていた。それが今回、「石油もガスも足りない」という話になって、ようやく官民で連絡会議をすることになったのです。進歩と言えば進歩ですが、少し遅かったですね。

飯田)専門家の皆さんは、ウクライナ侵攻が起これば「こうなる」ということが見えていたのですか?

石川)(問題は)ロシアですよね。日本はLNGについて、以前からもそうだったのですが、特に2011年の福島第一原発事故以降、脱原発という話になった。さらに脱炭素で石炭の使用をやめるということになり、LNGに過度に寄ってしまったところがあります。そこでLNGの供給が危うくなってきたとなれば、当然、高くなる。

日本には原子力や石炭による発電設備は豊富にあるのだが

飯田)高騰しますね。

石川)日本は、本当は原子力や石炭による発電設備は豊富にあるのです。しかし、原子力は2011年に不幸な事故があり、その煽りもあって止めてしまった。さらに石炭も日本は最高の技術を持っているのに、忌避し始めてほとんどダメです。

福島第一原発事故の当日に閣議決定された再生可能エネルギーの導入

ジャーナリスト・有本香)私たち一般の消費者が見ていても、そう思います。原発は一応、再稼働を決めてはいますけれど、なぜ止めてしまっているのだろうということが1つ。それから石炭火力です。「日本の石炭火力を世界中にもっと広めればいいのに」と思うのですが、強気に転じられないのは、何か理由があるのですか?

石川)最終的には政治です。日本は何か言われると怖気付いてしまう。原子力に関しても「止めれば安全」という考えになってしまった。

飯田)東日本大震災があって。

石川)震災が起こる前なのですが、「再生可能エネルギーを入れましょう」というルールが政府決定されたのです。

原発が足りないとなるとLNGを輸入

石川)原発事故の当日に閣議決定されました。再生可能エネルギーを過度に礼賛して、「入れていこう」となったのです。ところが再生可能エネルギーはご存知のとおり、費用対効果がよくありません。

飯田)費用対効果が悪い。

石川)発電量が少ないのですが、一般の方々はそれがわからないので、どんどんそちらに傾斜していってしまった。「原発が足りない」ということになると、LNGをたくさん入れてしまう……そのような10年の不幸な歴史です。

有本)経済産業省としては、現在の状況を現実的な軸に戻していこうという思惑はあるのでしょうか?

石川)あると思います。原発事故以降、「どうやって自分たちの責任を回避するか」ということで、原子力を止めることによって「安全」という風潮に乗ってしまったのです。

「日本のエネルギー需給安定化」のために岸田政権が「するべきこと」

※画像はイメージです

政治やメディアに流され、原発を動かすことができなかった ~現実路線に戻すために

石川)経産省のなかでも、まともな人は(原発を)「動かせ」と言っていましたが、政治やメディアに押し流され、弱気になってしまってダメでした。

飯田)押し流されてしまった。

石川)途中、2016年から(電力を)全面自由化にしてしまったのです。これによって、原子力はおろか火力の競争力も途端に落ちてしまった。「さあどうしましょう」という状況です。

飯田)なるほど。

石川)現実路線に戻そうとしているのですけれど、一旦、右にいったものを左に戻すのは大変なことです。世論やメディアを含めて、「もっと頑張れ」と応援しなければなりません。

再生可能エネルギーを進めるには補完する火力が必要

飯田)再生可能エネルギーのルール、そして2016年の自由化。火力が競争力をなくしてしまい、火力を潰してLNGや再生可能エネルギーにシフトする。そうなると、電力系統の安定性がなくなっていってしまいます。最近、夏や冬の環境が厳しくなってくると、必ず「電力ひっ迫」と言われるようになりましたが、こうなることはわかっていたのでしょうか?

石川)わかっていたのだけれど、どこかで「大丈夫」と思っていたのでしょう。ドイツもそうなのですが、平和ボケしていて、こうなることは考えなかった。「電力系統の安定性」とおっしゃいましたけれど、電力系統の安定性とは送電線のことです。太陽光や風力は燃料費がないから、いいエネルギーではあるのだけれども、天候で左右されてしまうのでブレるわけです。送電線のなかでブレるとまずいので、火力で補完しなくてはいけない。

飯田)火力で。

石川)再エネを進めるのであれば、火力についてきちんとやらなければならないのに、そちらを競争に晒してしまい、ダメにしてしまった。ようやくここ2年くらいで見直されてきたので、いいことではありますが。遅いですけれどね。

政治が前面に出て、総理や官房長官が「頼むからやらせてくれ」と頭を下げなければ進まない

飯田)この先、日本のエネルギー全体のバランスをどう考えたらいいですか?

石川)ようやく政権が言い始めましたけれども、原子力を今年(2022年)から来年にかけてきちんと再稼働させる。その場合、地元の了解などが必要になるので、きちんと政治が前面に出て、原子力規制委員会のようなところに投げたり、地方自治体に判断させず、総理や官房長官が地元へ行って「頼むからやらせてくれ」と頭を下げなければダメです。それをやらなければ進まないと思います。

飯田)いまは新しい原発をつくっていないから、当然、老朽化するものも出てきますよね。

石川)誤解があるのですが、老朽化と言っても、すぐに老朽化するわけではないのです。いまは動かしていないわけですから。

飯田)なるほど。

石川)そこまで動かしていないのに、稼働年数に入れてしまって「40年経ったらやめましょう」という。ここをいま変えようとしているのです。経産省が努力していますので、マスコミも叩くことばかりせず、たまには応援してあげてください。

政治が前に出て、政府が仕切らなくてはならない

飯田)この冬をまずは乗り切らないといけないし、その先もあるわけです。

石川)当然のことですが現場の方、火力発電所と原子力発電所は、安全性を第一に考える。それ以前の問題として、再稼働できていないのは技術の問題ではなく、政治の問題です。きちんと政治が前に出て、仕切っていただきたいと思います。それが日本のエネルギー需給の安定化を元に戻す第一歩です。

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