正社員の転職率が低い日本の現状では給料も上がらない 実質賃金7か月連続マイナス

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ジャーナリストの佐々木俊尚が12月7日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。7か月連続のマイナスとなった実質賃金について解説した。

正社員の転職率が低い日本の現状では給料も上がらない 実質賃金7か月連続マイナス

2022年12月6日、会議のまとめを行う岸田総理~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202212/06taisakuhonbu.html)

10月の実質賃金、前年同月を2.6%下回り7か月連続のマイナス

厚生労働省が発表した10月の毎月勤労統計調査の速報値によると、物価の変動分を反映した働く人1人当たりの2022年10月の実質賃金は、前年同月を2.6%下回って7か月連続のマイナスとなった。マイナス幅が2%を超えるのは新型コロナウイルスの影響で給与総額が落ち込んだ2020年6月以来となる。

飯田)今回に関しては、額面は増えましたが。

物価は上がっているけれど、賃金は上がっていない

佐々木)物価はまず上がらなくてはいけない。そういう意味では、「物価が上がっている」ということだけで騒ぐメディアはどうかと批判されているわけです。

飯田)そうですね。

佐々木)ただ、物価が上がるだけではダメで、「賃金が将来的に上がることを期待して、物価の上昇が許容されるべき」というのが、いわゆるリフレ的な理論です。しかし、現実をみると物価は上がっているけれども、賃金は上がっていない。

飯田)追い付いていない。

値上げ許容度が高まれば売る側にも余裕ができ、従業員の賃金を上げることができる

佐々木)いろいろな言い方があって、物価が上がることをまずみんなが許容しなければいけない。物価が上がっても仕方ないと思えれば、近所のスーパーで卵が50円値上がりしたとしても、「遠くのスーパーへ行ってもきっと高いはずだから、近所のスーパーで買ってしまうか」となる。それは値上げ許容度が高まっていることになるのです。

飯田)値上げ許容度が高まって。

佐々木)そうなると売る側にも余裕ができるので、上がった分を原材料の高騰だけでなく、「従業員の賃金を上げることにも流用しよう」という話になり、少しずつ賃金が上がっていくことが期待できるのです。

企業にデフレマインドが定着してしまい、余裕ができても内部留保してしまう

佐々木)しかし、現実をみると平成の30年間、物価が上がらないデフレ状態が続いているから、企業側もデフレマインドが完全に定着してしまった。仮に余裕ができても、「将来の不況に備えて内部留保しておこう」という話になるなど、なかなか(賃金が)上がりません。

飯田)デフレマインドが企業に定着してしまって。

雇用が流動化しているアメリカでは、転職すれば給料が上がる

佐々木)一方でアメリカなどをみると、すごい勢いでインフレが起きているのだけれども、給料も上がっている。なぜかと言うと「雇用の流動化のおかげ」だという話もあるのです。

飯田)雇用の流動化のおかげ。

佐々木)転職すると給料が初めて上がる。例えば、いま時給1000円で飲食店がアルバイトを雇っていたとして、他の店が1200円などに設定しているとします。そうしたら、みんなそちらに移ってしまう。

飯田)時給の高い方に。

佐々木)「1000円だと人が集まらないから、1200円に上げて他のお店並みにするしかない」となれば、給料が上がっていく。だから転職すると給料が上がるわけです。

転職が難しい日本では社員が辞められないので給料も上がらない

佐々木)ただ、アルバイトは気軽に転職できるので給料が上げられるのだけれども、正社員はやはり辞めないのです。辞めたら「他の会社に移るのは難しい」とみんな思っているから、会社にしがみつく。不況が続く日本では、「会社を辞めても転職できずに転落するしかない」という恐怖感があるからです。

飯田)日本では転職が難しい。

佐々木)会社側も「この人は絶対辞めるはずがないから、給料を上げる必要はない」ということになってしまう。

飯田)同じ給料で使い倒してやろうと。

雇用を流動化すれば給料は上がりやすいが、日本で解雇規制をなくすことは難しい ~混乱を招いてしまう

佐々木)「ずっといるだろう」と思われていると、給料は上がらない。正社員も気楽に会社を辞められるように、「雇用を流動化した方が給料は上がりやすい」という話なのです。アメリカでは実際にそうなっています。ところが、これをそのまま日本でやってしまうと阿鼻叫喚ですよ。

飯田)日本でやれば。

佐々木)「解雇規制を減らせ」という話は以前からあるわけです。それをやったらみんなどんどんクビにされて、逆につらくなってしまう。子どもを2人抱えて専業主婦の奥さんがいる40代の男性が、いきなり解雇規制がなくなって簡単にクビになってしまったら、すぐに仕事が見つかる人はいいけれども、そういう人ばかりではないとなったとき、その混乱をいったい誰が引き受けるのかという話になるわけです。

正社員の転職率が低い日本の現状では給料も上がらない 実質賃金7か月連続マイナス

※画像はイメージです

打開策が見つからない現状

佐々木)政権としても、そこで阿鼻叫喚になってしまったら、支持率が下落するのは目に見えているので、とても手を付けられない。結局、「労働環境をよくするように頑張ってください」とか、経団連に「賃金を上げてください」と頼みに行くことくらいしかできません。そういう状況で、なかなか打開する方法が見つからないのが現状だと思います。

賃金を上げられない企業側の事情

飯田)一方で賃金を上げるにしても、経営者の視点からすると、労使折半で社会保障などもあるし、賃金を上げてしまうと負担が大変になるというようなところも、問題としては抱えています。

佐々木)物価が上がっているのですから、賃金も上げればいいと思うのだけれども、原材料やエネルギーの高騰で上がっているだけなので、その部分を超えてさらに上げることは難しい。

飯田)現状では。

佐々木)しかも「物価を上げると怒られる」というイメージが染みついているから、結局、5個入っていたものを4個に減らすというような、ステルス値上げのような方法になる。まさにデフレマインドそのものです。

飯田)見た目は変わっていないけれども、実質的には貧しくなっているというところが、いろいろな場面で出ていますよね。

40年間、ランチの値段が変わっていない日本

佐々木)日本に関して言うと、平均収入も下がっているのだけれども、それ以上に社会保障費の負担が増えて、可処分所得がどんどん減っているというのが、ここ20~30年の現実でもあるわけです。

飯田)可処分所得が減っている。

佐々木)私が20代の学生だった1980年代、ランチの値段は500円くらいだったのです。それが新聞記者だったバブルのころは1000円くらいになって、「高いな」と思っていたら、最近はまた500円に戻っています。40年くらい値段が変わっていない。それは変えなくてはいけないという話だと思います。

飯田)本当に「どこから手を付けるのだ」ということになる。

佐々木)混乱を避けて変えるというのは、本当に難しいと思います。

全国旅行支援の影響で旅行費を含む「教養娯楽」などの支出が8.0%増加

飯田)好循環にどうつないでいくか、どうシフトを変えていくかという。

佐々木)現状、物価が上がっていると言われているのだけれども、エネルギーと食料の部分を除くと、実はほとんど上がっていないという話もあります。

飯田)アメリカ版のコアがその数字に当たりますが、酒類を除く食料とエネルギーを全部除いた物価指数を見ると、だいたいプラス1%くらいです。

佐々木)実は、リフレ政策で目指した「インフレ率2%」には及んでいないという話なのです。全体の見た目上では3%くらい上がっているのですが。

飯田)見た目は上がっているけれど。

佐々木)でも、消費自体は増えている感じはあるのですよね。例えば全国旅行支援で、この秋くらいから観光地はどこに行っても満杯という感じです。

飯田)そうですね。

佐々木)家計調査を見ると、旅行費を含む「教養娯楽」などの支出が8.0%増加しているのです。全国旅行支援で目立ったのが、「便乗値上げ」でした。割引きになるので、その分、旅館側が少し値上げするという。

飯田)ベースの値段を上げる。

佐々木)批判している人が多いのだけれども、それをやって初めて旅館側にも余裕ができるから、賃金を上げることにつながるという話になります。やはり1つはマインドを変えていくということです。値上げを許容するという。

飯田)マインドを変える。

政府は全国旅行支援のような支援を増やすべき

佐々木)もう1つは、もう少し財政出動していただかないといけない。

飯田)全国旅行支援はいい例かも知れないですね。

佐々木)可処分所得が減っている現状を見据えて、その上で上乗せ部分を全国旅行支援のように財政出動し、「みんなもっとお金を使いましょう」とすることです。

飯田)お金を使いましょうと。

佐々木)特にワイドショーなどを観ていると、「くず野菜を使いましょう」というような節約の話題が多いではないですか。そういう話ではなく、もっとお金を使う。そのためにも、「政府は全国旅行支援のような支援をもっと増やすべきだ」と訴えて欲しいですね。

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