園児虐待事件 専門家が指摘する「保育士の人員配置基準」の問題
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認定NPO法人フローレンス会長の駒崎弘樹氏が12月8日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。保育の現場における過酷な状況について語った。
厚生労働省、園児虐待の続発受け全国調査へ
静岡県や富山県などの保育施設で園児虐待事件が相次いで発覚したことを受け、厚生労働省と内閣府は12月7日、全国の自治体に対し、近く不適切な保育の実態について全国調査する方針を通知した。
1人で4歳児を30人みなければならない日本の保育士の過酷な現状 ~イギリスの2倍、ドイツの3倍以上の数の子どもをみなければならない
飯田)このようなニュースが出るたびに話題になりますが、根本的な原因や構造問題はあるのでしょうか?
駒崎)今回の事件は皆さん、ショッキングだったと思います。しかし、現場の保育士を追い詰めてしまう現状があることも忘れてはいけないと思います。
飯田)現場の保育士を追い詰める現状。
駒崎)保育園の保育士は、非常に過酷な状況で働いています。日本の保育士は先進国のなかで、みなければいけない子どもの数が最も多いのです。
飯田)そうなのですね。
駒崎)「人員配置基準」と言うのですが、日本の保育士は、「1人で4歳児を30人みなさい」ということになっています。
飯田)30人。
駒崎)それに比して、イギリスは1人で13人、ドイツは1人で9人です。つまりイギリスの2倍以上、ドイツの3倍以上の子どもを1人でみろと言われている状況なのです。
国からの補助が少なく、保育士の給料は低い ~仕事は大変
飯田)目が行き届かないというか、「無理だ」となってしまう人が多いわけですか?
駒崎)その通りです。しかも、保育園は国からの補助金があって成り立つのですが、補助金の額が少ないので、保育士の給与は低くならざるを得ないのです。
飯田)国からの補助が少なくて。
駒崎)そのため、「仕事は大変だけれど給与は低い」という状況のなかで、毎日働かなければならない。なかには精神的に参ってしまう、あるいは虐待に走るような行為をする者が出てしまう……そのような構造が横たわっています。
74年間、保育士の人員配置基準を変えずに放置してきた政治の問題
飯田)「心意気でいままで支えてきている」というところが大きいわけですか?
駒崎)みんな「子どもが大好きだからこの仕事を選んだ」、「つらいけれどやりがいがあるから頑張ろう」と続けてきたのですが、実は人員配置基準が74年間変わっていないのです。
飯田)74年間と言うと、戦後すぐにできた基準のままということですか?
駒崎)その通りです。それを放置し続けてきた政府や政治があります。
人員配置基準である「4歳児で30人」の根拠はほぼない
飯田)人員配置基準、4歳児で30人というのは、年齢が下がればもう少し人数は少なくなりますけれど、根拠が薄いのですか?
駒崎)現在の学問の観点からすると根拠は薄い、ほぼ根拠がないと言ってもいいかも知れません。
「こども家庭庁」ができても予算を増やさなければ何も解決できない
ジャーナリスト・鈴木哲夫)今度「こども家庭庁」ができますが、保育に対して各省庁に横串を本気で刺し、行政は1つの政治テーマとして取り組まなければいけないと思います。こども家庭庁ができて、こういう現状を調整することはできると思いますか?
駒崎)こども家庭庁ができること自体は、とてもいいことだと思います。厚生労働省は巨大すぎて、なかなか子どもの問題に本腰を入れることができませんでした。そういう意味では、子どもに特化して政策を行うこと自体はいいことです。
飯田)こども家庭庁ができることは。
駒崎)ただし、このままだと機能しないのではないかと思います。子どもに関する専門部署、省庁ができたとしても、予算が増えなければいままでと一緒です。
飯田)予算が増えなければ。
駒崎)「予算を抜本的に増やそう」という掛け声はあるのですが、具体的なところはまったく見えていない状況です。現状のお金だけでは、決してサービスは向上しませんし、人員配置の問題も解決しない。何も解決しないということになります。
日本の子どもへの予算は欧米の半分 ~いまからでも予算を増やすべき
飯田)人員面で足りない部分は大きいですか?
駒崎)こども家庭庁ができても、予算を増やさなければ保育士を雇うこともできません。一方で、日本の子どもへの予算は欧米・先進国に比べると約半分しかないのです。
飯田)欧米の半分。
駒崎)倍増しても普通の国になるというレベルです。「少子化だ」と言い続けていますが、少子化になることは何十年も前からわかっていたわけです。それにも関わらず、子ども関係の予算を増やしてこなかったというのは、少子化になるべくしてなっているということです。
飯田)そうですよね。
駒崎)遅きに失している部分もありますが、いまからでも予算を増やし、子どもや子育て家庭を支えなければ、このまま人口減少が進んで衰退の道を辿ることは明白です。
コロナ禍で通常よりもすることが増えた現場
飯田)今回、発端となった保育士による虐待の話ですけれども、コロナ禍で現場はやることが増えたと言われています。その辺りも影響していますか?
駒崎)おっしゃる通りです。給食中に「黙食しましょう」ということで、保育士さんが喋らないように指導しなければならない。保育士自体も大変な労働のなか、ずっとマスクをしなければならず、同僚の顔が見えない、表情がわからない、ディスコミュニケーションが生まれてしまう……そんな状況で、現場のストレスは非常に高まったと言えるでしょう。
10年前に人員配置基準を変えることを約束した政府 ~世論の声で是正に
飯田)表に出てきた幼児に対する虐待に関し、事件として対処しなければいけないけれど、構造の部分は相当、力を入れていかないと変わらないかも知れませんね。
駒崎)そうですね。実は政府も「人員配置基準を変えよう」と10年前に言っているのです。
飯田)そうなのですね。
駒崎)約束しています。ただ、それを10年間、反故にし続けているのです。一度は「やろう」と言ったのだから、それをやればいいだけです。
飯田)10年前の約束を。
駒崎)こうした悲しい事件から気付いていただいて、「政府よ、きちんとしようよ」という世論が高まれば、政府としては「やっていこうかな」となるのではないかと思います。
飯田)世論の責任というか、メディアの責任も大きいわけですよね。
駒崎)メディアの方には、この問題にある構造部分にもご注目いただけたらと思います。
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